548話 雪女
ダイナール大陸に冬が訪れ、今年初の雪が降った。だいぶ降っているようで、これは明日の朝には積もっているであろう。
そんな雪景色を横目に、相も変わらずに私たちはほうきの旅を続けていた。
「それにしてもいつもより早いよね、雪」
「そうだよな、いつもより大体一ヶ月程度早いぐらいか?」
ダイナール大陸の冬は厳しく、外に出るのですら億劫になってしまう。そんな寒さの中でも、私たちは旅を続けておきたいと思ってしまうほどの旅バカである。
それでも、自然というものは舐めていたら、熟練に近い私たちですら死に追いやるなんて造作もない。
それほどまでに自然というものは怖い。特に冬は簡単に人を殺してしまう。それだけ危険な季節。
「これは、流石に旅を早めに切り上げた方が良さそうかもしれないね」
「えーなんでよ! わたしはまだ旅を続けたいニャー」
ナズナは私の体を揺さぶり「それだけはやめてよ」と、訴えてきているかのようだ。
「ナズナ、ワガママを言うな。これはまだ決まったことではない、それにこの天候が落ち着けば、もう少しだけ長く旅は出来る」
ナズナは少し納得が出来ていない様子だが、それに関してはフェクトの方が正しい。
それに何より私たちが無理をすれば、それだけフェクトに重みがのし掛かる。
「ナズナ、旅を続けるためにもちゃんとした休息は大事なのよ。それに、これ以上天候が悪化すれば、後々命に関わるような事故に巻き込まれるかもしれないんだから」
「私が悪かったニャー、それだったら国を出来るだけ速く行くことは出来ないの? 春から再開する時またあの国からになるよ」
それは私も思っていた。こんな中途半端なところは転移では行けない。それを考えたら少しでも速く進むべきだと思ってしまう。
フェクトの方をチラッと見ると、マップと睨めっこをしていた。
「どうしたの、そんなにマップなんか見つめて?」
「村でも良いから探してたんだけど、やっぱりまだ離れてるんだよなって」
「だからこそ、今はより速く進むべきかも」
そうして私たちは、ほうきの速度を上げて国を目指していく。道中なるべく寄り道しないようにしていたが、それでもやはり自然というものは邪魔をしてくる。
だいぶ吹雪いてきており、まるで魔物の罠に引っかかったような気分だ。
「この天気だと流石に、魔力の消費量が多くなってくる」
フェクトは愚痴をこぼした。いくら寝ても疲労感が抜け切らず、魔力の質も正直に言って悪い。
いつフェクトが倒れてもおかしくない状況が続く。
「流石にフェクトが限界を迎えたら危ないことになる、とりあえずどこか休める場所を探すわよ、ナズナ!」
フェクトの顔がだんだんと青ざめていくのを感じる。このままではフェクトの命に関わるため、洞穴とかを重点的に探すがマップには近くにはない。
「探索が足りてないからわからないことが多いのか」
「アリア、フェクトが船を漕ぎ出したよ!」
頭を左右へと横に揺れながら、まるで眠っているかのようだが気を失った状態。おそらくここ周辺に、魔神の魔力を奪っているはずだと探すことにした。
なぜか知らないが、私の魔力ですら吸い取れているような気がしているからだ。
そんなことを思いながらも、私はその正体を探す。そんな時だった。フェクトの結界が消えると同時に、私たちは何者かから攻撃を喰らうのであった。
「――うわっ……マジ?」
なんとか無事に着地出来たが、フェクトはよりぐったりとしている。このままでは、フェクトが死んでしまうのも時間の問題かもしれない。
そんなことを思ったら、私は気配感知を限界まで力を上昇させる。
ズキンッと頭の痛みがするが弱音を吐いている場合ではないと思った私は、より広範囲を探していく。
「見つけた! ここから少し行ったところにある一本の木が生えてるところ!」
ナズナは私の言葉を聞いた瞬間、一人で飛び出して行った。その際、本当に合っているようで魔法が飛んでくる。
だがそれはあまり痛いものではなかった。
「これって雪?」
その時だった。先に飛び出したナズナと何かが戦っている音が聞こえてくる。
凄まじい衝撃音であり、激しさもすごいと思ってしまう。
「ってこっちにも来るわけね」
氷柱を投げて来て、私の体に刺そうとするのだから本当に危ない存在。
「雪女か、それにしてもこの雪を全部作れるなんて、どんな魔力量をしてんのよ」
咆哮のような声が聞こえると、雪が全て雪女の言いなりになったのか、全てこちらへぶつけてくる。
「簡易版の吹雪? ほんと無茶苦茶な攻撃するなんて、ほんと図鑑で載っているだけでは勉強不足のようね」
雪女――夏の間はどこにもおらず、冬が来ると自然に発生する魔物。
雪や氷といった攻撃を得意としており、魔力強盗をするのもコイツである。魔力強盗をするのは、より強い魔物に魔力を献上するためと思われており、裏に誰がいるのか、誰も知らない。
若い見た目をしており、村などにも出没しているようで、なんとも傍迷惑な魔物である。
「フェクトの魔力に私の魔力を返してもらうわよ、雪女」
「奪い返して見なさいよ、でもまぁ私の存在に気が付くことすら出来なかったあなたには無理か」
雪女はすでに勝った気分なのか高らかな声を出す。
「笑っていられるのもほんの数分だけよ」
先ほど同様氷柱を生成し、私に目掛けて飛んでくる。
そんな魔法を剣で斬り裂きながら、上空から一方的に攻める雪女へと向かっていく。
「いくらあなたが強くても、私のテリトリーに入ってしまえば簡単に終わるわ」
だが彼女は全くと言って良いほどに気が付いていなかった。
氷柱のワンパターン攻撃、それに気が付いていないなんて、よほど浮かれているようだ。
それもそのはず、彼女が奪った魔力は魔神の魔力。そんな魔力を無傷で、手に入れたのだからテンションが上がってしまうのも無理はない。
「ワンパターンの攻撃はやめた方がいいわよ」
氷柱に飛び乗り、次々に発射される氷柱に乗り換え、慌てた顔をする雪女の首を斬り裂く。チラッと見えたナズナは、私同様に氷柱に飛び乗り渾身のパンチをぶち込むのであった。
そうして、魔力はそれぞれ戻りフェクトの体調はすぐに良くなり、すっかり元のフェクトに戻るのであった。




