4話 初ダンジョンと到着
春風が、肌に心地良く通り抜けていく。草原の草花も心地よさそうにダンスしていた。
今向かっている国の近くには、ダンジョンがいくつか存在している。
魔物の素材を求めてやってくるものは多い。
生まれ故郷を出て数日。野宿を楽しみつつ、魔物が居ないかと探したが見つからなった。
そのためダンジョンで、この剣を使いたいと考えている。
しばらく進むと、近くに洞窟型のダンジョンが上空から見えている。そこから、とてつもなく嫌な気配が上空に居た私を飲み込もうとするかのように感じ取る。
「行ったら魔物を斬れそうだ」
私は、そんないやな気配を感じてもワクワクが止まらなかった。
初めてのダンジョン。師匠からは、話に聞いていたけど期待以上ではなく少し落胆した様子で探索を進めた。
辺りを光耀く魔法の球体を周囲に展開する。
魔物のいた気配は確かにするのだが、どれも死んだ後のように思えた。
奥に進むにつれ、人の血の匂いが鼻にツンとくるのを感じ取る。
「この匂い、もしかして死んでるかも」
私は、走って匂いの元凶に辿り着こうと突き進む。
道中、魔物は一切出てくる気配はない。
その原因は、匂いの元凶にたどりつくや否やすぐに分かった。
「魔族」
魔族が、ダンジョンのボス部屋らしき場所に鎮座している。
魔族は、人間のような見た目をしているが根本的に違う。魔力も禍々しく、国の中や村の中には入れない。入れても、結界内では身動きが取れないのがほとんどである。
魔族の周りには、私より高ランクの金の冒険者が死体となって数人分転がっていた。
「あなたがやったので間違いないわね」
「あぁそうだ。だが、もう俺は消滅するとこでね、早く止めをさしておくれよ」
瞬時に状況を理解した。
これは、魔族が使う一般的な罠だ。ボロボロになっていると思わせて狩るという上等手段である。
おそらくこの冒険者たちは、その状態を見て報酬欲しさに散った頭の悪い冒険者たちだ。
冒険者たちの武器は槍と魔法だ。たいして、魔族の傷は、武器で付けられた剣の傷である。腰に下げているのも剣であるため、自傷行為で間違いない。
「嘘をついても無駄だよ、そんな罠に引っかかるほど間抜けじゃないわよ」
「なんだよ、そんな冒険者なりたてみたいな綺麗な服をきた子供にまで伝わってんのかよ。それにしても、お前何もんだよ。明らかに、そこで死んでる奴らとレベルが違う」
最低限の品定めは出来るようだ。だが、コイツは頭の悪い分類に組み分けされる魔族だ。なぜかというと、私を見た瞬間に逃げるべきなのである。
「お前、魔族殺しで有名なライトベルトって知っているか。剣聖になって十年で、数えきれないほどの魔族を葬った男だよ」
明らかに憎悪が増した。同族を最も簡単に斬り伏せていた剣聖の名だ。
「そいつは……」
「私は現剣聖であり、師匠より遥に強い、逃げなかったこと後悔の念に苛まれろ」
私は、奴が攻撃を仕掛けてくる前に懐に飛び込んで首を斬った。
「はぁ!?え、お前が……」
それが、奴の生涯最後の言葉である。
私は、向かっている国にあるギルドに報告するため、首だけになった魔族の死骸と冒険者たちの死体をボックスに入れ込み、ダンジョンを後にした。
外に出てみると、すっかり夕暮れである。全力で飛ばしたとしても着くのは夜中である。
夜中に門が開くわけもないので、今日は少し進んで野宿することにした。
箒に乗って緩やかに飛んでいく。あのダンジョン、魔物が居なかったのは冒険者たちが殺して通ったからだろう。そしてあの剣、魔族の首があんな簡単に斬れるなんてなんともくせになりそうな感覚。
そんなことを思いつつ、夕暮れの景色を楽しみつつ私は箒を進ませるのであった。
翌日、昨日の夜に作った残りを食べ終え出発する。
今日も変わらず、春風が心地良く吹いている。それを感じつつ目的の国まで箒を飛ばした。
そこは、私が剣聖になった場所である。国の名はハルタン。可愛らしい名前だけで、特に目立った観光地とかはない国だ。
私は、箒を降りて門番の審査を受けていた。
「け、剣聖様。旅をなされているのは本当だったのですね。もちろん通行は許可します、楽しんでくださいね」
門番の二人いたが、両方とも緊張しているのが丸わかりである。それを心配しつつ、私は箒でギルドに向かった。
飛んでいる最中、至る所から「剣聖少女」言われる。
語呂がいいのか、これからも呼ばれ続けそうで、内心気がきでなかったのは言うまでもない。
ギルドの扉を開けると、普段からは考えられないほどの静かさである。
全員緊張した面持ちで、こちらを見てくるのだ。
「私が来たぐらいで、そんな緊張しないでよ」
そう言うと、一人また一人と普段の過ごし方のようにエールを飲み干していた。
「今日は、どういったご要件でしょうか」
受付に座っていた美人の受付嬢が声を掛けてきた。一つ言っておこう、ここは美人だからといって座れる訳ではない。腕っぷしも相当な猛者であるのだ。
故郷でも、酔った勢いでナンパしていた冒険者が問答無用で、倒された挙げ句補導されていったのを思い出すのである。
「ここに来る前ダンジョンに寄ったら、金の冒険者五名の死体と魔族が居ました、魔族は討伐済みです」
普段通り飲んでいた冒険者たちが、一斉に酒を吹いていた。もったいないの一言である。
受付嬢も目をパチパチさせており、裏にいたギルドマスターが飛び出てきた。
見た目は、目に傷を負って眼帯している筋肉質の四十代ぐらいの男性である。
「剣聖様、魔族の首を出してはいただけないでしょうか?」
「冒険者の死体は? 遺族の元に帰してあげたいと思ってボックスの中に入っているけど。あ、一つ言っておくけど、私が確認した時点で死後六時間前後立っていたからね」
そう言って、私は魔族の首と冒険者の死体を取り出し、鑑定をする台座に置いた。
「最期の記憶」
と唱えた。
そこに映っていた映像は、私の想像した通りの光景である。そして、魔族の男がそれを餌に罠に掛かるまでの映像だ。
私との会話もしっかり残っており、私が冒険者を殺していない証明もついでしておいたのだ。
「コイツらは、話を聞かない冒険者連中だった」
「あ、そう言う話は興味ないので」
私は、魔族の頭についているツノを綺麗に切り取り、消滅させたのだ。
ツノを買取に出した。
「私は何日間か、滞在する予定ですのでお金の準備をお願いしますね」
私は、そう言ってとなりの酒場でエールを頼み一気に飲み干しギルドを後にしたのだった。
……
ギルドマスターは、すぐさま名簿表を裏に取りに行く。書かれた名簿にあった緊急連絡先に、テレパシーで呼びかけているかのように見えた。
「連絡が取れた。すぐに来るそうだ、キャンシー、奥の部屋を準備しておいてくれ」
「承知いたしました」
私は、すぐさま席を離れ奥の部屋に行った。
そそくさと、席と茶菓子を用意に取り掛かっている最中のことであった。
冒険者の両親が、到着された様子が裏にいた私の方まで聞こえてくるレベルであった。
すぐさまマスターが応対にあたり、それが終わったのが定時を過ぎた頃であった。
マスターのくたびれた様子からして、相当苦労したのが分かる。
外に音が漏れないようにと、ノイズキャンセリングをかけていたのが、正解だった様子だ。
「お疲れさまです、マスター」
「あぁありがとう。美味しいよ」
飲み物を飲み干すと、ギルド内全体に聞こえる声で剣聖を探すよう指示が出たのだ。
冒険者たちは、我先にと飛び出していた。
連れてくるだけで、銀貨五枚だったのが大きかったようだ。
「あ!?剣聖様」
今日は残業になりそうなので、夜休憩と称して行きつけの料理店に立ち寄った。
そこには、剣聖がオーガ肉に齧り付いている真っ最中であった。
その周りには、無理やり連れてこようとしたのだろうか?冒険者たちが横でのされていたのだった。
「あ、ごめんね。コイツらさ、ご飯を食べてる途中に向かってくるから、手刀でパパッと片付けちゃった」
「いえ、こちらこそマスターのクエストだったとは言え、このようなご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした」
「ご飯を食べ終わったら行くからさ、一緒に食べない? 店で食べてるとはいえなんか寂しいんだよね」
それは当たり前だ。この子は、まだ十二歳の子供同然なのだ。
どれだけ成人してエールが飲める年だと言っても、寂しいと思うことはダメなことではない。
「もちろんご一緒させてください!」




