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ライトファンタジア 〜本の世界に入った私たちは未完結を執筆する〜  作者: 雪村
2冊目 ただ1人に愛されし哀れな令嬢の本
25/30

6話 メイド傭兵とクズ兄

 翌日。アビアナお嬢はいつも通り高笑いをし、いつも通り明るく私達に振る舞っていた。

 昨晩のことはもう吹っ切れたのだろう。本当に強い子だと思う。


 そんなお嬢と共に今日はバカデカい屋敷の庭を散歩する。

 ゼインとギルバートも連れてお嬢の案内を聞きながらゆったりとした時間が流れていた。


「ここは春になると真っ赤なお花が咲きますの!まるで鮮血のようでとても綺麗なんですわ〜!」

「物騒な例えすんじゃねぇよ…」

「アビアナお嬢!この木の実って食べられるんですか?」

「アイザワキヨカ、それは人間が食べていい物ではございません。なので伸ばしているその手を下げてください」

「オーッホホッホッ!さぁ次はそっちに行きますわ!着いてらっしゃい!」


 アビアナお嬢は隣に居たギルバートのスカートを掴んで引っ張り出す。

 もう諦めた様子のギルバートは特に抵抗することもなくお嬢に引かれていた。


 そんな2人の様子を私とゼインは後ろから眺める。


「アビアナお嬢楽しそうで良かった!」

「ええ。2人が来てから一層笑顔が増えました。やはりあの方は笑っていなくては」

「……ゼイン。昨晩の話はギルバートから聞いた?」

「使用人達の悪質な行動の話ですね。勿論です」

「あれって頻繁に起こっているの?」

「残念ながら」

「何でそこまでして…。まさか誰かが使用人達に指示しているとか?」

「確かにその可能性はあるかもしれません。しかしこういった弱い者に対しての差別はここら辺では当たり前なのです。アイザワキヨカは異国の出身でしたね?貴方の国にはこういった差別は無いのですか?」

「無いわけじゃないけど…」


 いじめや差別は見える所でも見えない所でも起こっている。

 それを「無くそう」と声を上げる人達も居るけど、現状はあまり変わってなかった。


 いつの時代どの場所でも心が傷つく行動は平然と起きている。


 私は興奮しながら庭の解説をするアビアナお嬢を見て、前に添えた手に力を込めた。


「聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょう」

「アビアナお嬢がヴァリア家で愛されない理由。単純なものでは無いんでしょ?」

「………」


 このタイミングならゼインから呪いについて聞けるかもしれない。

 翠ちゃんが教えてくれないのなら自分から聞くだけだ。


 物語の流れに沿ってわかるより事前に知っておいた方が安心する。


「確かにアイザワキヨカにも話しておいた方が良いかもしれませんね。今後のためにも」

「まさかギルバートは知っているの?」

「彼は護衛役なので大まかには話してあります。……現状は護衛よりも不良メイドという感じですが」

「アハハッ、確かに不良だ!」

「貴方も同類ですよ。手を前に添えるようになったのは褒めますが、その足を閉じなさい」

「はい…」


 私は両足をピッタリとくっ付けて正しい姿勢を作る。

 スカートが長いから多少足を開いてもバレないと思ったけど、ゼインの目では隠し通せないようだ。


 ゼインは小さくため息をついてアビアナお嬢に顔を向ける。

 すると何かに気付いたように早足で進み出した。


「オーッホホッホッ!……あっ」


 私もゼインに着いていくと見知らぬ誰かがアビアナお嬢とギルバートに近づいているのがわかる。

 厳しそうな表情をした私と同い年くらいの少年だ。


 お嬢もその人物に気付いたようですぐさま姿勢を整えるとスカートを摘んで挨拶をした。


「ごきげんようお兄様。会えて嬉しいですわ」

「お、お兄様?」

「頭を下げなさい」


 私はポカーンとしてしまうがゼインの声にハッとしてお辞儀をする。

 そしてその状態のままお嬢とその兄の会話を聞いていた。


「アビアナ。ここで何をしている?」

「えっと、お散歩ですわ。ずっと屋敷の中に篭っていたら体調が悪くなりそうで」

「出歩くなと言われているはずだ。お前の体調など知ったことか。まさか普段から外に出ているわけではないだろうな」

「その…」


 何こいつムカつくんだけど。アビアナお嬢のことを知らないのではなく知る努力をしろよ。

 私は兄と自称するクズにイラついて段々と閉じた足を開かせていく。


「最近ヴァリア家の領地内で魔物の活発化が見られている。お前が外に出ているからではないのか?」

「ご、ごめんなさい…」

「お前の都合で我々を傷つけるというのか!!」

「っ…」

「アビアナ。お前は自分の呪いを軽く見過ぎだ。以前の暗殺の件で傭兵を雇うことは許可したが、それはあくまで形に過ぎない。自分自身が持つ力は忌まわしいものだと何度言ったらわかる?」

「お兄様…」

「自分は殺されて当然の存在!そう思えと何度言えばわかる!?」


 冷たくも鋭い言葉が聞いている私にも刺さる。私でも辛いということはアビアナお嬢はこれ以上に苦しいはずだ。


 そして、お嬢が外に出たことで魔物が活発化。自分自身が持つ力は忌まわしいもの。

 そのキーワードで呪いについて言っているのだと察する。


 けれど兄が妹にそんなことを言って良いわけがない。私は怒りに震えて開いた足を踏み込む。


 しかし私以上に起こっているメイドが目の前にいた。


「テメェ……」

「ん?そこのお前は確かゼインが推薦した傭兵だな。何だその格好は。なぜ男がピチピチのメイド服を着ている?」

「んなことはどうだっていい。どうしても理由が聞きたいなら自分の妹に聞くんだな」


 私は前方から溢れ出す殺気に顔を上げる。それはゼインも同じようだ。

 しかし現役の傭兵が出す恐ろしい殺気に私達は動けなかった。


 このままではメイド傭兵によってクズ兄が殺されてしまう。


「……チッ」


 しかしギルバートは何もしなかった。


 舌打ちして自分の殺気を抑え込むように深呼吸すると、私よりも綺麗なメイドの姿勢になりアビアナお嬢と向き合う。


「戻りましょう。お嬢」


 そしてクズ兄へ軽くお辞儀をすると私達を置いていくように先に歩き出した。

 アビアナお嬢もすぐさま目を擦って兄へ挨拶をし、小走りでギルバートを追いかける。


 そんな2人に背を向けたクズ兄は低い声でゼインに声を掛けた。


「ヴァリア家の次期当主である僕に殺気を向けたことは見逃してやろう。ただし、今後アビアナを絶対に外には出すな。屋敷内の移動は許可しているのだ。これが守れないのであれば部屋から出ることを禁ずる」

「かしこまりました」

「それと呪いに何か異変が起きたらすぐに知らせろ。殺す準備はいつでも出来ている」


 クズ兄は淡々とそう告げると私達の前から去っていく。

 私はそんなクズの背中に向けて中指をゆっくりと立てた。

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