52話 獣人の長制度
獣人の国、ダウール山脈の中に存在しており、常に魔物との交戦をしている国だ。
そして、彼らはそれを全て修行の一環として、ここで生涯を過ごすのも多い。
魔法は、あまり使えないが近接戦闘を得意とする種族として、国の軍に所属している人もいる者もいる。
今現在、私をガッチリとホールドし離さないのはナズナと呼ばれる高貴の人だ。
見た目は、長くモフリ甲斐のあるダークアッシュの髪色。細長い尻尾が特徴である。
「ナズナ、どうして私に攻撃したの?」
この質問は、私の興味本位である。
「えーとね、戦いに混ざりたかったの!」
周りを見てみると、ケースの中にはトロフィーがいくつもある。
全て彼女の名前が入っており、その強さをものがたっているものばかりだ。
そんな風に、歩いていると目の前の大きな扉のまで立ち止まる。
「少々お待ちください」
ここまで案内してくれた獣人族の方々が、緊張した様子で中に入っていく。
それから数分を立たずして、大きな音が響きわたる。これは、明らかに戦闘をしている音だ。しかも一方的に、攻撃が繰り出されているのが、容易に想像できた。
「待って! 行かなくていいよ」
彼女は、私が動こうとしたのがわかったのか静止するようお願いしをしてくる。
だが、私もフェクトも気になって仕方がないのだ。彼女の言葉を無視して中に入る。
そこで見た光景は、あまりにも想像した通りだった。
私たちをここまで送ってくれた、獣人族の方々は伸びきっている。
それどころか、血を流している。
そして、一際大きな男。そいつの手は血がポタポタと垂れており、明らかに攻撃したのは奴しかいない。
おそらく彼は、獣人族のトップだ。
見た目は、獅子王と言ってもいいだろう。
「ここに人間が来るとは珍しい、なんだその目は?」
だが、その直後彼は思わず後に下がる。あれは無意識でやったことだろう。
彼も驚いているのがわかる。
「ナズナ、ちょっとのいてね」
その声にビビったのか、彼女は先ほどまで一切剥がそうとはしなかったホールドを即座に辞めた。
「フェクトも戦いたいだろうが、後でいいよね?」
「主人のご命令ならな」
私は、剣を抜く。振り翳し、構えをとる。
「ちょっと手合わせしようぜ」
私は決して怒っている訳ではなかった。ただ、一方的にやられているのをみて、それを楽しんでいるように見えたのが、気に食わなかっただけだ。
「お、お、お待ちください、これはこの国の伝統なんです!」
次の瞬間、獅子王は玉座まで吹き飛んだ。その衝撃で、玉座は壊れ、一撃で伸びているのか立ち上がってこない。
「まだ、突きしただけなんだけど、さっさと起きやがれ」
だが、彼には聞こえていないのか起き上がる様子はない。それから間も無くして、治療班によって意識を取り戻した。
「で、さっきは何してたの?」
「あれは、獣人族伝統のものでして。ミスした者には、鉄槌を下し、より強くするためのものなんです」
師匠から、そんなことをする国があると聞いたことがある。
「これで二度目です、剣聖様に突き飛ばされたのは」
その言い草、もしや師匠も同じことをしたということか。そういえば、師匠もそれみた瞬間、キレて剣抜いちゃったわって言ってたけ。
私が思い出に耽っていると、彼はお詫びを言っていた頃だった。
「聞きそびれたこと聞いていいでしょか? なぜナズナは、あなた様にそんなにもなついているのでしょうか?」
「私に聞かれてもな、確か自分の攻撃を止めたからとか言ってたけど」
私は、なんとか思い出し答える。周りはみんな騒然として、騒がしくなっている。
獅子王はなぜか、目をパチパチさせている。
心配になったので声をかける。
「おーい、大丈夫?」
「あ、失礼しました。あまりの予想外だったことで、一瞬言葉を失ってしまいました」
どうやら、ナズナの攻撃を止められるのは、この国には本当には居ないらしい。
それを私が止めたと知って、みんな驚きを隠せないのは無理はない話だ。
「ねぇ、王様! 私、外の冒険がしたいの!!」
突然のことで、獅子王や周りの獣人族は言葉を失っている。
彼女は、獅子王にわたし同様近づき、子供みたく駄々をこね始めた。
獅子王、あたふたとしているだけで何もできない様子だ。みんな、またかと言わんばかりの表情で見ている始末だ。
「剣聖少女様、お初にお目にかかります。私元獣人族の長を勤めていました、ラギアと申します」
黒い毛並みのような髪。引き締まった筋肉、そして狼特有の耳がある獣人だ。
「あ、剣聖をやっておりますアリアと申します」
私は、すぐに頭を下げた。
「あ、頭をお上げください」
その直後のことだ。今まで黙っていたフェクトが突然声をかけたのだ。
「元長ってどういうことだ? ここって王政国家じゃねぇのか?」
それはわたしも思ったことだ。フェクトが聞いてくれてラッキーと思い心の中でガッツポーズをした。
「ここは、剣聖様と同じなのですよ」
剣聖と同じ。それってつまり、そういうことなのか。
「じゃあ、毎年やってることですか?」
「いや、五年に一度になります。病死などの場合は、変わりますが」
それは知らなかった。私が頷いていると、フェクトはまた喋り出した。
「それじゃ、アイツって何年目だ?」
フェクトは、指を刺しながら獅子王の方に向ける。確かにそれは気になる。
そこまでいい印象がないのが、残念な所だ。
「今年で十五年です。近いうちに開催されるので良かったら見ていってください」
「でも結果ってもうわかってますよね」
どう考えても、ナズナに勝てるものは誰もいないといえるであろう。
剣聖の私から見てそう判断できるほどだ。
「やはりそう思われますよね、獅子王でさえ一撃で気絶させられるほどですから。ですが……」
ラギアは、言葉に詰まる。それは、ナズナの言ったことが関係しているのであろうと明確であると判断せざる状況であった。




