702話 魔法の杖
今までとはまた違う戦いになるだろう。だが、私の心は燃え上がるように熱く、とてつもないほどに高揚感がある。
それはナズナも同じようで、私を倒したいと思っているのがビシビシと伝わってきた。互いに見合ったまま、どちらも身動きを取らず、ただ立っているだけなのに、ここまで感じるのはナズナという存在を私は強敵認定しているのだとわかる。
「まずはわたしから行くニャー! 剣を持ってないアリアなんて、わたしからしてみれば怖くないニャー」
一直線に駆け出してくるナズナ。裏表なく、ただ真っ直ぐひたすらに駆けていた。そんなナズナを私もまたどっしりと杖を構え、防御姿勢をとる。
「最初から飛ばす、獣脚!」
杖から一気に流れてくるダメージ。相当重いのが伝わってきており、私の顔も少しばかり歪んでしまう。それほどまでにナズナは、この戦闘において一切の躊躇なんていうものをする気はないのだろう。
「いつまで杖に足を乗せてんのよ!」
一瞬力が緩んだ瞬間を見逃さず、そのまま押し返す。空中で回転するナズナに向かって杖を当てようと振るが、空振りそのままカウンターの一撃を喰らう。
右頬にナズナの拳がめり込み、痛みで顔を顰めそうになるのをグッと堪えつつ、反撃に転じるが上手く攻撃がはまらない。
その隙を狙ってナズナの猛攻撃が飛んでくる。なんとか杖で捌くが、それでも少しばかりダメージをもらってしまう。
「あんだけ攻め込んだのに、七割ほどの攻撃を受け流されたニャー。武器が変わったとしても、剣聖っていうのは変わらないね」
「何言ってんの、木剣だったら今の攻撃ぐらい余裕で全て捌けてたし、カウンターでこっちが簡単に攻め返せる状況だったわよ」
それが杖と剣での違いだろう。私がいくら強いからといって、武器が違えばそれなりに影響は出てしまう。それは頭ではわかっているが、体がまだ言うことを聞かない。まだまだ体が硬く、動けていないというのが今の現状である。
「それでも、三割しか決まってないわたしからしてみれば、めっちゃ驚異だよ。この組み手を通じて、アリアは絶対にその杖を使いこなせるし、わたしも負ける可能性だってある状況なのは変わらない」
だから、ナズナはあんなにも焦ったような攻撃を繰り返し、私にダメージを与えていた。速攻攻撃でどこまで削れるかわからない状況で、あそこまでの無茶をしたのは全て、今後の蓄積ダメージを少しでも多く加算しておきたかった。
「そんなことを全て喋っている割に、それでもまだナズナの方が勝機は絶対に高い。でも油断なんてしたら、絶対に逆転するからね」
「その前に潰すまで! 獣拳・アッパー」
「甘いよ!! そんな攻撃、私が止められないとでも思ってるわけ?」
案の定攻撃は受け止められたが、それでもナズナの攻撃は止まらない。尻尾で足を纏わらせ、強引にバランスを崩させられてしまう。
「くそっ!」
思わずそんな言葉が出てきてしまう。相当力強く体を持っていかれ、拳は顎には当たらなかったものの、顔に少しばかりもらう。
負けじと反撃をしようにも、バランスの崩れてしまった体ではどうすることも出来ず、そのままナズナの追撃をもらう。
そのまま地面に倒れ込み、ナズナは馬乗りで私の体に乗った。
「ここからはわたしの独壇場ニャー!!」
いつも以上にテンションが上がっているのを感じる。ここまで完璧に馬乗りの状態に持ち込めたことによる興奮がとてつもなく伝わってくる。
ナズナの拳が何回も顔に飛んでくる。悲痛な声すら出す暇もないままに、一方的な攻撃が続く。
だがしかし、そんな時間が長くは続かないことをナズナはこの時はまるでわかってもいなかった。興奮で何もかも見えなくなり、ただひたすらに拳を振り下ろすことしかしていなかったからだ。
次の瞬間、ナズナの攻撃が止む。ナズナは何かをようやく感じ取ったのか、馬乗りをやめ、後ろに大きく飛ぶ。そうして、覚醒化までさせて警戒心マックスレベルだ。
「何してんの? そんな棒立ちしてたら簡単に負けちゃうけど」
「へぇ?」
ナズナは吹き飛び、何度も地面に体をぶつけようやく止まる。立ち上がることも出来ず、ただ一方的に攻撃を喰らう立場へと変化していく。
倒れた状態で、まるで畑を耕すかのように振り下ろされた杖をもろに喰らい、それが何度も続く。まだ意識は残っているものの、体はとうに限界を向迎えている。
「どうしちゃったの? さっきまでの攻撃がまるで嘘みたいに大人しいけど」
私は最近、あることを練習していた。それは、少しばかりの本気を出せるようにしようというものである。その本気とは、私がいつの日かにやった岩か何かを砂に変えたときのような感じ。
その状態をキープし、それが当たり前というのにするのが目的である。
「急にあそこまで強さが変化したらナズナには対応出来ないだろ、さすがにこれ以上やるなら容認することは……」
「わかっているよ、でもね、私をここまでタコ殴りにしてくれたんだよ、復讐はちゃんとしないと」
「もうすでに、ナズナはほぼ戦闘不能状態にある。これ以上強くやるのは認めねぇぞ」
フェクトの魔力が一気に高鳴り、肌の毛が逆立つのを感じる。警戒しなければならないと言われているような感覚であり、私はその指示に大人しく従った。
そうしてナズナは、フェクトによって体を回復し、すぐに元気になった。
「フェクトの方はすでに覚えてたんだ」
「まぁな、それよりも彼女から贈り物があるらしいから受け取ってこいよ」
彼女とその夫が大きな箱を取り出している最中であり、私に気がつくや否や、すぐに取り出し私の方へ渡してくる。
「これは何?」
「杖だよ、本来は魔法の杖ではあるが、それは昔の人が殴り合いにでも使えるようにって思って作られた一品だよ」
「ありがとうございます」
箱から出してみると確かに魔法の杖であり、持った瞬間、金属のひんやりとした感触が伝わってくる。それに何より、魔力の流れをとてつもなく感じる代物である。
その後、私たちは数日泊まり、村を後にするのであった。




