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2話 剣聖少女爆誕であります


 互いに見合ったまま、静かな時間がただ流れていく。お互いに見定めている感じだ。

 そうして先に動いたのは剣聖の方だ。


「一殺一刀」


 走り出したかと思えば、技で攻撃してきた。避けた感じ、一撃の太刀系統の技で間違いない。


「技を使うなんて情けないね」


「――やっぱり避けるか、チッ」


 ご丁寧に首を狙ったのが仇になった形である。私の前に体を差し出したのが、運の尽きだ。

 瞬時に死角に入り込み下から、一気に切り上げ、顎に切先(きっさき)部分を当て、剣聖は軽く上に飛んだ。


 会場は、先ほどまで剣聖を応援するもファンのものたちで包まれていた。

 今やそんなものは微塵もない。皆、この光景が信じられない様子だ。

 その観客の中には、うちの常連客たちもいた。

 だがその人たちは、何故だか腕を組んでこの光景を見て、当然だよなって言う顔つきである。


「あの体勢で飛んだのに、よく普通に立てたね」

「こんなんでは、倒れねぇよ」

 

 先ほどの発言がそれほどまでに、よりイラつかせていたのがわかった。

 ただ私は、本当のことを言ったまでである。


「残像剣!」


 消えた。いや、加速系統の魔法か。右からくると思わせて、上からの両断狙いか。


「遅い」


 剣聖の攻撃は、私には届かないのが明白だ。私はただカウンターを返すだけで剣聖は消耗していく。

 剣聖は素早く距離を取り、大きく後に下がる。

 このまま続けるのは正直面白くない。私は、本気の剣聖と戦いたいと強く願う。


「次は、私から行きますよ」


 剣聖は、魔法の影響で早く走っていたが、私にはまだ備わっていない。

 子供のスピードなんてたかが知れてる。


 だが、避けることもできたはずの剣聖は避けずにまっすぐに向き合ってぶつかり合う。

 その打ち合いはいつの間にか、私の奥底に眠っていた魔法の力を開花させようとしていた。


「おいあれ、内側開花していないか」

「そうだよな、そうじゃなきゃあそこまで早い打ち合い出来んだろ」


 そんな声が観客席から聞こえてくる気がする。突然、両者が互いの壁際まで吹き飛ぶ。

 両者の一撃が、それほどまでに強かったのだろう。


「はぁ、いい動きだ、所で二つほど聞きたかったのだがいいかい」

「死合い中に聞くことなんですか?」

「一つ目は名前なんて言うんだ? 二つ目はなんで技を使わない?」


 私の中で、両方とも今聞く内容ではないと捨てたかったがそれは違うと思ったのか止まった。


「私はアリア、私が店に来た冒険者からもらった本にそう書いていたからだけど」


 会場がどよめいている。


「だからか、あそこに見知った顔があると思った」


 母親の方を見ている。知り合いなのか、いや剣聖が来たら私でもわかる。あんな強い気配を感じさせたのだから。


 剣聖は、剣を構え直している。


「殺る気になりましたか」


 次の瞬間だった。唐突に、体に魔力が全身に駆け巡る。それは、溢れ出し私を飲み込もうとするほどだ。


「邪魔!!」


 そう言った瞬間、溢れていた魔力が一気に体内に戻っていくのを感じ取る。


「俺との戦闘で、完全に核が開いたんだろうな。ただ、そこまで簡単に制御されるとバケモンかよって言いたくなるよ」


 その言葉、ある意味正しかった。

 魔法を幼少期から扱える魔法使いたちと違って、初めての魔力が体外に出たということは、それを自力で抑えるのは難しいのだ。

 ずっと出したままで、魔力切れを起こさせ倒れるのを待つ家庭も多いのだ。

 それだけ、最初は操るのが難しいということだ。


「魔力なんて、今はどうだっていいの!」

「そうか」


 剣と剣が激しくぶつかる。

 ただ、剣聖の剣は次第に対処が遅れていく。

 相当消耗していることが、剣の動きでよく分かる。これでおしまいしたほうが、剣聖のためだと思ってしまう。そんなことを考えていたせいか、思わず苦笑してしまった。


「何を笑っているんだ! まだ勝負はついていない」

「かっこいいですが、ここまでです。これで終わりです」


 その一撃は、天の雲を切り裂いてしまうほどの錯覚という衝撃を与えたのであった。

 そして新たな時代の幕開けだと、彷彿とさせたのだ。

 会場は、完全に静まり返る。

 剣聖が負けたのだ。

 最後は、あっけない幕引きだったとも言えるが、これが私にとって最高な終わり方。

 技を使わなくとも、剣の道をここまで極められるのだから。


 静寂。

 誰も声を出せない。

 会場中が、ただ呆然とアリアを見つめていた。


 ──そして。


「勝者アリア!! 剣聖少女爆誕だあああぁぁー!!」


 これが私、剣聖少女アリアの始まりなのである。

 その日は、世界中が大騒ぎであった。

 私は、そんなこと気にせず自分の国に帰った。

 その日は、クタクタでご飯を食べるや否や木剣を抱き抱え眠ってしまったのであった。

 翌日いつものように修行をしていると、母親が血相を変えて庭の方にきたのだ。


「アリア大変よ! ちょっとお店まで来て」


 ここまで取り乱した母は珍しかった。


「なんであなたが……」


 言葉が詰まるのも無理はない。


「やぁおはよう! 今日から世話になる元剣聖だ。よろしく」

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