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ライトファンタジア 〜本の世界に入った私たちは未完結を執筆する〜  作者: 雪村
2冊目 ただ1人に愛されし哀れな令嬢の本
27/30

8話 恋と愛による引き金

「オーッホホッホッ!屋敷内の監禁生活、暇ですわ〜!」

「オーホホホホッ!私もお嬢ごっこ飽きましたわ〜!」

「オホオホうるせぇんだよ!!テメェは早く床磨きを終わらせろ!」


 アビアナお嬢がクズ兄から外出禁止を言い渡された2日後。遂に暇の限界へ到達したようだ。


 私もアビアナお嬢を退屈させないようにありとあらゆる遊びを考えたのだが、全て危なく教育にも悪いということでゼインに却下されてしまった。


 そして辿り着いたのは私もお嬢のお友達としてお嬢様になりきる遊びだった。

 最初はお互いに盛り上がったけど、今ではもう適当になってしまっている。


 とりあえず高笑いしていれば良いお嬢様ごっこは潮時だろう。


「ねぇギルバートも何か面白い遊び考えてよ。お嬢が暇で暴れ出しちゃうよ?」

「今ぬいぐるみのほつれを直してんだよ喋りかけんな!そもそも暴れ出したら俺が締め倒してやる」


 流石現役の傭兵だ。荒事の自信は半端ない。

 まぁクマさんのぬいぐるみを手に持って針を刺す姿は傭兵感無いけど。


 アビアナお嬢からぬいぐるみの修復を頼まれていた時は本当に驚いた。


「あっ!じゃあギルバートの話聞きましょうよ!傭兵なら色んな話題持っているでしょ?」

「あら良いわね!ギルバート、早く貴方のこと聞かせなさいな!」

「うるせぇ誰が聞かせるか!」


 チクチクチクチクと高速で針を動かすが一切ブレのない動き。

 私は感心した声を出しながらも床磨きの体勢でギルバートに近づいた。


「ズバリ傭兵って儲かるの?」

「依頼次第だ」

「今までメイドになる依頼を受けたことは?」

「あるわけねぇだろ!」

「アタクシ、ギルバートの初恋が聞きたいですわ〜!」

「もうお嬢ったら〜。こんな奴に甘い初恋なんてあるわけないですわよ〜」

「バカにすんじゃねぇ!俺にだって初恋くらい」

「「あったのね!?」」

「……クソッ」


 私は床から見上げるように。アビアナお嬢はベッドの上で別のぬいぐるみを抱きしめながらギルバートに眼差しを向けた。


 ギルバートは苦虫を噛み潰したような顔になり、裁縫の手を止める。


「……俺に剣を教えた師匠だ。今となっちゃ単なる年上への憧れだったとも思っているがな」

「あら〜」

「激しく雑巾擦りながらニヤつくな!そういうテメェはどうなんだよ!?」

「私?私は無いよ。だって他人からとことん嫌われていたからね」


 雑巾の手を止めた私は眉を下げて笑う。


 そんな私だからこそ純愛の物語には興奮するし聞くだけでも幸せになるのだ。

 錬金術師の本でクラウンから聞いたティアさんとの馴れ初めとかも聞いていて楽しかった。


 私を見てギルバートはばつが悪い顔をする。根は優しい奴なんだよな。


「私にその話題は禁句ね。アビアナお嬢は初恋とか……」


 早く標的を変えようと私はベッドにいるアビアナお嬢に話しかける。

 するとアビアナお嬢は頬を膨らませて先ほどよりも強くぬいぐるみを抱きしめていた。


「アビアナお嬢?」

「やっぱり男の人は年上の女性が好きなんですの?」

「あ?んなの個人差だろ」

「ふ、ふーん」

「まぁでもガキの頃の初恋は大抵年上だろうな」

「ふーん…」


 私はお嬢の態度を見て、ピーンと頭上で何かを鳴らし口角を上げる。


「ギルバート。そのお師匠様とはどうなったの?」

「どうにもこうにもならねぇよ。俺の指導が終わった後はどこかに旅立ったからな。何しているかもわからねぇ」

「あらそうなの!?ならあーたはその人と結ばれたわけじゃないのね!?」

「結ばれるわけねぇだろが!俺は生涯孤独だ!」

「オーッホホッホッ!」

「何笑ってやがる……」


 なるほどそういうことか。私は弧を描く口を見せないように必死に床を磨いていく。

 もうこの部分だけでも50回は擦っているだろう。


 それにしてもお嬢、生涯孤独の意味わかっているのかな?教えるつもりはないけど。


「ふふん!愛とは素敵ですわね!」

「お嬢にも良い人が現れますよ!案外近くにいる可能性も……」

「お、オーッホホッホッ!キヨカ一体どこを見ているのかしら〜!」


 顔を真っ赤にしてぬいぐるみをこれでもかと言うほど握り潰すアビアナお嬢。

 私はニヤニヤしながらも微笑ましくお嬢を眺めた。


 この子には幸せになって欲しい。こんな家から出て自分がしたいことをしてずっと笑っていられるような人生を……。


「っ」


 恥ずかしそうにするアビアナお嬢を見た私の脳内に謎の声が聞こえてくる。


 またフラッシュバックなのだろうか。しかし今回は先日ゼインと話している時に見たものとは少し違う。


 そしてこの謎の声はお嬢のものだ。何を言っているのかは上手く聞き取れないがその声色は幸せと温かさに満ちていた。


 そして次の瞬間、声は消えて魔物が襲いかかる光景が浮かぶ。


「まさか…」

「テメェら伏せろ!!」


 私の中でこの物語の重要な部分を掴みかけた時、ギルバートの大きな手が私のエプロンを掴んでそのままテーブルの下へと投げ飛ばす。


 その数秒後、アビアナお嬢の悲鳴と同時に私室の窓ガラスが全て割れた。

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