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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
11章 旅路

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568話 なんてことない一日


 春の心地よい風が吹くなか、私たちは広大な草原地帯の真ん中で寝転んでいた。心地よい日差しが自然のお布団となり、昼下がり私たちは瞼を閉じた。

 二人の寝息が聞こえ、それに合わせて呼吸する。そうしていつしか眠りに入り、気が付いた時には辺りは真っ暗になっていた。寝ぼけ眼で辺りを見るが、二人ともまだ眠っている。二人を起こさぬようそっと起き上がり、少しばかり歩く。

 月明かり以外に明かりがなく、辺りを見渡せば一面草原が広がるばかり。

 風に揺られ、草木が靡く。その音に心地よさを感じながらも私は歩みを進めていく。

 それにしても今日は随分と眠ってしまったと少しだけ後悔の波が押し寄せてくる。だがそれもすぐに収まり、寝ぼけた頭はだんだんと覚醒に近づいていく。

 そうして時間が経つに連れて、目覚めていく感覚を体全身に受けながら、私は歩みを進めていた足を止めた。

 辺りをもう一度見渡し、気配感知を発動させる。気配感知にはそれといった反応はなく、ここにある反応は私たちだけ。

 そんなことを思いながらも、寝ているだけの体でもお腹は空いてくる。

 風も吹かなければ静寂に包まれるこの大地に、お腹の音という新たな音色を奏でたのであった。

 ボックスから机、椅子、調理道具、食材を取り出し料理の準備をしていく。

 二人はまだ起きる気配もなく、このまま手抜き料理をするよりは、何か手の込んだ料理をしようかなと頭の中で浮かび上がる。

 ただ問題が一つある、それは本当に食べたいかどうかである。ひとときの感情に任せて行動した時、後悔することが多い。そんな中、フェクトが目を覚ましたのか気配が変わる。


「よく寝た……って真っ暗じゃん!?」


 大声を上げた瞬間、隣で眠っていたナズナは随分と驚いた様子で辺りを見渡していた。


「二人ともおはよう、私が起きた時点でこの有様だから、すでに諦めてる」

「ご飯を準備してくれてるのか、それだったら俺も手伝うぜ」

「わたしもやるニャー、こんなに寝ることを考えてなかったから、フェクトの言葉を聞いた時ほんと焦ったニャー」


 二人はテキパキと食材を切っていく。そんな私の方は、火を魔法で起こし肉を炒めていた。


「それにしても俺たち随分と寝たよな、そこまで疲れてるって感じではなかったんだけどな」

「それわたしも思ったニャー、ただめっちゃ気持ち良くて比較的すぐに眠ってしまったよ」


 確かに二人は私より先に寝始めていた。それも心地よい寝息を奏でながら。

 そうして他愛のない会話を進めつつ、切り終えた食材を水でもう一度洗い、水気が切れたら食材をフライパンの中に投入した。

 手早く炒めている間、二人はテーブルの上を片付けつつ食事のセッティングを進めていた。


「二人とももうすぐ出来るわよ」


 大皿に野菜炒めを載せ、テーブルの中央に置く。そうして私自身も席に座りエール瓶の蓋を開け二人につぎ分け、食事が始まった。

 勢いよく無くなっていく食材を横目で見ながら、私は一口エールを飲んだ。

 特に何もしていないが、口に入れたエールはとても美味しく感じられる。そんなことをしつつ、ようやく食材に手を付け野菜炒めを口の中に放り込んだ。

 野菜のベチョベチョ感を噛み締めつつ、私たちは食べていく。


「明日からどうする、今日は思わぬ一日を過ごしてしまったから、明日はしっかりと動くか?」

「私はそうしたいと思ってるけど、二人はどんな感じ?」

「俺はいいぞ、さすがに二日連続こんな風に過ごすのは勘弁だな」

「わたしも二人と同じ意見ニャー、こんな一日もたまにはあってもいいと思うけど、動きたいニャー!」


 三人の意見は概ね一致していた。そうしてご飯を食べ終え、それぞれの時間を過ごそうとした直後だった。

 気配感知に反応が見られ、すぐさま三人とも臨戦態勢に入る。

 私は腰に下げていた剣に手を掛け、いつでも飛び出せるように構えを取る。気配はどうやら食事の匂いを嗅ぎ付けたようで、気配は探るように近づいてきた。


「二人とも、一気に飛び出して倒すわよ」


 私が走り出すと同時に二人も一斉に動き出す。そうして走っているうちに、気配はこちらに気が付いたのか一目散に逃げていく。


「逃すか! ナズナ、俺と挟み撃ちだ」


 フェクトは私を抜き去り、気配より前に走る。それを目の当たりにしたナズナもまた、後ろから迫っていく。


「いい加減走るの飽きてくるからさ、ここいらで一発受け止めてよ」


 だがそれは、かすった程度で逃げられてしまう。暗くて見えないが、おそらく小動物的な魔物だろう。

 フェクトは『どこに行った?』と辺りを見渡すが、完全に見失っていた。


「気配まで消されたら、さすがに追うのは難しいな」

「気配は大きかったけど小さい魔物なのか、それはまた厄介だね」

「それなら大丈夫ニャー、おそらく近くにいるはずだから」


 ナズナは軽く拳を地面に突き立て、衝撃を送る。その瞬間、魔物の気配が浮かび上がると同時に隠れている場所を把握出来た。


「どんなに気配消しが上手かろうが関係ないニャー、気配を感じさせてしまうような攻撃を放ったら一発!」


 随分と熱意の籠った言葉。そんなことを考えながらも、魔物はまたテーブルを目指すが、もうそれは叶わないだろう。

 なぜならナズナの攻撃に耐えられる器ではないのだから。案の定、魔物はナズナの一撃を浴びて消滅する。


「それにしてもこんな夜更けに襲おうとするなんて、随分と傍迷惑だね」

「まぁ、野菜炒めの香ばしい匂いを感じたらお腹でも空いたんじゃないの?」

「それはあり得る、俺たちみたいに結構お腹が空いていたら絶対釣られる自信があるわ」


 フェクトこれまでに見たことがないぐらい、自信たっぷりに言う辺り心の中で『もう少しだけでも頑張ってほしい』と、思う自分がいた。


「とりあえずこれで一件落着ってことで、眠れないと思うけどそろそろ寝ようか」

「それもそうだな、明日に疲れを持ち込みたくないからね」


 そうして私たちのなんてことない一日が今日も終わるのであった。

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