707話 弔いの時間
困惑した時間が続く。一度木々に触れただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。そんな状況になってでも、私は木々に触りたくてしかたなかった。
それはどう頑張っても抑えられないような感覚であり、動悸が止まらない。そんな状況をフェクトは魔法で体を拘束した。
「アリア、すまねぇけどこれ以上増えられたら面倒だから止まっておいてくれよ」
「わかってるけど、多分無理かも……こんな拘束、今の私なら簡単に破壊出来る気がする」
フェクトはその言葉を聞いて「それぐらいはわかってるよ、それでも死ぬ気で抑えてくれ」とだけ言って、目の前にいる私という偽物を見続けていた。
そうして覚悟が決まったのか、フェクトもナズナも臨戦態勢となりいつでも戦闘を始めても良いように、攻めの姿勢へと変化する。
「こんな機会、滅多にないからね。まさかこんな形でアリアを潰されるなんて思ってなかったから、少しだけワクワクしてる」
「それは同感ニャー、アリアがいない状況で、勝たなければ終わるなんて最高のシチュエーションだよ。絶対に勝つ! それは決まっている未来ニャー」
二人の背中はとてつもないほどに大きく見えた。それほどまでに、今の二人は頼り甲斐のある存在になっているのだと、改めて私は実感するのであった。
「二人とも頼んだわよ、私を殺してみなさい」
……
アリアの声は震えている。自分の体は蝕まれているというのに、そんな言葉を投げ掛け、俺たちの背中を力強く押してくれたのがわかる。
だからこそ、この思いには答えなければならない。俺もナズナも気合い充分、絶対に潰すという信念を掲げ、俺たちは駆け出していく。
「真正面からの攻防をお望みですか、あなた方のリーダーに真っ向から挑んで勝てないのにそんな無謀なことをするんだね」
声が二重に聞こえる。おそらく対象者のコピーする限界値があるのだろう。削れるところは削り、再現を目一杯表現するところにリソースを割いているような感じだ。
「アリアはな、抜けているところもあるが、それでも粗悪品のコピー連中よりは天と地の差があるんだよ!」
拳を突き出すが、やっぱり簡単に止められてしまう。この時点でわかるのは、コイツのリソース割合は、完全に戦闘がリソースの八割、もしくは九割ほどだろう。
まるで針に糸を通すレベルで狭き道を通ることになる。それでも自然に俺たちの顔はとてつもないほどに笑っていた。
「魔武式・一徹突き!」
「獣脚!」
攻撃方法も違えば防御の態勢も変わる。それだけリソースを割いているからこそ、荒い部分が浮き彫りに段々となっていくのが見えてくる。
それはどうやらナズナも気が付いているらしく、果敢に攻め出している。確実に仕留めると言わんばかりである、その気迫で偽のアリアはだいぶメンタルが砕け始めているのを察知する。
それを勝機と判断し、俺たちは攻めていく。
「二人とも離れて!」
その言葉は、まるで魔言のように命令に従わされるほどの力を秘めており、俺たちの体は大きく後ろへ飛んだ。
その時だった。
両方のアリアが同時に舌打ちを始め、とてつもないほどに機嫌が悪い。自分たちの作戦を本物である存在にばれたのだから仕方ない話である。
「もしかして、アリア自身の考えも少なからず反映されてる? さっきの殴り合いで俺たちが有利に進められたのは、不自然な形でまるでアシストされているようなものだったからだ」
「その思考回路を若干支配しようとしているのは結構怖いけど、さすがはアリアだな。まさか、こんな形で助けてもらうなんて思いもしなかった」
俺は驚いた顔をする。それ以上にそれがわかっているはずだが、なぜ存在はそれを改良しないのだろうか。そんなことが頭の中をよぎるが、今はどうでも良かった。
「ナズナ、俺たちはここで一気に流れを掴む、そうした方が結構簡単に勝てるからな」
「この私が負ける言い草なんていい度胸をしているのね、こんな人たち初めて見たわ」
「それなら私たちを知るべきだね、今の状態で君が勝てる可能性は絶対にないと言い切れる」
明らかに雰囲気が変わった。完全に俺たちを殺すという明確な理由を持って行動してきた。そんな状況になっていながらも、彼女の顔は歪んでいない。
「むしろ、イキイキしている感じがとてつもなく素敵だけど、それがいつまで続くか見ものだな、偽物さんよ」
先ほどまでとはまるで違い、攻撃のどれを見たとしても、本物のアリアと遜色がないほどに仕上げていた。その代わり、段々とそのほかが保てなくなり、すでにアリアと名ばかりな存在に成り果てていた。
それでも、攻撃は一流だからこそ、アリアでは絶対にあり得ない隙が生まれてしまう。
「獣脚・ショットガン!」
腹部にめり込む一撃。一瞬にして顔を歪ませ、地面に倒れ込む。形にリソースを割くことが出来ない仇となった。
動こうにも、すでに体はアリアという形を留めてはおらず、別の何かになっている。そうして、そのまま顔を踏み潰され、絶命するのであった。
「二人ともほんとに良かったよ、きちんと私が作り出した隙を活用しててほんと良かったよ」
「あそこまで露骨にされたらナズナでもわかるニャー。それにしても、この森からすぐにでも抜け出さないとね」
……
でもそう簡単に逃してくれないのがこの森である。まるで亡霊のような気配がウジャウジャと湧いて出てくるのを感じる。
それは、この森で亡くなってしまった者たちであり、今もこの森を彷徨い続けている存在。
「二人とも、全力で弔って行くわよ。ここで手を抜いたら絶対に許さないから」
「わかってるよ、俺がそんな主人様の命令を無視するわけないだろ」
「当たり前ニャー、今から現れる連中には安らかに眠ってほしいニャー、そのためにはわたしたちがやらなきゃいけないことをするだけだよ」
二人とも、すでに覚悟を決めている様子だった。そんな二人を見て、握っている剣にも力がこもっていくのがわかる。
「二人とも、弔いの時間だよ!」




