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10話 最終章へ

「うわっ!地震!?」


 翌日。朝食中に3杯目の紅茶を飲み干した時、家全体が横に揺れて私はビビる。

 隣に座るレイドも顔を顰めて潰れた目玉焼きを口にした。


「火山の影響だろう。タイムリミットが近づいてきたな。…おい、どうやったら目玉焼きをここまで黒く焼けるんだ」

「うるさいなぁ。だったら自分で作れば良いじゃん。昨日は私が活躍したんだし今日くらい家事はそっちがやっても良いと思いますが?」

「黙れクソ野郎。今日が1番大事な日だろうが」

「え?何で?」

「チッ」


 揺れが収まったのを確認した私は4杯目の紅茶を注ぎながら首を傾げる。

 するとレイドはイラついたように舌打ちしてテーブルを突っついた。


「頻繁に導きの書に記されたあらすじを読んでおけと何回言えばわかる?お前の脳みそは紅茶で埋め尽くされているのか?」

「はぁ!?紅茶以外のことも考えているし!そっちこそハクレイさんのことしか頭にないくせに!」

「クソ野郎…!」


 常に悪い目つきが更に鋭くなったのを横目に私はサッチェルバッグから導きの書を出す。

 すると以前書いてあったあらすじに知らない文章が追加されていた。


「クラウンが挫折から乗り越えるシーンが詳しくなっている?」


 最初に見た時は簡単で短いあらすじだったのに、現在は1つの短編のように詳しくこれまでの展開が書かれている。


「それは俺達が行動して執筆が進められた証だ。そのあらすじを読むにもう最終章に入っていると言っても過言ではないだろう」

「もっと早く教えてよ」

「俺は見て体験して覚えさせるって言っただろ」


 確かに図書館でそんなことを言われた気がする。適当に聞いていたから全部は覚えてないけど。


「昨日クソ野郎がクラウンを挫折から這い上がらせた。そうすれば残る行動は1つだけ」

「月生の血玉の錬金…」

「さっき地震が起こったのも最終章に突入した合図のはずだ。だからきっと今日、大きな山が来るんだろう」

「でもあれからクラウン帰ってきてないんでしょ?まさか倒れてる?」

「安心しろ。こっそり確認してきたが問題なかった。むしろ良い顔をしている」


 私はレイドから見たクラウンの様子にホッとする。それをつまみに4杯目の紅茶を完飲した。


 そして続けて紅茶を注ごうと立ち上がった時、工房に繋がる扉がガタリと開く。


 私達は音がした方へ振り向けばクラウンが真剣な顔つきでこちらを見ていた。


「2人とも今大丈夫か?」

「どうした?」

「………レイドとキヨカの力を借りる時が来たようだ。今から月生の血玉を錬金する」

「ほ、本当に!?」

「俺はレシピも知っているし材料も揃えた。後は錬金するだけなんだが、俺1人の力じゃ無理だ。精神が弱っているから余計にリスクは高いだろう」


 月生の血玉は錬金する際、精神に干渉する性質を持つと聞いている。

 それを防ぐのはティアさんが務めていた支え役。


 そんな支え役が今出来るのは、私の隣に座るクソ上司レイド。

 彼は私が破滅的な家事をしていた時ずっと手引き書で学んでいたから知識は豊富だろう。


「レイド。お前がここに住まう時に言っていた言葉を利用しても良いか?」

「勿論。俺達は月生の血玉を見たいのとクラウンの支え役として手伝いたい理由で留まっていた。月生の血玉を錬金するのであれば利用して構わない。この日のために俺は勉強してきた」

「時間も残されていない。ぶっつけ本番になってしまう」

「承知の上だ。俺は様々な旅をして沢山の経験をしている。それがきっと役に立ってくれるだろう」

「……死ぬかもしれないんだぞ?」

「死なない。なぜならクラウンが成功させるからな」


 朝食を綺麗に食べ終わったレイドは食器を持ってシンクの中に入れると私の方へ振り返る。


「クソ野郎。お前も来い」

「行くけれど私に出来ることは無いよ?」

「そんなの誰だってわかっている。でもクソ野郎が来ればクラウンも心強いだろ」

「ああ。少し離れた場所ならキヨカにも影響はないから安心してくれ」


 私が頷けばクラウンは少し顔を綻ばせて工房への扉に手をかける。

 そして「準備が出来たら来てくれ」と言葉を残して戻って行った。


「つ、遂に物語完結の時が…」

「油断するなクソ野郎。あらすじには錬金が成功してハッピーエンドと書かれているが、それがいつ狂うかはわからない。この物語は俺達の行動で執筆されている。ということは1人がヘマすればバッドエンドの道に踏み出す可能性もあるわけだ」

「そのヘマする1人がクソ上司にならないことを祈るよ」

「この中で1番ヘマしそうなのはお前だクソ野郎。錬金している時、邪魔するなよ」


 口を開けば全てがムカつくから邪魔してやろうか。私はレイドを睨んで紅茶を注ぎ込むと、見せつけるように一気飲みする。


「少しくらい思いやりって心は無いの!?この悪魔!パワハラ上司!」

「なら特別に思いやりを見せてやる。工房に行く前にクソを出すのを忘れるなよクソ野郎。紅茶5杯分を錬金中に漏らされたらそれこそバッドエンドだからな」

「はぁ!?」

「俺は先に行く。踏ん張り出してから来いよ」


 レイドは自分のサッチェルバッグを肩に掛けながら母屋を出ていく。


 何であんな奴がストーリーテラーなのだろう。ハクレイさんは採用する人間を間違えている。

 私は歯をギリギリ鳴らしながらシンクに近づいた。


「食器洗ってから行けやクソ上……」


 せめて何かを理由に怒りをぶつけようとする私だが、綺麗に洗い終わった食器類を見てスンっとなってしまう。

 ご丁寧に私が使い終わった食器まで洗ってあり何も言えない状況を作り出していた。


「ううううううっ」


 私は地団駄を踏みながらカップを洗っていく。昨日はストーリーテラーっぽかったのに今日は情けない家事担当のようだった。


「おトイレ!!」


 誰からも返事は来ないのに私は大声でそう放って個室に閉じ籠る。

 そして身の全てを搾り出すかのように踏ん張った。


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