72話 村を救うために、あの子に相談します
指揮官の彼が目覚めたのは、それからすぐのことであった。
そして、私たちを見つけるなり頭を地面に擦り付けるような形になった。
「え、ちょっ、頭をあげてください」
「剣聖様とは知らずに、申し訳ありませんでした! 私、ラルマル一生の不覚でございます」
ラルマルと言った指揮官は、金髪のサラサラヘアーが特徴で正義感が強そうな男だった。
「別に何も思ってませんから、とりあえず頭をあげてください」
「本当に申し訳ございませんでした、それよりギルドの件についてなのですが」
それから私とラルマル、それに村人何名かで話し合いが設けられた。
これから、どうするか。それについて白熱とした議論が交わされたのだ。
結果、私の提案が大体なことをやることになった。
(イデリア、聞こえる?)
あまり掛けたくはないものの、私は村の為と思ってイデリアをテレパシーで呼ぶことにしたのだ。
こういった問題は、大抵イデリアに任せておけば大体のことはどうにでもなる。
イデリアは、魔法会を思い通りに動かせるからこういった時には、ありがたくてしかたない。
(アリア大丈夫なの? 怪我は、悪化してない?)
第一声がこれである。もう何週間も前のことで、すっかり忘れていた。
(もう痛みとかはないよ。それよりさ、少しお願いがあるんだけど)
(何かしら?)
私は、村のことを話した。そしたら、話を聞き終わったのち、たった一言を言ってテレパシーが切れた。
そして私は、そのことをライマルに伝え、村人にも一気に話が回る。
それだけじゃない、格段に士気が上がるのを感じ取るほどだ。
「みんな、柵の強化とかやっていくぞ!」
元気いっぱいな声が聞こえてくる。それだけ、この村はまだ行けると断言出来そうだった。
私たちは、近くの森から木を伐採しつつ持って行った。持っていた木々は新たな柵になり、簡易的なトラップにもなっていく。
「結界の方は俺が付け直してやる、だいぶガタがきているからな」
フェクトは、得意げな表情で指を鳴らし張り替えていた。それには、村人の中にいた結界術師が驚くほどである。
「なんと素晴らしいんだ! こんな結界とても良い。ワシらには、ここまでの頑丈さはできなかった。今日は本当にいい日だ」
「喜んでくれてなによりだ。武術についても教えるから、俺とナズナに頼んでくれ」
それを教わりにきたのは、ライマルただ一人だったようだ。
魔法を扱えない連中は、全員私の方に来ていた。
「私、一つ言っておくけど手加減あんまり得意じゃないからね」
「「よろしくお願いします」」
気合いだけは、あるようだが先ほど見た感じあまりいいものとはいえなかった。
ただ、基礎的な動きが出ているのが救いであろう。基礎的な動き、これほど重要なものはない。それをどれだけ、鍛錬できるかによって成長度合いは変わる。
「今日は、素振りをしっかりすること」
そうして、村での特訓生活が始まったのだった。
翌朝、魔物が現れたとともに起床。寝巻き姿で、魔物を蹂躙していく。
そして、戦いが終われば今回の反省点なんかを、村人と共有していく。
壊れたトラップなんかも、修復していく。
「このトラップ、ちゃんと役に立ってたな」
「簡易的な落とし穴でしたけど、楽になりますね」
トラップの改良なんかをしつつ、時間はすぎていく。そして、それぞれ教えていく。
それを何日間か続いていた。その日も、またいつものように過ごそうと思っていたら、テレパシーを感じ取る。
(あの件、うまくいきそうだ。ギルドとの連携も円滑に進めるようにしておいた)
(ありがとね、これで村の方も大丈夫だ。それに補助金の件、ありがとな)
数日前、全ての村に一律の定期補助金が配布が始まったのだ。
村は、冒険者、旅人、衛兵などの拠点として使える。それを、無くさせないためにも必要なことだった。それで、村人だけで守っていた村なんかは、冒険者を呼べるということだ。
(まだ試用段階だから、調整は必要だろうけどね)
(今回は助かった、本当にありがとな。じゃあまた)
(当然のことをしたまでよ、体には気をつけてね)
そしてテレパシーが切れた。村の方では、早速クエストとして作られ、近くの国のギルドに貼られることとなった。
「応募の方、ありますかね?」
「ある程度の冒険者なんかは、来ると思いますよ」
そうして、私たちが村から出発をしようと話し合っていた直後、また魔物たちが攻めてきた。
今回は、より凶暴な魔物が居るのが報告されていた。
「ギルドの方には連絡した?」
「緊急クエストとして、発表されるようです」
それなら安心だ。アイツらは、大抵こう言った言葉に弱い生き物だ。
そう言っていると、転移で何名かの冒険者が飛んできていた。
「俺たち銀の冒険者してます、緊急ということなので助太刀させていただきます」
そう言って現れたのは、銀の装備に身を包んだ十代の冒険者数名だった。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ライマルは、とても嬉しそうな顔をしている。
「ライマル、喜ぶのはいいが今大事なのは、村を守ることだ!」
「承知致しております! 魔法部隊、攻撃開始!」
そう言って、戦いの火蓋は切って落とされた。激しい魔法攻撃、それを補う形で至近距離からの波状攻撃。
その連携も素早く取れており、ここは私たちが居なくても大丈夫だと確信できるほどである。
「あの熊みたいな奴は私に任せておいて!」
おそらく、奴がこの騒動の原因。ただ、私は自分のやるべき仕事を済ませるのみだ。
そうして、戦いは無事に終わる。冒険者たちも満足げにしていた。
「本当にありがとうございました。剣聖様が居なければ、この村はいずれ終わってしまう所でした」
「そうかもしれません、でもライマルさんたちが諦めずに守っていたおかげで、他の村も救われます」
ライマルは、一礼をした。それにつられるような形で、村人たちも一礼している。
そして私たちは、お世話になったお礼を告げまた旅を続けるのであった。
イデリアは、テレパシーが掛かってきた時顔を真っ赤にしていました。
アリアの声が流れてくるたび、興奮していましたとさ。




