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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
11章 旅路

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547話 やられたらやり返す!


 観念したかのように魔物は姿を現した。操っていた正体はウィッチである。

 それも熟練の魔法使い、幾千の戦いを勝ち抜いて来たと言わんばかりである。それに何より、ウィッチの顔は全く諦めていなかった。


「この私に催眠を掛けるつもり? あなたの攻撃は私には通じないと思うんだけど」


 それは重々わかっているつもりだろう。それでも魔法使いの意地とプライドを賭けて、勝負に挑みたいということなのかもしれない。

 あんな真剣な目をこちらに向けて来ているのだ、これを無下にするのは冒険者としては間違っている行動だろう。


「だったら仕掛けて来なさいよ、私にそんな熱いラブコールを送って来ているんだから」


 次の瞬間、私は正直驚きの方が遥かに勝っていた。それほどまでに、予想外の行動をして来たのだ。


「魔力吸収? 私から魔力を吸い取る気かしら」


 いや違う。これはもっと別の何かである。パッとシャボン玉が消えるかのように、無人のお風呂屋は姿を消した。

 これ自体が幻術だったのかと、驚きながらも相手からは目を離さない。

 魔力吸収を終えたのか、ウィッチの姿は変化していく。


「もしかして、それが本来の姿?」


 目の前にいるのはまるでオーガである。老婆だった姿からは、想像出来ないほどのビルドアップを果たしたのだ。

 魔法戦を行うというより、物理で殴ってくるかのような勢いである。

 そんな姿になってまで繰り出してくるのは魔法であった。

 獣の雄叫びのような咆哮を上げ、魔法を撃ち出してくる。環境のことなんてまるでお構いなしらしく、なんとも魔物らしいと不覚にも思ってしまった。


「周りが火の海状態ね……これ後で直すの大変なんだからね」


 凄まじい熱気で汗が噴き出している。

 それに私の言葉は、耳には届いていないと思うが、それでも言いたくなってしまい自然に口からこぼれ落ちていた。

 何度も魔法を避けつつ、相手の行動を観察していく。どんな攻撃を放つのか、どんな場所に撃ってくるのか、観察することが出来た。


「君の攻撃方法がなんとなくつかめて来たよ、このままだと仲間が丸こげに成りかねないから、一気に勝負を決めさせてもらうわよ」


 そんな言葉をニュアンスで理解したのか、炎から雷へと魔法を変化させる。

 鋭い一撃がわたしの行手を阻んでいく。それに恐ろしく精度が良いのか、一瞬でも気を抜いたら雷に脳天をぶち抜かれそうだ。


「こんなスリリングな私は望んでないんだけどね」


 剣を取り出し、再び間合いを詰めていく。意識を集中させていなければならず、先ほど消えた疲れがぶり返して来そうだ。


「何のために休んでたのかわからなくなってきた。これだったら、こんな場所無視をするべきだったかな」

「それは違う! お前たちが来なければ私の生涯は幕を閉じていた。最期にここまで大暴れさせて貰えるなんて光栄である!」


 やはり、悠長に人語を扱えるだけの知能は持ち合わせていたか。それなら先ほどまでの戦い方も納得が出来る。

 全てにおいて計算されていた行動。確実に私を殺そうとして来るのだから、それは最初から気が付くべきだったと言えるだろう。


「でも、攻撃が全く私に当たってないんだよ、それでどうやって倒すつもりなの?」

「当てるまで魔法をぶつけるのみ!」


 筋肉質の体らしい脳筋思考。


「それで当たったら苦労なんてしないけどね」


 一瞬の隙を突き一気に斬り込んだ。それにより、少しばかり体を後ろに崩してしまい体勢が不安定とかす。

 そこを狙わないわけがなかった。いくら筋肉質の体とはいえ、鋭い刃を喰らえばひとたまりもない。

 一瞬の狂いも躊躇もなく、私は刃を振り下ろした。凄まじい勢いで血飛沫が宙を舞った。


「――がぁぁっ! こんな小娘に負けてたまるか」


 悲痛に満ちた声を出しながらも、まだ勝負を諦めていないのが伝わってくる。倒れたものの、すぐさま立ち上がり自分のタフさを示しているようだった。

 それでも痛いのは変わらないのだろう。少しばかり青ざめた顔をしており、少しばかり苦しそうだ。


「苦しいか? だったら私が楽にしてあげるわよ」

「その前に俺たちが先だ!!」


 私の前に現れたのは、いつの間にか服を着ている二人だった。

 ここで私が「いつ服を着替えたの?」と、聞いたら流石に雰囲気が台無しになるだろう。私は口をぎゅっと噛み締めるように黙り込む。


「よくも俺をあんなコケにしてくれたな」

「わたしも棒立ちでただやられるってなんてことしてくれるニャー! 獣脚・乱舞」


 勢いよく蹴りを繰り出すナズナを、間一髪で避けながらもフェクトの鋭い一撃に沈むウィッチ。

 地面にめり込みすぐには立ち上がれない。下手したら、このまま追撃を喰らいそうな勢いだ。

 何とか逃げようとするが、今の二人からは逃げられなかった。逃げようとするたびに一撃、また一撃、拳と蹴りが飛んでくる。

 ウィッチは今までに見たことがないぐらいに青ざめ、二人を怯えた表情で見ていた。


「これで終わりニャー! 獣拳」


「魔武式・一徹突き!」


 ウィッチの腹部には大きな穴が開き、何も出来ないまま消滅を果たす。

 二人はハイタッチをして、勝利を喜びあっていた。


「二人とも、鮮やかな勝利だったね」

「せっかく気持ちよく入ってたのによ、こんなことをしでかすなんてどうかしてるぜ」

「そうだニャー、そのおかげでアリアにぶっ飛ばされる始末だし、散々だったニャー」


 それにしても私たちにはとある問題が起きていた。それは湯冷めである。冷たい風を浴びて、体は冷え切っている。それにいつの間にか、草木に燃え移った火も消えていた。


「とりあえず暖を取ろうぜ、俺がすぐに焚き火準備するから」


 そうして私たちは肩を寄せ合い、そのまま寒さを凌ぐ。それでも中々冷たくフェクトが口を開く。


「今日はあったかいもの食べようぜ」

「わたしもそれに賛成ニャー」


 協力して作ったスープを飲み、少しずつ体を温まっていくのを感じるのであった。

 それでも皆思うこともある。これが温泉だったらどれだけ良かったことだろうと。

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