5話 初クエストと友達と呼べた初めての存在
キャンシーとの食事は滞りなく終わった。年齢が一回り離れていたことで、話があうか心配ではあったが、それは杞憂に終わりホッとする。
「私の分までごちそうしていただいて申し訳ないです」
「え、いいよいいよ、ほとんど私の食べたものだし。それに、クエスト受給の依頼も受けられたんだし結果オーライでしょ!」
そう言った私はキャンシーと世間話しつつ料理店を後にした。
「手荒なまねしてしまって申し訳ない。最近アイツらはあんまり仕事に出てなかったから動かしたかったんだ」
ギルドマスターは正直に告白した。
「で、報酬は準備できた?」
あまり興味がないのですぐさま話を切り替えた。
そしてその後、ダイナール二枚と金貨六枚が出てきた。
「ありがとうございます。また来ます」
そう言って出て行こうとした直後のことである。
「剣聖様、遺族の方々が感謝されていました」
「冒険者の遺体が手元に戻ってくることは少ないからね。ここの冒険者たち弱いんだから鍛えるように伝えるのをオススメするわ」
そう言ってギルドを後にしたのだった。
その後、昼頃に予約しておいた宿屋で一泊を過ごした。
久しぶりのベッドは気持ちよかったのか、すぐに夢の中に堕ちていくのであった。翌朝、目を覚ますと陽の光がカーテンからチラチラと見えていた。
まだ朝は少し肌寒く、ベッドから起き上がるのを抵抗されつつ無理に起き上がる。
昨日のうちに買っておいたパンをボックスから取り出しつつ、準備を始めた。今日は、昨日を頼まれていたオーガ五匹を討伐しにいくのだ。
魔法でマップを展開しつつ、目標の場所に目印をつけた。
そこは、ここから少し離れた先にある、山道である。岩肌が出てきておりゴツゴツとした山々が広がる場所に生息している。
箒に乗って飛び出して行った。
もちろん門番の審査を受けてから、飛び出している。審査を受けなかった場合、罰金および禁固刑が与えられるからだ。
「権力を行使すれば、すぐに揉み消せるけど、それをやったら最悪だしな」
なんてぼやきつつ、箒を飛ばしていた。
少し分厚目の上着を着てきて正解であった。もう春だというのに、山々の上の方には、まだ雪が残っているのが確認できる。
その時、頭の奥底から母の声が聞こえる。
(アン、聞こえるわよね。見たわよ新聞)
(あーあれね)
(あんたね、何最初から飛ばしてんの、もっと落ち着いて旅は出来ないの)
お母さんの小言が胸に突き刺さった気分だ。
(ねぇ聞いてるの、今何してんの?)
(聞いてるよ。今は、オーガ肉の採取クエストを受けて生息地に来たとこ)
(ふーん。どうせお店のお肉、食べすぎて受ける羽目になったクエストね)
さすがは私のお母さんである。簡単に見透された気分だ。
(そういうわけだから、また何あったら連絡してね)
そう言って逃げるようにテレパシーを切断した。
そうしているうちに、だんだんと暖かさを感じられるほど太陽が登ってきている。
気配を探る。
「いた」
おそらく群、五匹のオーガの気配がする。
「さっくと終わらせますか」
私は上空から一気に降下し、地に降りた。
辺りの地面は、雪はあまり残っていない。岩肌でゴツゴツしているがそこまで歩きにくいわけではない。
目の前から歩いてくるオーガに向かってにこやかな笑顔であいさつをした。
「やぁオーガの皆さんおはようございます。早速で悪いのですが、路銀の足しになっていただきます」
オーガが武器を構え終える瞬間には、全員の首と体は離れていた。
「はい終わり、満遍なく使わせていただきます」
五匹の群の血抜き、解体を終えたのはそれから数時間後のことだった。
解体したお肉は、鮮度が命。すぐさまボックスにしまっているためとても良い状態だ。
「洗浄もしてあるし寄生虫の心配もない。帰りますか」
右手首に魔力を込め、ブレスレットの装飾になった箒を元に戻す。
そうして何事もなく帰路に着くのであった。
朝、ほとんど人目についていなかったが、やはり昼間になると人通りが多い。ものすごくうわさをされているような気がする。いやされている。
「あの新聞…ほんとうに伝達が早いわ」
なんて愚痴を溢したくなるほどだ。
あの新聞というのは、大陸新聞である。全ての国、村に支社があると言って過言ではないほどの大手新聞会社である。
特別夕刊と称して、大々的に私が類を見ない速さで偉業を成し、遂げたと載っていた。
今朝の新聞では『定食屋にて冒険者を撃退!!』と書かれた始末である。
アリアは、頭を少し抱えつつギルドに入る。
「あ、お帰りなさい! クエストの方は終わりましたか?」
入るとそこには、キャンシーが出入り口近くのクエスト掲示板で作業しているところだった。
「クエストクリアしたよキャンシーさん。あの、依頼されたものを出したいんだけど」
「すぐに案内しますね。クエストの方お疲れさまでした」
案内され、解体したオーガの毛皮とお肉を取り出す。鑑定魔法で、鑑定をするからすぐにお金が用意された。
「オーガ肉は一体につき銀貨二枚となっております。今回、五匹分の報酬として金貨一枚になります」
私は、勢い任せに思い切った行動に出てみた。いつものトーンより明るめな声で食事のお誘いをしてみたのだ。
「また夜ごはんを食べに行きませんか?」
周りにいた冒険者たちは、豆鉄砲を食らった勢いでこちらを見つめていた。
「何驚いているの? 友達とご飯なんて普通じゃないですか」
私の疑問が混じった声にみんな同意していた。
「もう明日出発ですよね、絶対食べに行きましょうね」
キャンシーはとても嬉しそうにしていた。私は、もう一つのやりたいことを思い出し、ギルドを後にするのであった。
それは宿屋である。
部屋に帰ってベッドで休みたかったわけではない。
「家にオーガの血を送ってあげないと」
魔物の血は、魔法使いたちの研究に使われることが多い。それはすごく売れるのだ。あの店にある商品は、どれも一級品だと言われているからだ。
それがたとえ、どんなに弱い魔物の血でも。
「転送」
(お母さん、商品を送ったから代金よろしくね)
(オーガの血ね、銅貨三枚送っておくね)
そうして送られた銅貨を回収して、一息ついたのであった。
それから数時間がたった。部屋に備え付けられていたインスタントコーヒーを飲みつつ読書を楽しんでいた。
その時、気配が宿屋に集中し始めているのが分かった。
「お貴族か、めんどくさいんだよな」
この国を治める領地の奴らだ。正直に言って関わる気はない。
(キャンシー聞こえる?)
(領主様の件ですよね)
さすがはギルドの職員だ。話が早い。
(そうなんだけどさ、旅路の準備を手伝ってはもらえないかな、アイツらが居たらあんまり動けなくてさ)
(われわれのお仕事は、冒険者のサポートもお仕事のうちです、大体一カ月程度の食料を準備いたしますね)
(お願いします)
……
「キャンシー慌てて何かあったか?」
「ギルドマスター、実はこういった事情がありまして」
「よしわかった。行くのを許可する」
私は上司の会話を簡単に済ませ、ギルドから飛び出すかの勢いで、外に出ていった。
すぐさま、いろいろな場所で必要な物を買いそろえていく。
あの食べ方だったら、男性用の冒険者より多く準備した方が良さそうね。
……
その頃、アリアは宿に宿泊費を残し逃亡していた。だが、彼女を見つられた兵士、冒険者は誰一人としていなかった。
それから時間がたち、赤焼けが空に染まっていこうと言う時関所の前であっていた。
「ごめんね、ご飯の約束してたのに」
「いえいえ全然大丈夫です。はいこれ、頼まれていた物です」
ボックスからボックスに一気に移動させる。
「大体これぐらい金額が掛かっているよね」
金貨十枚を渡すと驚いた表情をしていた。
「え、どうしたの少なかった?」
慌ててお金を取り出そうとすると、慌てた声で話しかけてきた。
「いや多すぎるぐらいですよ! 金貨四枚で足ります」
「だったらこれ受け取って。それでまた会えたらご飯を食べに行こう!」
彼女が、慌てて行こうとしていたのを強引に止める。
領主様がそこまで来ているのはわかっている。どうしても私には、聞きたいことがあった。
そして、緊張しつつ彼女の名前を呼んだのだ。
「アリアさんの旅って目的があるの?」
「今はないよ、今はただあてもない旅がしたいと思ってる。それがいつしか目標を持って旅をしてても根幹は変わらないよ」
アリアは堂々とした立ち振る舞いで答えた。
「この旅がどんなに意味もない旅だったとしても私は、この旅のことを忘れない」
そうして、彼女は門番の審査を受けた。
アリアは、箒に体重を乗せ飛び立つ。多くの人に見送られながら新たな旅路に向かって行く。
今だけ無礼な言葉遣い、許して欲しいと思いつつ私は大声で叫んだ。
「アリア!! またいつかどこかで会いましょう! いい旅を」
「絶対だよ、またね!」
……
その後、豆粒まで小さくなって行くアリアを見つめて消えるまで立っていた。剣聖少女アリア、もう一度心の中で『いい旅を』と唱えるのであった。
そして彼女は、決意するのだ。
「ギルドマスター、私冒険者に戻ります」
「そうか。キャンシー、頑張れよ」
そうして、彼女もまた旅という果てなきものを楽しもうとしていたのであった。
「おいどういうことだ、ギルドマスター! なぜ剣聖は、出国してる。止めるよう言っておいただろう」
私は、最後のお仕事だと思い口を開いた。
「この紙ご存じですよね」
私が見せた紙は、ギルドマスターのサインが書かれた『冒険者緊急出国同意書』である。
「ーうぅ。そ、それは……」
何も言えなくなっていた。それは当たり前だ。この紙は、先代剣聖が定めた法律である。
緊急的に出国が必要な場合、ギルドマスターの許可があれば可能であるということである。
「ギルドマスター、明日から稽古お願いしますね」
「ビシバシ鍛えてやるから覚悟しとけよ」