704話 魔力の水柱
春の暖かさを背中に受けながら私たちは今日も相も変わらず、ほうきに乗ってあてもない旅をしていた。
のどかな時間が流れており、そんな時間がずっと続いてくれても大丈夫なのにと思うほどには、とてもゆったりとした時間がただ流れていた。
そんなゆったりとした時間を過ごしていると、遠くの方で何かが爆発したかのような音が草原に鳴り響く。少しばかり眠そうにしていた顔が一瞬で目が覚めるほどであり、私たちは何が起こったのか把握が出来ていなかった。
「今の何の爆発音? 結構遠いみたいだけど、確実に爆発はしているはずなんだけど」
「俺たちの方では目視確認は出来ない。だけど、自然に沸いている魔力の流れがだいぶ荒ぶってるから、確実に何かしら起こったのは間違いない」
気配感知の方は何も感じないが、魔力感知はフェクトの言う通り、荒ぶっているのがわかる。
「とりあえず、荒ぶってる中心地をマップに示してみる」
マップを展開させ、魔力感知の流れをマップ上に可視化させる。そんなことをしてようやく、私たちはその中心地となる場所を把握することが出来たのであった。
そこはどうやら森の中であり、おそらく森の中にある何かが突然爆発を起こしたのだろう。これが自然に発生したものなのか、それとも故意に発生したものか調べるために私たちは、ほうきを森の方へ飛ばす。
「何が原因でこんなことになってるんだろうな? 人為的にしても、ここいらには集落はないから俺たちと同じ旅人か、指名手配犯ぐらいしかいねぇだろう」
「それはそうかもしれないけど、まだ何も分かってない状況で決めつけて動くには危険すぎると思うわ」
「アリアの意見に賛成ニャー、それにどんな爆発であれ、わたしたちなら何かわかるかもニャー」
そんな話をしながらほうきを走らせていると、ようやく煙がうっすらと上がってきているのを感じる。
それに何より、この爆発は私たちが思っている以上にややこしいことになると私は理解した。
「ありゃ、これはめんどくさい案件になってきたな」
フェクトはとてつもなく嫌そうな顔をする。それもそのはずである、なぜなら爆発によって魔物が集まってきているのを感じる。
「さっきまでは魔物の気配なんてまるでなかったのに、一体どうしてあんなにも集まってきてるの?」
「おそらく煙の影響だ。先ほどの爆発は、魔物を呼び寄せる力を持っている可能性がある。それが自然であれ、故意であれ、だいぶやばいのが確定かな」
「あの煙は一体何ニャー?」
「魔力をとてつもなく含んだ水分の煙だ。あれを浴びたくて集まってくる、それがこんな辺鄙な場所で良かったが、国や村の近くが簡単に滅んでしまうほどの力を秘めてんだよ」
フェクトはいっそう機嫌が悪くなる。こんな状況が起きてしまったことに対して、どこかしら思うことがあるのだろう。
それに何より、この状況で私たち以外の冒険者がいないというのは正直に言って危険な状況である。
「ここからは三人がバラバラに動きながら対処にあたるわよ、くれぐれも魔物に近づかせないようにね!」
そうして私たちはほうきから降りて、そのまま走り出した。凄まじい威力の爆発だったのだろう、未だに水柱が勢いよく出ている状態であり、あれを復旧させるのはそう簡単に出来ることではない。
煙のように見えていた正体がまさか水柱だったとは私自身、夢にも思わなかった状況であり、戸惑いながらも走っていく。
「辿り着いた、あんたたち、これ以上は浴びせないんだから!」
腰に下げていた剣を抜き、近くにいた魔物から順に命を奪っていく。だが、それは中々うまいこといくことはなかった。
魔力の水を浴びたことによる結果である。中には私の攻撃を受け止め、反撃を繰り出そうとする連中もおり、そう簡単に対処を進めることが出来ない。
それでも、ここを突破しない限り、この戦闘はいつまでも続けられてしまう、ボロ雑巾のように。
「そこまでして、私はあなたたちと戦うつもりはない」
そうは言ったが、やはり普通に対処してくる連中も多く出始めており、時間が経てば経つほどに私自身に皺寄せがやってくる。
「だったら攻撃方法を変えるか」
私はボックスから杖を取り出した。その杖が現れた瞬間、彼らの表情が少しばかり引き攣ったのがわかる。これがどのような力があるのか、勘付かれている。
それでも私は一気に走り出し、そのまま攻撃を加える。フルスイングで頭をぶん殴り、喉元を杖の先っぽで突き刺したりと、やりたい放題な気がするがそれでも、まだ数は多い。
(復旧に向かいたいが、こっちは時間が掛かりそうだ。俺の魔物を少しだけでも良いから引き受けてくれないか?)
(本気でぶん殴ったら良いだけニャー! こんなやつらに情けを掛けている方が時間の無駄ニャー)
(ナズナ、それはそうかもしれないけど、そんなことは言ったらダメ。だったら私の方へ持ってきて良いから傷を早く塞いで!)
フェクトの気配が一気に向かってきているのがわかる。それがわかっているのは、決して私だけではない。周りの魔物たちもまた、気配の動きに注目しているような上の空である。
「この私を前にして随分と余裕なことをしてくれるじゃん! テメェら、絶対に潰す!」
私は宣言通り、一匹たりとも一切の躊躇もせずに頭を殴り潰した。そうして、フェクトが着く頃には、地面は魔物の血が染み込んでいた。
「アリア、その杖持ってたらマジでやばいな。魔物がここまで潰されてるのなんて中々お目になんて出来ないやつだな」
「無駄口を叩いてないで、早く行ってきなさいよ! ここは私が全員引き受けてあげるからさ」
「アリア、すまねぇ! あとで美味しいものでも作ってやるよ」
私の背後にあった水柱をフェクトは結界を張って閉じ込め、これ以上漏れ出すことを防ごうとしている。そんな状況になって、魔物たちの行動は一つに限られた。
フェクトという彼らにとって最悪な存在を止めることである。それが出来なければ『死』が待っているのだから当たり前である。
「まぁ、私が君たちの相手なんだけどね」




