9話 私たちは部外者だから
久しぶりの更新になりました。
これからも不定期更新になりますが【ライトファンタジア】をよろしくお願いします!
私は長いテーブルクロスが敷かれた場所へ投げ込まれたため、外で何が起きているのかがわからない。
背中を摩りながらテーブルクロスを捲ればガラスの破片が床一面に散らばっていた。
「来るんじゃねぇぞ!!」
するとギルバートの大声が聞こえて私はサッとテーブルクロスを離す。
只事ではないのはバカな私でも察せられたので大人しく縮こまっていた。
そんな時、エプロンにしまっていた導きの書が震えて私は素早く出す。
「翠ちゃん…!」
「次のアクションが始まったね。でも安心して。こちらから何もしなければキヨカに被害は無いから」
「このアクションは何!?」
「静かに。ギルバートに怒られるよ?」
絶対私の声なんて聞こえないだろう。なぜなら外はお嬢を始めとした人間の悲鳴と謎の鳴き声、そして武器が弾ける音で埋め尽くされているのだから。
その時、私の中で点が線となってあるキーワードに繋がる。
「もしかしてアビアナお嬢の呪いが発動したの…?」
「正解。加えてキヨカが直前に想像して気付いた真実も正解だよ」
「あ……」
私はさっきのフラッシュバックを思い出す。
お嬢の幸せそうな声の次に浮かんだ魔物の姿。それを見て私はとある仮説を立てたのだ。
アビアナお嬢から魔物呼びのフェロモンが出るのは自身が幸せな瞬間になった時ではないのかと。
ゼインが初めて呪いが発動した時は家族全員でピクニックに行っていたと話していた。それもアビアナお嬢にとっては幸せな瞬間。
そして今も好きな人に好きな人はいないという乙女にとっては安心することを知って幸せに繋がったのだ。
「いやああああああ!!」
「泣くんじゃねぇ!お前には護衛が付いているんだから胸張って笑ってろ!!」
「お父様お母様お兄様ごめんなさい!アタクシが…アタクシが…!」
「チッ」
テーブルの外からお嬢の泣き叫ぶ声が聞こえる。自分が呼び寄せてしまった責任でパニックになっているのだ。
私は助けなきゃと思う反面、怖くて動けない。ここで待機していればいずれ流れは終わって静かになるはずだ。
幸い私の存在は魔物に気付かれてないのか、ギルバートが守ってくれているのかこちらに来る様子はない。
『辛いだろうがこれも印象的なシーンの1つとなる。物語においても重要なことだ。ストーリーテラーは綺麗なシーンだけを作るのではない。汚いシーンも辛いシーンも埋め込まなければ本とはならないんだ』
初めての本の世界でレイドが教えてくれた言葉が頭に響く。
当時はクラウンがティアさんが亡くなったことによって草原で泣き叫んでいるシーンだった。
ならこれも1つのシーン。私は待つだけ。
「行ってみたら?」
「……え?」
「助けたいって思っているのなら行ってみたら?この本のあらすじを知らないキヨカなら躊躇なく行けると思うけど」
「な、何言っているの?翠ちゃん。そんなことしたら物語の影響だけじゃなくて私にまで」
「でもキヨカはこのまま泣き叫ぶ声を聞きながら黙って待っていられるの?」
翠ちゃんの言葉に私は肩を小さく揺らす。今も響いているアビアナお嬢の声と部屋の物が壊れていく音は私の恐怖を太らせるだけではなく息が詰まるほどに苦しかった。
いくらギルバートがいるとはいえ、怖いし呪われている自分自身を恨むだろう。
私はアビアナお嬢ではないのにまるでお嬢になった気になってしまう。
翠ちゃんに甘えて良いのならこの気持ちを吐き出すようにここから飛び出したい。
「酷い音だね。こっちまで可哀想になってくる」
「………」
「キヨカ、どうする?」
助けたい。辛い声が過去の私とリンクする。
「キヨカ」
でもダメだ。聞いちゃいけない。私は歯を食いしばって浮かぶ導きの書を掴んだ。
「翠ちゃんごめん。私たちは部外者なの」
「え?」
「この2人の物語を邪魔するために来たんじゃない。確かにストーリーテラーは物語を完結させるために誘導しなきゃならないけど、今は違う」
………言っちゃった。こんなこと言ったら嫌われちゃうかな。ウザいって思われるかな。せっかく友達ができるかもって思ったけどやっぱりダメかもしれない。
私、人付き合い下手くそだ。それでも翠ちゃんの考えには納得できなかった。
この世界に来てずっと翠ちゃんの指示に従っていたけど流石にこればかりは従えない。
私は導きの書にしがみつくように震える指へ力を込めた。
「仮に私が助けなかったせいで物語が狂ったらその度に私が修正するから!ちゃんとハッピーエンドにするから!だから、だからもう指示しないで!!」
一方的にそう言って私は導きの書を閉じた。そしてテーブルの裏に頭をぶつけながらエプロンを外して導きの書に巻き付ける。
勝手に開かないように。
もうこれで私が得れる情報源は無くなってしまった。あらすじも読めないし登場人物の詳細も知れなくなる。
けれどこのまま翠ちゃんに頼っていたらこの物語を壊してしまいそうな気がした。
私はエプロングルグル巻きにした導きの書を押さえつけるように手を乗せる。
そして目を強く瞑ってただこの時が過ぎるのを待っていた。




