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11話 突き刺さる精神への干渉

「来てくれたかキヨカ」

「だいぶ踏ん張ったようだなクソ野郎。こっちはもう準備出来ている」

「クソ上司が踏ん張れって言ったんでしょ!?指示に従った部下を褒めることも出来ないの?」

「エライエライ」


 棒読みの褒め方に手を出しそうになるが私はグッと堪える。

 何か少しでも行動を間違えたらバッドエンドになるのではという不安が工房に入ってから出てきた。


 それくらいここの雰囲気は重い。


 クラウンは真剣な表情でいるが緊張と恐怖が伝わってくる。レイドもスカした顔しているが纏うオーラはいつもと違った。


「そうだ。作る前にキヨカの忘れ物を渡そう」

「あっそうそう。昨日忘れちゃって」

「何だそれ」

「ふふん。錬金が終わったら教えてあげるよ〜」

「は?」


 私はクラウンから勾玉を受け取りレイドにドヤ顔を向ける。

 また睨まれたが気にしない。これをプレゼントした時に彼は号泣する結末なのだから。


「もう作り始めるの?月生の血玉」

「ああ。実はあの後、なぜ前回の錬成が失敗したかを考えたんだ。レシピも手順も合っていたのになぜ強い光を放って砕けたのか」

「理由がわかったのか?」

「リズム感だ」

「え?リズム?」


 クラウンは縦に首を振ると昨日使ったヘラを手に取る。そして空中で混ぜるような仕草をした。


「この動作が失敗だったと思われる。月生の血玉が砕けたのは材料同士の繋ぎが甘かったということ。だから封じるはずの光が隙間から漏れ出してその圧力で……と仮説を立てた」

「じゃあどのように混ぜるべきなんだ?」

「こうだ」

「そ、それって」


 私は見覚えのある動きに目を丸くする。リズムと言えるのかわからないテンポ。

 動きはぎこちなくスムーズとは言い難い。


 昨晩、初めて私が錬金した時に見せた混ぜ方だった。


「いやそれリズムじゃないってクラウンが言ったんだよね!?」

「そうだ。これはテンポが一定ではなくガタツキが多い。しかし満遍なく材料を混ぜ合わせるのに最適な動作だったんだ」

「絶対嘘だよ」

「俺も最初は信じられなかったさ。でもキヨカがここを去った後にした錬金でこの動きを取り入れたところ、分離する確率が高い材料達が簡単に混ざった。きっと仮説通りの失敗だったのならこれで上手くいくはず」


 私って天才なのかもしれない。初回の錬金で月生の血玉を作る動きをしていたなんて天才そのものだろう。

 生まれてから今まで何も取り柄がなかった私が遂に…


「ニヤつくなクソ野郎」

「うるさいクソ上司」

「ハハッ、2人はこの状況でも変わってなくて安心する。怯えているのは俺だけだな」

「以前のことを考えれば当然の心境だろう。別に怖がる感情は悪いことではない」

「その感情が腕を狂わせる原因にならなければ良いのだが」


 クラウンは伏し目がちになりながら持っているヘラを握りしめる。

 しかしすぐに顔を上げて大釜の前に立った。


「完成させるか」


 その声は初めて出会った時の弱々しさを感じさせない程、勇ましく誇りを込めた合図だった。


ーーーーーー


 クラウンは見覚えのある草や初めて見る粉などを大釜に入れていく。

 他にも宝石をすり潰したり、透き通った液体を流し込んだりと手際よく作業を進めて行った。


 私は少し離れた場所で。レイドはクラウンの側でそれを見守る。


「レイド。そこにある青色の試験官を取ってくれ」

「これだな」


 高難易度の錬金術は手順や分量の時点で正解がある。だから少しでも狂えば失敗だとクラウンから教えられた。


 私のようにとにかくパワーな作り方は初心者用しか通用しない。

 だからこそ材料を入れる時点からクラウンは真剣な目つきで1つ1つを丁寧に行なっていた。


「……よし、勝負はここからだ。準備は良いな」

「ああ。思う存分クラウンの錬金をしてくれ」

「頑張れクラウン!クソ上司!」

「今からクソ野郎は黙っていろよ」


 クラウンは近くに置いていたヘラを取ると一度、私が編み出したリズムを練習する。


 自分ではよくわからなかったが他の人があの動きをすると、奇妙なリズムをしていたのだなと実感した。


「ティア。力を貸してくれ」


 ヘラはゆっくりと大釜の中に入るとクラウンの手によって弧を描いていく。

 対する私は遠くで身体を傾けながら錬金釜の中を見ようと覗き込む。


「おぉ…本職がすると違うなぁ」


 レイドに聞こえない声で呟いてしまうくらいにクラウンの動きにブレや迷いが無かった。

 リズムこそ私が編み出したものだが、その安定さは天と地ほどの差がある。


 感心してこっそり見ているとレイドがハッとしたように1歩前へ出た。


「大丈夫か?自分の意思は保てているか?」

「何とかな…」

「クラウンが片隅で感じている想いは紛れもなく偽物だ。振り払え」

「ああ」


 もしかして精神への干渉が始まったのだろうか。混ぜ初めて数分でクラウンは大きく深呼吸をしている。

 それはまるで落ち着けと自分に言い聞かせているように。


「心で感じるな、肌で感じろ。俺やキヨカだけでなくティアもお前の側に居る」

「…ああ」

「頭に響く声の言いなりになるな。お前は錬金術師のクラウンだ」

「っ……ああ」


 クラウンは少しずつ苦しさを滲み出していく。しかしレイドが声掛けする度に肩の力が抜けているようだった。


 レイドはクラウン寄り添い、ひと言ひと言を大切そうに口にしている。

 ぶっつけ本番なのになぜクラウンが欲しい言葉がわかるのだろう。


 私は無意識に両手を胸の前に持っていって強く握りしめる。手のひらには熱が籠っていて、しっとりと汗が滲み出ていた。

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