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ライトファンタジア 〜本の世界に入った私たちは未完結を執筆する〜  作者: 雪村
栞 〜新人ストーリーテラーと新人司書〜
19/30

次なる世界へ

 クラウンの世界から帰ってきた数日後。私はハクレイさんに呼び出されて準備フロアにやってきた。


「こんにちはキヨカ。ここでの生活はどうですか?

「もう最高です!食費や電気代の心配しなくて良いし、何より安全だし!ベッドもフカフカで何時間でも寝れそうです!」

「ふふっ、気に入ってもらえて良かったです」

「それで呼び出しの内容って?」

「お仕事ですよ。数日間の休息を取らせたのでそろそろ次の本に向かわせたいなと」

「ま、またクソ上司とですか…?」

「いいえ。今回は彼女を付けます」


 ハクレイさんは準備フロアの扉に顔を向けると、ちょうどエレベーターが到着する。

 そこから出てきたのはマイフレンド(仮)の翠ちゃんだった。


「翠ちゃんと一緒に行けるんですか!?」

「実際に本の世界に行くのはキヨカだけですよ。彼女は司書なので」

「あ、そっか」


 ハクレイさん達司書はストーリーテラーのサポートをするために図書館で指示を行う。

 執筆のヒントを与えるのもそうだが、知らない世界で混乱しないように生活面などを支える役割もあるらしい。


 クソ上司レイドが言っていた。


「まぁでも導きの書で話せるし一緒に行くのと同じだよ。よろしくねキヨカ」

「そうだよね!こちらこそよろしく!」

「うゆ」


 初回の仕事は心労が凄かったけど、今回は楽しんでやれそうな気がする。

 翠ちゃんってレイドみたいにクセの強いタイプではなさそうだし。


 私が手を差し出せば翠ちゃんは小さく笑って握り返してくれた。


「目的の本はこの前と同じ台座の近くに置いてあります。期限は無し。付箋が貼られている所からの執筆をお願いしますね」

「はい!」

「そして翠。決してキヨカを傷つけることはしないように」

「そんなことしませんよ。ハクレイ先生」


 翠ちゃんは呆れたようにため息をつく。

 前回もレイドに同じようなことを言っていたけれど過保護過ぎないだろうか。


 けれどその忠告のお陰でレイドには傷つけられることなく、苛立つだけで終わってくれたのかもしれない。


「そういえばクソ上司はどうしたんですか?」

「レイドなら蕩けるまで甘やかした後、次の本の世界へ向かいました。今回の本は戦争地帯ですね」

「せ、戦争地帯!?」

「安心してくださいキヨカ。今はまだそんな危ない場所には行かせませんよ」


 でも“まだ”って言ったんですけどこの人。ということはいずれは行くことになる可能性も…。


「ふふっ。それでは2人ともよろしくお願いします。詳細は翠に任せましょう」

「わかりました。頑張ります」


 ハクレイさんはハイライトの無い目で微笑むと準備フロアから出て行く。

 去り際に翠ちゃんをジッと見ていた気がした。


「改めてよろしくね。とりあえずキヨカの準備をして図書館の広間に向かおうか」

「了解!今度の世界はどんなやつなのかな?」

「それは本に入ってからのお楽しみで」


 私は翠ちゃんをエレベーター前に待たせてレイドに教わった準備をする。


 どこにでもあるようなワイシャツとズボン。その上に書店員のようなエプロンを着る。

 そして最後に私専用に置いてあるサッチェルバッグを持ち、端にはハクレイぬいぐるみを付けた。


「行こう!」


 そのまま翠ちゃんと共にロビーを出て無数の本が存在する図書館へ向かう。


「この前ハクレイ先生から聞いたんだけど、キヨカって凄い想像力の持ち主なんだね」

「え?そうなの?」

「自覚無し?」

「だって初めて言われたし…」


 自分の想像力がどれくらいかは全然わからない。それにハクレイさんにも言われてないから首を傾げるしかなかった。


 そんな私に翠ちゃんは「そっか」と呟くと図書館の遠くの方を見つめる。

 そして口角を上げた後、怪しい笑みを浮かべた。


「今回の執筆、楽しいものになりそう」

「翠…ちゃん?」


 私は立ち止まって隣を歩く翠ちゃんを呼びかける。何だか嫌な予感がした。


 ハクレイさんのハイライトの無い目に映されるのとは別物の感覚。

 本能的に怖いと思ってしまった。


 しかし振り返った翠ちゃんは初めて会った時と変わらない様子でいる。


「どうしたの?」

「えっ、いや…」

「もしかしてまだ疲れが残ってるとか?それならハクレイ先生に言って日程ずらしてもらおうか?」

「ううん。大丈夫だけど……翠ちゃんは大丈夫?」

「うち?大丈夫だよ」

「そっか…」


 勘違いであって欲しい。でも私の中でハクレイさんが去り際に見せた翠ちゃんへの視線と今の笑みが繋がってしまった。


 今回は色々と油断しない方が良いかも。


 私はサッチェルバッグの紐をギュッと握り締めて台座の広間へと歩き出した。

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