表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライトファンタジア 〜本の世界に入った私たちは未完結を執筆する〜  作者: 雪村
栞 〜新人ストーリーテラーと新人司書〜
18/30

図書館の新キャラ登場

 脂身いっぱいのお肉にこれまた脂が沢山掛けられた不健康なラーメンを目の前に。

 現在、私しか居ない広い食堂で執筆頑張りましたパーティを1人開催していた。


「うまっ!!」


 ずっと精肉店前で見ていることしか出来なかったお肉を今、私は頬張れている。


「堪らん!!」


 コンビニの雑誌に載っていたジャンキーなラーメンも止まるということを知らずに啜っていた。


 実はこの料理、一体誰が作ってくれたかはわからなかったが食堂に来たら出来立てが置いてあったのだ。

 ちゃんと側には私のネームプレートが添えられていたので食べても問題ないはず。


「下手くそな料理しか食べてなかったから沁みるぅ〜」


 レイドに家事の文句を言われたこともクラウンの心を動かすために悩んだこともこの瞬間のために耐えてきたのだ。


 ストーリーテラーになって良かった。初めてこんなに美味しい料理を不安になることなく食べられている。


「余計なことを気にせず食べれるなんて最高!」

「そのステーキ、わさび醤油で食べたら美味しいかも」

「えっ何その食べ方………誰?」


 豪快にラーメンを啜っていると視界の端にわさび醤油が入った小皿が映る。

 それと同時に声が聞こえて思わず私は食べる手を止めた。


「君がキヨカだよね?ハクレイ先生に頼み事をされてここに来たの」

「そ、そうなんですね」


 そう言って私の隣に座った女の子は見た感じ歳が近そうだ。

 しかし地味な私と違いとてもキラキラしている。


 見た目もテレビに出れそうなくらいの美人さんで化粧や髪型はバッチリと決まっていた。


「はじめまして。幻想図書館の新人司書の(すい)。字はこうやって書くんだけど」

「凄いかっこいい漢字…」

「ありがとう。呼び方は好きに呼んで」

「それなら翠ちゃんで!」


 もしかしてこれって友達になるための第一歩を踏み出したのだろうか。

 レイドは友達ではなくクソ上司だから翠ちゃんが私の初友達になるかもしれない。


 そう考えると嬉しくなって私は脂身いっぱいのお肉を差し出した。


「私は藍沢清香!良ければ一緒にわさび醤油で脂身いっぱいのお肉食べない?」

「気持ちは嬉しいけど肌荒れと胃もたれが心配だから遠慮しておくね。これはキヨカが食べて」

「そ、そっか」

「今日はもう食べ終わっちゃったから無理だけど、次は一緒にご飯食べる。これでどう?」

「良いの?一緒に食べてくれるの?」

「うゆ」

「うゆ…?」


 謎の返事が聞こえたと思えば翠ちゃんは思い出したように持ってきた袋を私に差し出す。


「これ、ハクレイ先生がキヨカに初仕事お疲れ様って」

「ハクレイさんから?ありがとう!」


 気を取り直して私は箸を置くと翠ちゃんから袋を受け取る。


 ハクレイさんがくれる物って何だろう。仕事の便利グッズか私生活に役立つ物とかかな?

 私は遠慮なく袋に入っていた物を取り出す。


「え?」


 中身は1体のぬいぐるみだった。しかも袋の大きさに全く合わない手のひらサイズのぬいぐるみ。

 それにこのキャラクターどこかで見たことあるような…。


「ハクレイ先生から伝言ね。初仕事本当によく頑張りました。少しですがご褒美を受け取ってください。これで私たちはずっと一緒ですよ、だって」

「ひぃぃ!!」


 最後の言葉は聞きたくなかった。


 ラーメンで温まったはずの身体が一気に冷え、思わずぬいぐるみを投げそうになる。

 しかし祟られたら嫌だなと直前で踏み止まり、私は腕を下ろした。


「確かにこれハクレイさんだ…」

「レイドくん用も作ってたよ。でもそれはハクレイ先生がお詫びも含めて直接渡すって言ってキヨカの分はうちが持ってくることになったの」

「お詫び?」

「ハクレイ先生曰く、今回の執筆はレイドくんの苦手分野にしちゃったらしいの。だからキヨカのガイド扱いみたいで申し訳なかったってぬいぐるみ作りながら言ってた」

「そうだったんだ」

「うゆ」

「…うゆ」


 その“うゆ”って何なのだろう。どこかの方言だろうか。聞く感じ頷きと同じような扱い?


 一応私も合わせて返事をすると翠ちゃんはこちらに手を伸ばしてくる。

 そして私の口周りについた食べカスを取ってくれた。


「豪快に食べるね。良いと思う」

「ど、どうも」

「うゆ。それじゃあうちは行くね。挨拶してぬいぐるみも届けられたし」

「うゆ!翠ちゃんありがとう!今度一緒にご飯食べようね!」


 立ち上がり食堂から去っていく翠ちゃんに手を振りながらそう言えば、薄っすら微笑んで手を振り返してくれる。


 凄いクール美人な子が司書にいたようだ。でも新人って言ってたから立場的に私と近い存在なのかもしれない。

 レイドと違って翠ちゃんなら仲良くなれそうだ。


「それにしても……」


 私はジト目で手元のハクレイぬいぐるみを見つめる。ハイライトが無いのはこちらも同じ。

 よりにもよってなぜこのぬいぐるみをご褒美にしたのだろう。


「とりあえずサッチェルバッグにでも付けようかな」


 頬を突っついたり頭を撫でたりしてみると何だか感触がやみつきになってくる。


 私はわさび醤油で脂身いっぱいのお肉を食べるのを忘れてハクレイぬいぐるみを無心に触っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ