81話 精霊魔物と知ることのない真実
翌朝、ある音で私は目覚めることとなった。それは、何かを叩く音である。
一定間隔のリズムで叩かれる音は、どこか癒されるような気がした。
そして、その音で目覚めたのはどうやら私だけではないようだ。
「二人ともおはよう」
テントからでると、二人がちょうどテントから出てきたタイミングと同じである。
二人とも、まだ眠たそうな顔をしているのがまだ朧げな目でもわかるほどだ。
「おはよう〜」
フェクトの眠たげな声が帰ってくる。ナズナは、テントから出てきながら、また眠りそうな勢いで地面に倒れ掛かる。
「あっぶないー」
その光景に、体が考えるよりも早く走り出しなんとか受け止める。
そして、ナズナはまた夢の中に行こうとしていた。
「おーい、起きろ」
何度か頬を叩くと、次第に目が開いていく。
「アリア、おはよう」
「はいおはよう」
そんなことをしていると、いつの間にか叩く音は聞こえなくなっていた。
そう思った瞬間だった、家の扉が開きテンツが出てくる。
「なんだ、起こしてしまったか?」
一仕事終えたような顔だ。とてもやり切ったかのような様子である。
「あ、おはようございます。いえいえ、お気になさらず」
「そうか、それなら別にいいのだが。朝ごはんを作るから、ちょっと待っといてくれ」
そう言って、家の扉が閉まった。私たちもその間、テントを片付けたりするよう、指示を出す。
そうして、片付けも一段落した頃だった。
奥の方から、とてつもない存在感の放つ魔物がいるように思えた。
私たちは即座に、戦闘体勢をとる。そうしたら、慌てた様子でテンツが飛び出してきた。
「お主ら、まだ飛び出さないで良かった」
安堵した声とは裏腹に、どこか険しい顔つきでもある。
「何がいるんだ、あの先に?」
フェクトは、テンツに尋ねるように聞いた。
「あの御神木に精霊魔物が住んでおる、ここ主ってところかな」
「はぁ!? 何言ってんの魔族じゃないの、昨日倒したやつら」
テンツは、黙り込むがそれは言葉を選んでいるような様子である。
そして、深呼吸したのち口が開く。
「アイツらは、元はよそ者だ。本来は精霊魔物の一種である木の精霊、木霊だ」
木霊、これまた厄介の魔物だ。精霊というだけあって、魔法での戦闘を得意とする魔物。
それだけじゃない、木々を操り攻撃仕掛けてくるのも特徴の一つと言えるであろう。
「でもアイツって炎系統には弱いだろ?」
「まぁそうなんだが、ここで放つのは流石にリスクが高い」
「まぁ、俺に任せてくれ」
フェクトがとても自身ありげに言う。どうやら考えがあるように見えた。
フェクトは、一瞬のうちにして一気に走り出し見えなく無くなってしまう。
「張り切ってるね、倒しても問題ないなら倒すけど?」
「別に構わんぞ、どうせすぐに新しいやつが来るからな」
それは、何度も倒したから言える言葉だろうか。そんなことを考えつつも後を追う。
「アリア、俺らの存在が邪魔なのか魔物を呼び寄せてやがる!」
フェクトの声で私は、気配感知を作動させる。精霊に反応してか、一定間隔のリズムで周波を放っているように波打っている。
「二人ともよく聞いて! 元凶を倒さない限り、朝ごはんは食べられないからね!」
これで一気にやる気を出させる。その作戦は、うまく行く。ナズナとフェクトの猛攻撃が猛威を振るう。
それに応えるかのように、精霊の方から魔力の急上昇を感じる。
「魔法をぶっ放す気か!? フェクト、こっちも魔法で応戦しろ!」
「了解! 閃雷砲」
まばゆい光の光線が発射される。速度は凄まじく、バチバチと音を立てている。
精霊の魔法も負けず劣らず、一撃を放っているが完全に後手に回っている印象である。
それだけではない、一気に魔物を呼んだためか若干の疲れを感じ取れる一撃だともいえる。
「最初から飛ばしているからそうなるんだよ!」
フェクトの一撃は、魔法を押し切り精霊に当たったのを確認する。
そのまま突っ込むフェクト、だがそれは嫌な予感もあった。
私は、不安感が拭えず、ナズナに声をかけた。
「ナズナ! フェクトのカバーに入って!」
「わかったー」
その直感は当たることとなる。次の瞬間、フェクトのカバーに入ったナズナが吹き飛んだのだ。
木々が次々と破壊して、ようやく止まった時には、ナズナは気絶していた。
「ナズナ! マジか、ゴーレムか」
「ワガマモリ、オマエタチヲトオサヌ」
木霊の声が聞こえてくる。
「上等じゃねぇか、お前は、俺がぶっ飛ばしてやる」
「フェクト、落ち着きなさい。なんかアイツ、私と戦いたい見たいよ」
フェクトの周りにゴーレムが近づいてくる。フェクトは機嫌悪そうにしているが、心を落ち着かせている。
「そっちは任せたぞ」
「そっちもね」
すぐさま戦闘は始まった。というか私なら、すぐに決着がつくであろう。
だが、それではどうやら満足しないようだ。
「へぇー、ツルの攻撃ね」
トゲのついたツルが自我を持ったかのように、襲ってくる。
絶対に近づけさせたくないのが丸わかりだ。
「はぁ……そんなことだろうと思ったわ、私の剣でさっさと消滅でもしなさい」
剣を振り翳し、飛ぶ斬撃を放つ。その一撃を耐えられるほど、この精霊には守る手立てはない。
「あんたね、木々から栄養を奪ってんじゃねぞ」
その言葉に反応するかのように、一瞬対応が遅れる。
「コレハワタシノモノダ!」
「そんなことしてる暇があったらもう少し強くなるんだな、それか相手を選ぶことだ」
まぁ、もう消滅したお前に言っても無駄か。
「フェクト、そっちは終わった?」
「当たり前だろ、一撃で終わりだよ」
「みんな、早く戻ってこいって言ってるよ! 朝ごはん冷めちゃうよ」
といつつ、もう食べ始めているナズナ。
「おいナズナ、わざと吹っ飛ばされたな!」
私は、苦笑しつつ戻ろうとする。その時だった。
「救ってくれてありがとう、君たちには感謝仕切れない」
「私は剣聖として当たり前のことをしたまでだ、あんたとも取り憑かれるなよ」
そうして、私は三人の元に戻ったのだ。
「もう行くのか?」
「あぁ行くよ、メンテナンスありがとうございました」
「ドワーフとして当然のことをしたまでだよ」
そうして私たちは、また旅を再開させるのであった。
……
「ワシでは救えなくてすまなかったな」
「気にしてませんよ、また優雅な時を過ごしましょう」
御神木と言われる木が存在する。そこには、一人のドワーフが住んでいる。
そこで優雅にのんびりと、御神木の守り人として今日も生きていくのであったとさ。




