552話 実力不足
宿屋の一室、重たい空気感が流れていた。それもそのはずだ、私たちはこれからこの国をどう変化していくのか、見守る義務があるのだから。
「それにしてもイデリアを呼んだのは正解だったな」
重たい空気感から脱却を図るかのように、フェクトが口を開いた。フェクトは、私を見て「何か喋れよ」と、訴えかけてくるかのような視線を送ってくる。
その視線に耐えかねた私はようやく口を開いた。
「でも、これからが心配になるんだよね、このまま何事もなく終わるとなんて私は思ってないし」
それに何より、この国は現在最高権力者二名が滞在している。それにより街はより一層な緊張感が高まっているのを、宿屋の一室でも感じるほどだ。
「この宿屋も時期に見つかるわね。私たちを探しているのか、兵士たちの数が増員されているのが気配でわかるわ」
おそらく私から事情を聞き出したいのだろう。私が呼んだことは明白であり、それに魔法界トップメンバーが揃っている点についても緊張感をより増大させたとわかる。
そんな時だった、大きな爆発音とともに、窓ガラスが砕け散った。
考えごとをしていて気が付かなかった。顔を上げて気配感知を発動させるが、上手く機能していないのが感じ取れた。
「一体どうなってるニャー、どう考えてもこれはおかしいニャー」
窓の近くに行き、近くにいた兵士たちがどの方向に走るのか観察する。
やはり向かっているのは例の場所だ。
「屋根に登って街の様子を見てきた、あの家からの発火で間違いない」
何かしらアクシデントが発生したのだろうか、それともイデリアたちがやったのかまだわからない。
それにしても、ここまで派手なことをやらかしておいて、彼は今後どう動くつもりだろうか。
「もしかしたらあの家、兵士が突入した時に爆破するように仕掛けておいた可能性もあるな」
「だがそれは違う、おそらく巻き込まれたのはイデリアたちで間違いない」
彼にとってこれは考えも付かなかった想定外だと私は考える。なぜなら、国家反逆の中に私たちは含まれていないからだ。
「二人とも、とりあえず現場に行くわよ」
まるで私たちの邪魔をするかのように、辺り一帯の魔力電気は一斉に切れ、国は混沌の闇に招かれたのだ。
「二人とも、目は見えないと思うけど気配を辿って行くわよ。おそらく外は大混乱、屋根の上を走り抜けるわよ」
なんとか廊下を出て、窓を開けて魔力で飛び立つ。屋根に登っている最中聞こえてきたのは、パニックを起こした声が所狭しと聞こえて来たのだった。
「これが本当に静かな国なのかよ」
「アイツはもしかしたら、これを狙っていたのかもしれない」
「これをやったところで事態が落ち着けば元に戻るよね」
確かにそれはそうなのだが、本当の狙いはパニック障害を起こさせ、静かな国を壊すこと。
「おいあれ見てみろよ! あれって魔法だろ」
「炸裂魔法!? あれを止めなければ街はよりパニックなる」
おそらくこれをしたのは彼を慕っている同志だろう。なんとも卑劣でそれに炎の魔法を使うなんて、それほどまでにこの国を変えたいと思ってしまったのだろう。
私は怒りのままに勢いよく手を叩いた。
炸裂魔法の元は消えさり、その影響で家の火も消える。
「アリア大丈夫か? さすがに体に負担が来るだろう」
「これぐらい別に平気」
私は笑顔でそう言った。冷や汗を拭い、私は屋根の上を走りだした。
未だに人々のパニックじみた声が所狭しと聞こえるが、それもまた少しずつ小さくなっていく。
「やっぱりあんたの差金だったか、アイツらが来なければ私はもっと上手くやれたんだ!」
月明かりに照らされた刃を避けつつ、私は一歩後ろに下がる。泣きじゃくったのか、顔が真っ赤に腫れている。それほどまでに、この革命に命を懸けていたのだろう。
「私は本気であなたを止めるべきだった。きちんとした道に導いてあげなければならなかった、それを放棄したことは謝るわ、本当にごめんなさい」
「私は私の生き方をしたまでよ、ここで剣聖を殺して私は富も名誉も手に入れてやるぞ」
私は二人に他の仲間を捕らえるようにテレパシーで伝えた。
二人が去った後、私は木剣を取り出した。
「この私を舐めているのか、心底あんたのことを嫌いになった」
不安定な足場の中、彼は一直線へと向かってくる。そうして振り下ろされた一撃は、覚悟のある重さをしていた。
「――どうだ! これ私の覚悟だ、この覚悟に敗れろ、剣聖!!」
「覚悟の重さはあると思うわ、その程度で私を殺せると思っているあなたは、やはり実力不足よ」
冷たい冷酷な声がそう告げた。彼はどこか怯えた様子を見せるが、そんな顔を見せるあたりまだまだである。
剣聖であるならば、この程度の状況を簡単に対処しなければならない。
「実力不足のあなたがどこまで私に食らいつけるのか、大変興味深いわ。私の剣技を身をもって知りなさい」
弾き返した瞬間、右脇腹に木剣をめり込ませそのまま地面に叩きつけた。
「――うがぁぁ」
鈍い音が耳にこびりついた気がした。全身の痛みを地面に逃がそうとするかのように、地面をのたうち回る。
その際も動く度に、悲痛な声が腹の奥底から飛び出していた。
「二階建ての民家から落ちたとはいえ、まだ完全に意識があるなんてびっくりだわ」
そんな声なんて聞こえてないことぐらい、私にはわかっている。それでも、あんな言葉を最期に掛けておきたかったのだ。
「イデリア、もう良いわよ」
途中からずっと視線を感じていた。イデリアもそれがわかっていたようで、スッと出てくる。
「最後は呆気なく終わるわね、アリアの戦いって」
「今日のは特に彼は実力不足が否めなかったからね、それより早くコイツを連行しなきゃだよ」
もうすでに他の仲間も捕まっている。フェクト、ナズナは迅速に対処に当たってくれた影響だろう。
そうして彼はそのまま意識を失い、イデリアに浮かされ、人々に晒されながら連行されて行くのであった。




