90話 雨の中の戦闘
「いい髪色してますね」
「あ、はい! ありがとうございます。気に入ってて」
サクラは恥ずかしいのか、髪を何度か触った。
「私も名前を言っていなかったわね、私は剣聖少女ことアリア」
「俺はフェクトだ、今寝ている奴はナズナだ、よろしく頼む」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
そして私は気になっていたことがあった。それはサクラがなぜ帽子を被っていたのかだ。ここは室内であり、見た感じでは、回復術師ではなさそうな印象である。
それに突っ込んだのは、フェクトだった。
「サクラさん、なんで帽子なんか被ってるんだ? 被ってない方が綺麗なのに」
サクラは、とてつもない速さで顔が真っ赤になっていく。何か言いたげだが、言葉が出てこないのかアタフタしている。
「ゆっくりでいいから、落ち着いて。深呼吸深呼吸」
そうしてサクラは、落ち着いたのかゆっくりと喋り出した。
「私先ほどまで、回復の方をしてたんです。その際、長い髪は邪魔になるので帽子の中でまとめてました」
「そんなんですね、教えていただきありがとうございます」
そうして、サクラは部屋を後にし、私は考え事をしていた。
魔法を扱う関係の人は、ある特徴が一定数ある。それは、比較的髪が長いということだ。
髪は、魔法を扱う上では欠かせない存在である。強力の魔法を放つ際に、髪を触媒にして攻撃という方法もあると師匠から教わった。
だからそのため、髪の手入れを欠かさないのが一般常識らしい。
そこを踏まえて、私はあることを思い出していた。それは、ダークウィッチーズの魔法だ。
あれらの魔法は、基本的に髪を触媒にした攻撃ではないこと。それなのに、イデリアに匹敵しそうな魔法を出せた理由が気になってくる。
なんらかの、契約を交わした様子もなかった。それなのにどうしてか、私にはわからなかった。
「ねぇフェクト、アイツらの強さの原因ってなんだと思う?」
居るはずのフェクトから返事が返ってこない。私は、後ろを振り向いたのだ。
そこでは、力尽きたように眠る姿があった。
「寝るなら、ちゃんとベッドの上で寝なさいよね」
私は、落ちかかっている体を持ち上げ真ん中に降ろす。そうして、布団を掛け私は部屋を後にした。
廊下を歩いていて、何事もないように出入り口から外にでた私。
部屋で考え事をするより、外で歩きながらした方がまだマシだと思って、外にでたがすっかり忘れていた。
「そういえば雨が降り出したの忘れてた」
戻ることも考えたが、それもめんどくさいなっと思ったのも事実である。
私は、こういった場合自分の欲望通りに動こうと昔から決めている。私は、雨の中散歩を開始したのであった。
「雨も案外悪くないのよね」
考え事をしている際、こういう自然の音を聞いていた方が案外集中出来るというもんだ。
そうして私は、答えがでるかどうかなんてわからないのになんでか、テンションが妙に昂っているのを感じ取る。
それは、雨のせいだとでも言っておこう。
そうして考えながら歩いていると、気配感知に妙な違和感が浮かび上がるのを感じ取る。
私は、そっと腰にある愛刀に触れる。
「あなたには、隠れて仕事を遂行することはできませんか」
全身黒づくめの男が一人、目の前に現れる。
それは、なんとも異質な存在だと頭が勝手に認識した。
「お前は何もんだ? ここの住人って訳でもなさそうだが」
「あなた様に名乗れる名前はありません、今はただ任務を遂行するため、お命いただきます」
どうやら本気のようだ。勝てないと直感していても私を邪魔だと判断する辺り、仕事に誇りを持っているようだ。
「何もせずに殺されるっていうのもいやなんでね、全力で抵抗するまでだ、この愛刀でね」
相手にとってはこの状況、最悪とは言い切れないであろう。雨であり暗闇だ。私の予想が正しければ、相手の方が有利条件である。
「殺抜刀」
いつの間に!? それが私が思ったことだ。いつの間にかに完全に間合いに入られている。
このままでは、体を斬られてしまうのが誰でもわかっているこの状況。やはりコイツは、そういう仕事なのだろう。
「でも甘いね! 私はそれでは死なねぇよ!」
即座に剣を抜いて、技を防御する私。すぐさ消えるがそれも想定内だ。
「後だろ?」
後ろからの攻撃は、見事に見抜かれ一瞬躊躇しているのが伝わってくる一撃である。
「それでも躊躇せずに振りかぶれ、それの方がまだマシだ」
加速系統の魔法で即座に離れ、振りかぶった瞬間を見計らってを勢いよくぶん殴る。
相手は、壁によせてあった木箱に吹き飛んだ。その衝撃で、木箱は壊れ壁に思いっきりぶつかる。
「立てないのか?」
私は余裕の笑みを浮かべながら、そう言った。男は立ち上がる様子はないが、気絶していないのもまた事実である。
「まだ、私は任務、遂行、できていない」
ほぼ執念に近しいものを感じ取る。それが活力になっているのか立ち上がる男。
ふらついて入るものの、それでも目は死んでいないのも事実だ。
「まだやれるな、さすがは殺し屋ってところか」
「なんだバレてたのか、それは仕方ない、やはりあなたも殺さないといけない」
加速系統の魔法か。命を燃やして向かってくるのがわかる。その瞬間、私は重大なことを見落としていたのをこんな形で思い出したのだ。
それを確かめたいという衝動は抑えきれなかった。
「悪いけど、遊びはここまでだ」
「何を言ってやがる、まだ始まってすらないんだ!」
私は、心臓に刃を刺した。そしてそれを抜き取り、血を払う。
「私に勝てるほどお前の実力はないよ」
そう言って私は、その場を離れた。ある場所に向かう途中、私はこの事を魔法界の方に連絡を入れる。
流石はイデリアが指揮しているだけのことはある。とてつもない迅速の速さで正直言って驚きを隠せなかった。
「着いた、ここにアイツらが居るのね」
そう言って、厳重に警備されている支部にはいっていくのだった。




