75話 国の周囲から感じるきな臭さ
スカイは、緊張していても飛べる子だと私は信じている。それがスカイにとって重圧になるから言わなかった。
そして、スカイは飛んだのだ。空高く、安定してとても気持ちよさそうに飛んでいた。
私は、地上から大きな声で声援を送る。
「その調子! 楽しんで!」
スカイは、言葉を返すことはなかったがそれでもよかった。スカイが喋らない方が上手く飛べるのなら、そっちの方が断然いい。
そしていつしか、遠くまで飛んでいた。その笑顔は一生の思い出に残りそうな勢いだ。
「スカイが喜んでいるなら、それでいいよね」
私は思わず口に出していた。そして私も飛び上がる。
「スカイ、随分と楽しそうに飛んでいるね」
「え!? 剣聖様本当にありがとうございます。私空飛べてます!」
「そうだね、えらいぞ」
私は、ぽんぽんっと頭を触れた。その後、一通り飛んだのち地面に降り立ったのだ。
とても満足そうにしているスカイを見て、後悔なんかするはずなかった。
「じゃあまたどこかでな」
そう言って私たちは別れたのだ。そして、私は街の中を一人で歩いてく。
先ほどより視線を感じていた。
嫌な予感がこんな時に限って、よぎってくるのが鬱陶しい。
そう思っていても現実は甘くない。
私は、号外と思われる新聞を拾い上げる。大勢の人に踏まれ、ボロボロなった新聞だ。
『剣聖、暴走箒少女に大金を使う』
なんとも嫌な書き方だ。確かに、スカイの箒技術は上手いとはいえなかった。
だが、魔力のコントロールが悪いだけでそこまでの問題ではない。
それを教えない大人たちが悪いのだ。
そのようなところまで、教育が行き届いていない国が悪いと思ってしまう。
そんな新聞を眺めていると、何処からか見られているような気分になる。
誰に見られているかは、とっくにわかっているつもりだ。
「フェクト、ナズナ。大人しく出てこい、無駄なことをやってみろ、どうなるかわかっているよな」
私のドスの効いた声がし静かな通りに響き渡る。
その声を聞いて、観念したかのように二人が路地から出てくる。
とても気まずそうな顔をしているのが、遠くにいてもわかる。
そして、ゆっくりと近づく二人。
「話があるなら聞いてやる?」
フェクトは、とても言えそうになかった。完全にどんな反応が返ってくるか、わかっているかのような顔つきだ。
一方ナズナは、聞きたくてうずうずしているかのような動きで、こちらを見てくる。
「アリア、どうしてあの子にお金を使ったの?」
やはり話はそのことだったか。わかりきってはいたものの、違うのを期待していた自分がいる。
「箒を壊してしまったから、新しいのを買ったまでだよ」
「そうなんだ、それにしてもダイナール五枚は流石にやりすぎじゃない?」
値段のことまで新聞に書いていたのか。とんだおしゃべりエルフだ。箒を取りに行った時、一回ぶん殴ろう。
「お金はね、天下の回りものだよ。だから使ったまでだ」
それにお金なんて、稼ごうとしたら幾らでも稼げる代物だ。
それを腹一杯溜め込んでいても、良いことの方が少ない。定期的に、吐き出した方がいいに決まっているのだ。
「明日は、ギルドの方に行こうと思ってるけど二人はどうする?」
「「行く」」
二人とも、自分が見ていなかったばっかりになんて顔で見てくるが、間違いを訂正するのも面倒で私は何も言わなかった。
宿に行って、ご飯を食べて、お風呂に入って、必要最低限の会話しかしないまま、ベッドに入る。
外は、風が吹くだけで人々の声なんて聞こえてこない。どこも真っ暗で、明かりがついている方が珍しかった。
私は、外を眺めるのを止め目を瞑る。そして次に目が覚めたのは、朝日が登る頃であった。
窓を眺めるが、まだ外は騒がしさはなくとても静かな朝だといえる。
窓はずっと開いているが冷たい空気は入ってこない。外は夏の暑さで、すぐにでも汗が出そうになってくる。
そんな中、私はよく熟睡できたものだと感心してしまうほどである。
「今日も暑いな」
結界の中ですら、気温二十七を超えている。風系と魔法である冷風がガンガンに冷ましてこの有様だ。
国外は、暑さでとろけてしまいそうになると直感してしまう。
「あぁ、ギルドに行っていいクエストないか探さないとなぁ」
怠さを感じさせつつ、服を着替えて部屋を出る。そうすると、タイミングがピッタリかのように二つの扉が開く。
「フェクト、ナズナおはよう!」
二人とも気だるそうに、出てくる。見た感じ暑かったのか、少し機嫌が悪そうにも見えた。
「二人とも、冷たい物食べに行こうよ!」
「冷たい物だったら、食べたいかな」
「わたしも食べるー」
二人とも、先ほどと変わって元気になる。本当に食に関して、優先度が高いのを伝わってくる。
そして私たちは、冷たい物を食べつつ今日のことを話し合っていた。
「今日は、ギルド行くんだろ? それにしてもきな臭い感じが漂ってるな」
「行くよ。あ、フェクトも感じてたんだ、やっぱり魔物が近いのかな」
「え、魔物!! 倒しに行こうよ、早く早くー!」
ナズナは、すぐに料理を掻きこみ私たちを引っ張る。
「ナズナ、まだご飯を食べてるでしょ! それにまずはギルドが先だよ」
「えーー! 早く倒したい、倒したい」
駄々をこねていたが、私たちは聞く耳持たずにご飯を食べ進めていく。
それに気がついて、膨れ顔でこっちを見つめてくるのには笑ってしまった。
「ご飯食べたらすぐ行くから、大人しく待っててね」
返事はないが、ちょこんと座り指遊びをして時間を潰すのだった。
そして私たちは、ギルドに向かう途中スカイと再開した。スカイは、とてもボロボロになっており今にも泣き出してしまいそうだ。
「スカイどうしたの?」
私は慌てて駆け寄る。
「剣聖様ごめんなさい、私、私、箒を悪い人たちに取られちゃった」
その言葉で私は完全にキレた。殺気が溢れ出し、それが国中を覆う。
フェクトは、抑えるように言っているが私は無視をした。
「フェクト頼み事を頼まれてくれるかい?」
「ナズナとギルドに行けってことだろ、くれぐれも国を壊さないようにな」
フェクトはナズナをひっぱり、ギルドの方に走って行った。
「ここからはお姉さんに任せておいてスカイ。私の可愛い教え子を泣かすようなやつに、ちょっとお仕置きしてくるわ」
私は、箒屋にスカイを預け街に駆け出して行くのであった。




