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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
11章 旅路

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575話 古い村


 春の暖かさを感じる季節。風に揺られ、自由気ままに進むあてもない旅。今日も相も変わらずほうきに乗ってそんな冒険の旅は続く。

 そんな私たちがいるのは、小さな村が見えている上空。久しぶりの村で、心は明らかに軽くなり、まるで自分一人だけでも良いから、飛んで行きたくなるような感覚だった。

 まぁ実際には飛べるし、戦闘にも使う。ただ私が言っているのはそのようなことではない。

 何にも縛られず、このダイナールという大地を自分の魔力だけで飛んでいけると思ったのだ。

 こんなことを大勢の人間の前で言ったところで、私を明らかに馬鹿にした態度をとりながら、笑っている人だかりが出来てしまうだろう。

 そんなことを思い付いた時、すぐに自分自身に論破されて崩壊した。そんなことを思い出していると、フェクトが声を掛けてきた。


「何を考えていたか知らないけど、顔まで妄想の影響を受けていたぞ」

「あ、それはごめん、ちょっと思い出してそのまま妄想に浸ってた」

「そんなことよりもう着くニャー! 久しぶりの村なんだから、もう少しテンションあげるニャー」


 ナズナはこの中で一番村を楽しみにしていることが伝わってくる。


「嬉しそうな気配がダダ漏れだ、少しは抑える修行でもしてろ」

「フェクトも楽しみにしているの知ってるニャー、どうせもうパンの匂いを嗅ぎ分けて、心の中で一番はしゃいでるくせに」


 図星だったのか、フェクトは顔を真っ赤にさせる。そうして、その場から離れるために、ほうきの速度を早めていた。


「ちょっと待ってよ! ほうきを早めたところで意味ないって」


 そうして村の門でほうきを降りた。上空から見ていてわかっていたが、それなりにボロい建物が多い。

 お金がないということが、建物から痛いほどに伝わってくる。


「さすがに再建が必要かもな」

「結界の方もダメなの?」

「それもあるけど、何より外壁はボロボロだし、中だってだいぶボロい」

「そんなにボロいって言わないニャー、わたしたちが直せるところは手伝ったら良いニャー」


 そんな話に花を咲かせていると、門が悲痛な叫び声を上げるかのような音を立てながら開いた。


「すみません、冒険者の方々ですか?」

「そうですけど、中に入れて貰えませんか」


 小汚い老人は、ため息をつきながらも門をもう少しばかり開き、中へ招いてくれた。

 住人たちの痛い視線を感じながらも、私たちは中へ入っていく。


「よくこんな辺鄙な場所に来ようだなんて思いましたね、わしなら絶対に来ませんわ」


確かに、用も無ければこのような場所に来る人は少ないだろう。それほどまでにこの村は寂れており、村人でさえもあのようなことを言ってしまう。


「俺たちはあてもない旅をしてたんだ、それに俺はここのパンを食ってみたい!」


 もう待ちきれないのか、涎が口からこぼれ落ちそうになっている。


「パン? そんなもの、どこでも食べられるでしょうに。それにあてもない旅だなんて、そんなことをする変わった人たちもいるんですね」


 小汚い老人は不思議そうな表情を浮かべ、村唯一のパン屋に案内してくれた。

 古く色々とガタが来ていそうな見た目の家。それでも、フェクトもナズナも鼻を小刻みに動かし、匂いを楽しんでいた。


「二人がそんな顔をするなんて、ここのパン屋は当たりなんだね」

「香ばしいパンの匂いがするニャー、早くパンとご対面したい」


 フェクトもナズナも我れ先にと、パン屋の中に入っていく。その光景に小汚い老人は驚きつつも、遅れて中に入った。

 そうして私も中に入ると、随分と美味しそうなパンが綺麗に陳列されていた。

 それに驚いたことに種類が多い。素朴なパンを始め、惣菜パン、デザート系まで様々なパンが並んでいる。

 そんな光景を見てしまったら、パン好きのフェクトが止まるわけがない。

 プレートとトングを持ち、気になったパンを片っ端から乗せていく。その光景を見ていたナズナも対抗心を燃やしてか、パンを取っていく。


「冒険者のアリアって言います、先ほど村に着いたばかりでして……騒がしくして申し訳ありません」

「何言ってんだい! こんな辺鄙な場所に冒険者が来てくれるなんて滅多に無いんだ、いっぱい買って行っておくれ」


 パン屋のおばちゃんの目には、闘志で燃え上がったかのような目をしていた。


「ガキンチョども、うちのパンをそんなに嬉しそうに取ってくれるなんて嬉しいよ」

「だってこんなにも美味しそうなんだもん! これを食べずにいられるわけないじゃん」


 まるで本当に子どもに戻ったかのような応対をするフェクト。

 フェクトが持つトレーの中は、まるで自分だけの宝箱と言わんばかりの量が詰め込まれていた。


「おばちゃんこれ頂戴!」

「いっぱい買ってくれて嬉しいよ、これは過去一の売り上げだわ」


 大量のお金が舞い込んでくるのがわかってしまっている状況、パン屋のおばちゃんの笑みが変わることはなかった。

 そうして二人の会計を終えて、私たちは外に出る。


「二人とも食べたいのはわかるけど、まだ食べたらダメだからね」


 こちらを一瞬睨む二人だったが、私が腰に下げてあった剣に手を掛けた瞬間、誤魔化すかのように口笛を吹いていた。


「それでここって宿屋はありますか?」

「それは一応ありますよ、ルールとして定められていますから」


 案内された宿屋は、これまた随分と寂れた建物である。

 この宿屋では、アンデッドの魔物が夜になると出るって言われても、信じてしまいそうだ。


「あ、言い忘れていました。結界が古くてですね、この宿屋は結構アンデッドの魔物が出ます」

「それだったらもう問題ねぇぞ、俺が結界を張ってるから」


 小汚い老人は、少しばかり驚いた表情で結界を見るが、おそらく村に入った段階で張り終えていたのだろう。


「旅をしている人だけあって、結界魔法を使えるとは本当にありがたい限りです」

「お礼は別に良いぞ、美味しいパン屋の場所を教えてくれただけで充分だ」


 そうして小汚い老人は、一礼して自分の家へ戻っていくのであった。

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