700話 古風な戦い
彼女は、どうやら再戦をしたいようだ。あんな風に負けてしまったことがあまりにも不甲斐ないと思ったのだろう。
そんな彼女の申し出に対して、私は応じることにした。
「あんな風に負けておいて、即座に再戦を挑もうとしてくるなんて思ってもいなかったよ、私、少しだけ驚いてるんだ」
「その割には、笑みが隠しきれていないようだが? それに、さっきのようなものは通用すると思わない方が良い」
随分と自信がある。その説得力として、澱みない魔力が流れているのがこちらにまで伝わってきており、全くといっていいほどに、隙が一切感じられない。
私がどのように踏み込んだとしても、全てお見通しだと言わんばかりに、こちらをじっと見つめる目はまるで獲物を追う狩人の目をしていた。
「まだ武器すら出していない私に対して、そんな目で見ないでよ。まぁ、見られたとしても、私に勝つことなんて無理なんだけどね」
初弾が足に飛んでくる。私が動くことを見越して撃ってきており、それを難なく躱しつつ間合いを詰めていく。
「その反応速度、やはり侮れない。アイス・ホーミング」
「二段攻撃ってわけ? 当たればその部位を凍らせ、外せば地面を凍らせて、相手の自由を奪えるようにするための」
すでに焦りを彼女から感じている。近づかれたらどんな仕打ちが待っているか、それを一瞬でも想像してしまっているのが、魔法を通じてわかる。
そんな魔法を軽く避けつつ、私は間合いへと飛び込んだ。
「抜刀・基本の太刀!」
「アイスニードル・シールド!」
木剣とぶつかり合い、私の剣技は威力が殺された。それは間一髪のことだったのだろう、彼女自身も相当驚いていており、互いに次の一歩が踏み出せないままお見合い状態が続く。
「アリア! すかさず追撃しろ!」
フェクトの声が頭の中に響き渡る。それは両者にとって、決戦の合図となり至近距離で攻撃が激しくぶつかり合う。
互いに踏み込んでの攻撃は、想像以上にダメージをもらったのか、攻撃が少しばかり弱まり後ろへ飛んだ。
「これほどの攻撃を受けるとは……これが今の剣聖という存在なのか、まだこれで若いのだから末恐ろしい」
「それはこっちの台詞よ、あなたの攻撃だって、イデリアたちに負けてないわよ……幾度とぶつかった私が言うのだからほんとうよ」
少しばかり息が上がってしまう。軽い深呼吸をして体を整えつつ、改めて彼女を見る。彼女の方は、すでに満身創痍であり、そう長くは持たないだろう。
それは自分でもわかっているのか、防御魔法なんてもうする気はないようだ。攻撃に魔力を集中させ、こちらを再度睨みつけていた。
「いや、ほんと……その睨みつけてくるの身が引き締まっていいね! ビシッとしなきゃってなって、一切の油断も出来ないなってなるよ」
「それでも、勝つのは私だよ。まだまだ若い連中に遅れをとるわけにはいかないからね」
そう言って杖を前へ突き出し、魔力が一点に集中して集まっていくのを感じる。
「凄まじい魔力の塊……私、そういうのぶった斬るの大好き!」
放たれた一撃はレーザー魔法。だが、私には全くもってどんな魔法であろうと関係なんてなかった。それはなぜなら『斬れるもの』であり、関係ないからである。
斬った瞬間の彼女が見せた顔は、今まで見た中でも最高傑作と呼べるほどに驚いた顔していた。その顔を見て、私は思わず吹き出してしまうほどである。
目がガン開きであり、顎が外れるのではと心配になってしまうほどの大きく開いた口であり、笑わない方がどうかしているほどだ。
「めっちゃいい顔するね、腹抱えて笑いそうになったよ、ほんと油断なんて出来ないって言ったばかりなのに、いやまじでその顔はずるいよ」
「人の顔を見て、いつまでも笑ってんじゃないわよ! アイスウィップ!」
「ごめん、ごめんって!」
「謝っているなら、避けんな!」
地面に凄まじい音が響く。物理魔法へと攻撃方法をチェンジさせ、老体とは思えないほどの威力を振り翳していた。
地面は少しばかりへこんでおり、私は息を呑んだ。
「まだこれほどの力を隠してたなんて、ほんと侮れない人だね」
中距離からの攻撃は、程よい距離で避けながら間合いを詰めていく方が得策だが、だがそんな流暢に時間を掛けている暇はない。
彼女自身の魔力が、すでに切れかかっているからだ。どんな手を使ってでも、ここで仕留めにくるだろう。
「それでもね、私は剣聖だからそう簡単に負けるわけにはいかないの」
だんだんとウィップの速度が遅くなっていくのを感じる。それを勝機と思った私は、瞬間移動からの一撃を振り翳す。
バチンっと音が鳴り響くと同時に、私の攻撃は受け止められてしまったのを確信した。
「長い杖!? まさかそっちを展開してくるなんて、思いもしなかった」
それにしても彼女が持っている杖は、金属製であり相当な強度が備わっているのがわかる。私の一撃を耐え凌ぐ時点で、警戒度は上げるほかない。
「杖と木剣での殴り合い、古風な戦い方をすることが出来るなんて光栄だわ。今ではめっきりやれなくなってたから嬉しい」
私の剣技についてきている。相当な鍛錬を続けてきたのがわかる、それほどまでにこんな風に戦うのが好きだったのだと伝わってくる。
「ほぼ魔力を使い果たしているはずなのに、その元気さ、やっぱりあなたも化け物クラスだよ」
「剣聖に褒められるなんて、まだまだ現役出来そうね!」
両者一歩共々一歩も引かず、互いの強さをぶつけ合っていた。だが、そんな時間が長くは続かないことを誰もがわかっている。
それでも、私たちはそんな最後の時まで互いの力をぶつけ合う。
「剣聖たる所以の一撃、汝に示すは至高の剣技であり、止められぬ力! 剣聖剣技・基本の太刀!」
杖を折り、彼女の体に刻まれた一撃は生涯の傷として消えないものとなった。だがしかし、彼女はそんな一撃を受けてなお、とてつもなく満足した顔をしており、この戦いに意味があったことを証明した。




