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ライトファンタジア 〜本の世界に入った私たちは未完結を執筆する〜  作者: 雪村
2冊目 ただ1人に愛されし哀れな令嬢の本
26/30

7話 ハッピーエンドへのヒント

「お嬢様はとある呪いに掛かっています。それは魔物を活性化させて自身へ呼び込む呪いです」


 クズ兄が去った先を遠い目で見るゼインはそう呟く。


 アビアナお嬢の呪いは病気のようなものではなかったのか。魔物を呼び込むなんて、呪いという表現に相応しい効果な気がする。


 私は黙ってゼインの話を聞いた。


「数年前、お嬢様がご家族全員でピクニックに行った日でした。私も同行しましたがそれはとてものどかで笑いの絶えないひと時だったんです。しかし日が暮れて屋敷に戻る最中、興奮状態の魔物が我々の馬車を襲いました」


 突如、私の脳内にあのフラッシュバックが起こる。ゼインが見たその日の記憶を辿るように鮮明に映し出された。


 初めて見る魔物という存在が1つの馬車を囲う景色。泣き喚く小さな女の子と共に怯える少年。そんな子供達を抱きしめる母親らしき女性。


 私はその光景を上から眺めているような感覚に陥った。


「けれどヴァリア家の現当主で剣の達人とも呼ばれる旦那様……つまりお嬢様のお父上のお陰で誰も死なずに帰って来れました。しかし旦那様は魔物に異変を感じ、専門家を呼び調べさせたのです」


 ゼインは片手を胸の前に持ってきて強く拳を握る。そして悔しそうに歯をギリっと鳴らした。

 その音を合図に私のフラッシュバックは終わってしまう。


「調べたのち、魔物はとあるフェロモンによって呼び寄せられたとのこと。そしてそれに充てられ興奮を起こしてしまった。更にそのフェロモンを放出したのはアビアナお嬢様という結果が出ました」

「それって根拠はあるの?フェロモンなんて目に見えないものじゃん!」

「勿論、専門家の妄想ではありません。ちゃんと血液検査を元に出た結論です」

「何が原因で…」

「生まれつきというべきでしょうか。この結果を機にヴァリア家の人間はアビアナお嬢様を人として扱わなくなりました。誇り高き家柄で災いを呼ぶような者が居るのですから」


 あの歳で人として扱われない人生を送るのは壮絶過ぎる。

 それに生まれつきと言われてしまえばどこへ怒りをぶつければ良いのかわからない。


「それは治らないの?せめて抑えるくらいは…」


 私はゼインにそう尋ねると彼は力なく首を横に振る。


「今のところ見つかっていません。それにお嬢様の力が発揮されるタイミングもわからないのです。加えてフェロモンを放つ本人も気付けない。最初こそ、旦那様も奥様もお嬢様を救おうと必死でした。しかし今となってはもう」


 ゼインは乾いた笑いを出すと切り替えるように咳払いをする。

 そして背筋を伸ばして私の方へ振り向いた。


「あの方には味方がいません。だからこそ私だけでも味方になってあげたいのです」

「それは私やギルバートもだよ」

「ありがとうございます。さぁ、戻りましょう」


 私は頷いてゼインと共に屋敷へ戻っていく。その間、静かにこの本の結末を予想していた。


 今回は呪いが掛かった令嬢の本をハッピーエンドにしなければならない。

 となると呪いの解呪が王道だろう。


 この後のアクションは想像もつかないが…。


「せめてあらすじが見れたらなぁ」

「どうかしましたか?」

「ううん!何でも!これからお嬢が退屈しない遊びを考えていただけ!」

「……騒がしいものや周りを巻き込むものはやめてくださいね」


ーーーーーー


 その後の業務は滞りなく行われた。


 アビアナお嬢もクズ兄にああ言われることが慣れっこなのか特に変わった様子も見せていない。

 ギルバートは腑に落ちない雰囲気を纏っていたが、それを外に出すことはなかった。


 そして現在私は業務が終わり、帰った自分の部屋で土下座をしている。


「お願いします。あらすじを読ませてください」

「そんな土下座しなくても…」

「じゃあ良いの!?」

「ダメ」


 我がマイフレンド(仮)で司書の翠サマに土下座おねだりをしたが秒で断られてしまった。


「お願いだって〜本当に次の展開とかわからないんだも〜ん」

「キヨカが持つ並外れた想像力さえあれば大丈夫だよ。それに昼間ゼインからアビアナの呪いについて聞かされた時どう思った?」

「どうって?」

「1つの謎が解けた快感があったようにうちは見えたけど」

「うっ…」


 頭の中に翠ちゃんが目を細めて私を見つめる姿が浮かんでくる。絶対図書館ではそんな顔をしているのだろう。


「まぁ、無かったわけじゃないけど」

「事前のネタバレと共に物語を歩むよりも楽しいでしょ?」

「……まぁね」

「キヨカって可愛いね」

「でもでも!私達はお仕事で執筆しに来ているから楽しさよりも安定さを求めた方が良いと思います!」

「楽しく仕事が出来た方が良くない?事務的にやるのはロボットに任せるのと同じだし」

「図書館に執筆ロボットが居るの?」

「例えだよ」


 導きの書は土下座から頭を上げた私の顔を覗き込むように近づいてくる。

 きっと私はムスッとしているのだろう。


 そんな私に翠ちゃんは笑うとまた目の前に導きの書を浮遊させた。


「わかった。キヨカも頑張っているしヒントをあげる」

「ほ、本当!?」

「うゆ。ちなみにキヨカってこの物語のハッピーエンドはアビアナの解呪だって予想しているんだっけ?」

「うゆ!」

「それはハズレ。根本的なものを解決することだけがハッピーエンドじゃないよ。これが1つ目のヒントね」

「えっ待って」

「2つ目は近々起こるアクションについて。あらすじを要約すると……屋敷で混乱が起きてある人物が牙を剥くよ」

「混乱?牙?」

「うちが言えるのはここまで。後はキヨカの想像力で頑張って」


 結末については大した収穫を得ることは出来なかったが、アクションについては色々と考察する必要がありそうだ。


 私は内容を理解するためにアホ面で座り込む。翠ちゃんは考える私を見て静かに導きの書を閉じた。

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