70話 魔神王
その話を、中途半端に聞いていたフェクトがエールを吹き出した。
急なことに、私たちは驚きを隠せずにいた。
「おい、今なんて言った?」
フェクトは、食い気味に聞いてくる。それほどまで、引っかかった言葉なのだと理解するのに、時間は掛からなかった。
「やはり魔神王をご存知なのですね」
シュシュは、すぐさま平静を装いフェクトに聞いていた。
「知ってるも何も、アイツは無理だ。生半可の連中が倒せるやつではない」
フェクトは、キッパリと断言した。
「戦ったことあるの?」
「アリア、当たり前だ。俺は、アイツには負け続けているからな。でもアイツは、封印されたはずだろ」
「今現在、どこにあるのか分からないのです。もういつ復活してもおかしくないでしょう」
いつ復活してもおかしくない。まずその前に、私には聞きたいことがある。
「まず、魔神王って何?」
当然の疑問である。それを聞かれるのを、わかっていたかのような顔で見つめていることに気がついた。
最初に、口を開いたのはフェクトだった。
「魔神王は、簡単に言うとアリアよりは格段弱く、イデリアよりは強い存在」
「私より弱い?」
「アリアが戦えば、おそらく簡単に勝てるだろうな。おそらく奴はそれを避けてくるだろうけど」
それには、シュシュも同意見なのか頷いて聞いている。そして何より、フェクトは戦ったことがあるからそんなことを言うのだろう。
あの声は、紛れもない真実を帯びた声だ。
「ねぇ、それを探せばいいってこと?」
その話に割り込んできたのはナズナだった。ナズナは、眠たい目を擦らせながら聞いてくる。
「御名答です。我々魔法界も探しているのですが、全く見当たらないのです」
「それってさ、他の国なんかには言ったの?」
とても言いづらそうな顔をしながら、少し考えている様子のシュシュ。
だが、決断したのだろうか。その顔は少し和らいだ様に見えた。
「いいえ。魔法使いのレベルではないと難しいと判断したため要請とかはしていません」
「ねぇ、それでは見つかる物も見つからないと思うよ」
ナズナのごもっとも意見に、シュシュは何も言えなくなっていた。
それどころか、黙ってしまった。
「魔法界は至る所にあるから探してはいると思うよ」
「何より厄介なことがある。封印と言っても、奴の力は本物だからな。おそらく、人間を操って匿っている可能性もある」
それには、私は驚いてた。それほどまでに力があるなら、勘のいい冒険者なら気がつくことも多いと思ったからである。
「シュシュ、今すぐ魔法界はギルドと連携を組むべきだ。いつそんな事態になってもいいよう準備をしておいてくれ」
私が焦ったように言うもんだから、シュシュも慌てた様子で行動に写していた。
そして私たちは、別れ部屋に戻ってきた。
「フェクト、どうなると思う?」
「おそらく見つかった所で、魔法界にはどうすることもできない。奴は、魔法が効きづらいからな」
「でもどうして、封印なんかされたの?」
「奴は、もっと強いやつに出会いたいんだよ」
それが全てであろう。強い者は、より強い者を求めていく生き物だ。
それが奴の本能ってやつだろう。そのためなら、自分が封印されても別にどうでもいいと思っていることがわかる。
「それはめんどくさいね」
「だろ、ほんと奴はめんどくさいやつだよ。でもアイツはここ数年もあれば戻ってくるだろうな」
フェクトは、そう言ってベッドに横になって眠り出したのであった。
ナズナも眠たくなったのか、いつの間にかに眠ってしまっていた。
そうして、私は一人。窓から見える星空を眺めながら夜を更けていくのを楽しんだのであった。
そして、翌朝私たちは朝食を食べたのちシュシュに会いに行ったのだ。
足取りは軽く、さくさくと足を進ませながらシュシュが居る部屋の前に辿り着く。
私は、一呼吸してドアをノックする。
「失礼します、アリアです」
「どうぞ」
声は、どこか緊張したかのような声である。そして、私たちが来るのを知っていたかのように、お茶を人数分を準備している最中である。
「どうされましたか、剣聖様?」
「そろそろ、ここを離れようと思っていてね」
シュシュは、お茶をテーブルに置き何度か深呼吸をする。そして、覚悟が決まったかのような顔で私を見つめてくる。
「そうですか、分かりました。里の入り口まで案内しますわ」
そう言って、私たちを案内し始めた。最初はずっと誰も喋ろうとはしなかった。
そんな雰囲気ではないのが、誰しもがわかっていたからだ。
そうして、だんだんと里の入り口付近まで来ていた。
「色々とお世話になりました。ありがとうございました」
私たちは、お礼を言って一礼した。
「私たちは、当然のことをしたまでです。また何かありましたら、色々な場所に里はありますので見つけた際は寄ってください」
私は、意を決して聞いてみることにした。
「ギルドとの件どうなりましたか?」
「合同での調査が決まりました」
ギルドとの件が、こんな朝イチで決まっているあたり、イデリアのゴリ押しがあったと考えても良いだろう。
イデリアは、そういった事例には容赦なく権力を使う。
それは、自分が狙われているだけではない。エルフ族の里が襲われること、それに伴った被害を最小限に抑えるためにとった必要な行動だったと言えるであろう。
「それは良かったです。私たちも探してみますね」
「よろしくお願いします」
シュシュは、泣きそうな顔をしていた。そして抱きついてきたのだ。
それには、ナズナもとてもびっくりしたような顔をしているのが、感覚でわかる。
「やっぱり、まだいてくださいよ〜離れ離れになりたくないです−」
この女、最後の最後に爆弾発言である。
「こんな可愛い子、ずっと居たいです」
「流石に離れましょうか」
私の冷たい態度に、膝から崩れ落ちるシュシュ。
「そんな冷たい態度しないでよ」
そして泣き出す始末である。私たちはいたたまれない空気になったため、飛んで消えるかのように箒に乗り込み出発した。
「またどこかでお会いしましょうー!」
そうして、エルフ族との数日間は終わりを告げたのだった。




