77話 ドラゴン退治
「ドラゴン退治……国の周辺に居るの?」
正直、言葉が詰まってしまう。そりゃ、冒険者は夢を見る職業だ。
ドラゴンスレイヤーの称号ほしさに、冒険者としてデビューを果たす人も少なくない。
「居るよ。元々離れた場所にはいなかったんだけど、ここ最近活発に動くようになったみたい」
「魔法界の方に応援は頼んだの?」
ギルド長らしき人が、首を振った。こんな事態で、連携を取ろうとしないのはなんらかの原因があるからだろう。
「チッわかったわ、私たち三人で討伐しに行くわよ」
「ちょっと待ってくれ! 私も連れて行ってはいただけないか?」
奥の方で酒を飲んでいた男が、呼び止める。そしてゆっくりと立ち上がりこちらへ来る。
全身がピリつくような感覚、おそらく白銀の冒険者と呼ばれる存在だとすぐに理解した。
「申し遅れました、ダグラスと言います。白銀の冒険者です」
「これはご丁寧にどうも、私は剣聖アリアと言います」
私はダグラスと握手を交わした。
ダグラス、聞いたことはないが周りを見るに相当信頼されているのがわかる。
見た目は、三十代のおっさんでスキンヘッドだがそんなのは関係ない。
「同行には感謝しますが、必要ないです。あなたが私に勝てる要素ありますか?」
「冒険者としては先輩なのだが、それも間違っていないだろう。ただね、君の強さを見ておきたいんだよ」
一気にプレッシャーが跳ね上がるのを感じ取る。ただ、それは私も同じだ。
周りにいた冒険者たちから見たら、私たちが大きく映っているかのような錯覚を覚えるだろう。
それだけ、この男は強いということだ。
「白銀の冒険者として名乗りたくはないか? それを見極めを含めて連れってってほしい」
「特に名乗りたいって思ってないよ。肩書はただの飾りだ、強さが一番だろ、この世界では」
彼は、フッと笑っていた。
「とりあえず時間が惜しい。三人とも行くよ」
そうして私たちはギルドから飛び出して行った。門に向かう途中だった、私を呼ぶ声が聞こえる。
「剣聖様、こちらをお返しします。メンテナンスは、とっくに終わってたので」
そんなことだろうと思った。一週間もかかるはずがないのだ。
この店主が眺めておきたかっただけだ。
「ありがとうございます。それじゃね」
そうして、門外へ出て行った。反応が、より濃くなっている。抑えていた衝動が湧き上がってくるかのような勢いだ。
ドラゴンの姿は、視認はできない。ただわかることもある。
「私が目覚めさせちゃったみたいだね、死んでいた闘志をさ」
「強き者と戦いたいってことか」
「さすがは、白銀の冒険者だね。すぐに答えるなんて」
「当たり前のことを言ったまでだ」
箒に乗り込み、ドラゴンの方に進んでいく。今から会いに行くドラゴンは、眠っていたようなものだったのだろう。
それが、数日前から眠りが覚めて感情の昂りを感じていたといったところだろう。
私たちがまだ、国に着く前の時点で私たちを感じていたのだろう。それが抑えきれなくなり、そして暴れられる気になってしまった。
「実に面白いことだ。最強を潰してみろ、ドラゴンよ」
次の瞬間、その挑戦状を受けてたとうと言わんばかりにプレッシャーが、跳ね上がる。
そして、ついにこっちに向けて動き出している。
「見えた!」
後にいたナズナが、大声で知らせる。
「あれは、黒いドラゴンか。一番プレーンの奴だな」
「どんな奴が来ようが関係ない。ただ斬るだけでいい」
私は、箒を最大スピードまで一気に上げる。プロのメンテナンスを受けたことによってか、より自由自在に動かせるような気がした。
「ナズナ箒頼むな」
私は、座っていたのを辞め立ち上がる。不安定な足場だが、飛んでしまう私には関係ないことだ。
「これが剣聖の称号を持つ者の力だ!」
箒から飛び上がり、一気にドラゴンに向かっていく。剣を構え、いつでも攻撃を放てるように準備は怠らない。
ドラゴンの咆哮が、耳にダメージを与えようとするがそんなものでは、もう止まらない。
ドラゴン自身も攻撃体勢に入る。あの大きな爪で切り裂こうと言わんばかりに構えてくるのが面白かった。
「でもな、そんなのでは私は殺せない!」
勝負は一瞬の出来事だった。通り過ぎていくドラゴン。だが、それは最期の瞬間だ。私の剣は、間違いなくドラゴンを絶命させた。
大きなドラゴンの首が地面に落ちていく。それに続くかのように遅れて、図体も落ちていく。
「思ったより硬かったな。まぁ、国が無事で何よりだ」
「アリア! そんなところで突っ立てないで早く戻ってきて〜」
ナズナが泣きそうな声で呼んでいる。長時間の箒操縦ができないナズナにとっては早く戻ってきてほしいのは当然のことだ。
「今行くよ」
私が箒に戻ってくる頃には、息を切らしたナズナがなんとか箒を上空に保っていた。
「剣聖様、あれは追いつきたくても届かなそうだ。俺は、運もあってたどり着いたようなもだった。一から鍛え直すよ」
「何言ってんの、あなたは充分強いわよ。ドラゴンは、全員に恐怖してたから」
アイツに目が会った時、全身恐怖を感じていたような目が特徴だった。
それは、最初私に向けられているものかと思っていた。だがそれは違った。
遠くの三人にも、その目を向けていたからだ。
それは、ドラゴンにとって全員が恐怖の対象だったということだ。
それを私だけに向けられたものだと勘違いするあたり、私もまだまだだなと思ってしまった。
「それにあなた、ドラゴンの討伐経験あるでしょう。だからこそ、ここに居たかったんでしょう」
「お見通しか。それをくわてより完敗だな。アハハッ」
そうして、ドラゴンの回収はギルドにいた冒険者を駆り出して始まった。
私たちも、それに参加させてもらったが相当いい経験になったと言えるであろう。
そうして、この日はドラゴンの回収だけで時間が潰れ、幕を閉じたのであった。
テンションが上がって最強って言ってるのかわいい。




