528話 ダンジョンマスター
ダンジョンの中は静けさを増した。先ほどまであった気配がまた多く消えたからだ。
強い魔物が殺され、それに対して恐怖を覚えているのだろう。
だが、その程度の奴らならいない方がマシである。
「さっきの剣鬼さ、なんで自ら不利になるようなことを選んだのかな?」
ナズナは不思議そうな顔をして、言葉を口に出していた。ナズナの言いたいこともわかる。
あの状況で、わざわざあんなことをするなんて、自殺願望のあるものだけがすることだ。
「もう終わったことなんだし、どうでも良いんじゃないか?」
フェクトはそう言いながら、元に戻っていく。
「そんなことより、早くダンジョンを終わらせようぜ」
フェクトの言う通りだ。私たちはこのダンジョンを早く終わらせたいと思っていた。
逃げていく魔物、単調な道のり、そんなダンジョンに魅力なんてこれっぽっちも感じていない。
もっと、強い魔物がいると期待していた私がバカだったと思ってしまうほどには、ここのダンジョンに入ったことを後悔している。
そんなことを感じ取ったのか、地面が光り輝きものすごいプレッシャーに押しつぶされそうになる。
「二人とも、警戒態勢!」
簡潔に伝える。二人とも危険を察知しているのか、高く飛び上がり、攻めの姿勢でその時を待っている。
「みなさんこんにちは、ようこそお越しくださいました冒険者様」
私が背後を取られた!? 驚きで目を見開きつつも体は自然に振り返りつつ、後ろへ飛んだ。
剣に手を当て、いつでも抜刀出来るように準備する。
「流石の判断力の高さ、お見それしました」
見た目は人間……だが別の人種なのは明らかである。おそらく、魔族……いや魔神の可能性だってあり得る。
「我は魔神です。そちらの魔神と同じく、人間の皮を被った者です」
これは生きた時間が違うからだろうか、どこまでも冷静で、私より何倍も落ち着いている。
そんな時だった、ナズナの拳が飛んできた。
「なんで? わたしの一撃を軽々と止めたニャー」
顔面に当たる直前で、ガッチリと掴まれた拳。完全にナズナよりも上位の存在だとすぐに認識出来た。
「不意の一撃を掴んだだけで良い気にならないで! 獣脚」
蹴りですら軽々と止める始末。ナズナが蹴りを使っているところなんて見たことがなかった。
そんなナズナが放った一撃を、軽々に止めるなんてコイツはいったいなんだんだ。
「いつまでもナズナに触れてんじゃねぇ! 一徹突き」
ナズナを即座に離して攻撃を対処する。凄まじい速さの選択能力、それはこの上ないほどに厄介な相手だと言えるだろう。
「みなさんの戦いは最初から拝見しました。だからこそ、最高な死というおもてなしをいたしますね」
そんなことを言う魔神にフェクトもナズナも、顔が引き攣っていた。
二人は一度、私の元まで下がり、攻めの姿勢を崩そうとはしていないが、顔色は悪いままである。
「まぁ本当なら皆様方を相手するのも良いのですが、お二人には別の魔物を用意しますね」
指を鳴らすとともに、先ほどまで気配を感じていた魔物が召喚された。
剣鬼と同格、もしくはそれ以上の強さを持っているのは全員わかっていた。
そんな彼らを私は、一瞬にして首を切り裂いたのである。
「は? 剣聖様どうしてそんなことを」
召喚された瞬間、隙が生まれていた。そんな状態を私が放っておくわけがない。
「強いて言うなら、体が勝手に動いたってことかしらね」
「大人しく二人に戦わせておいたら良いものを! あなたという方は本当に身勝手で、計画の邪魔をする」
右手をこちらに伸ばし、魔法を発動させる。高密度の極小魔弾。
斬ることが困難であり、それもあってか満遍なく効果のある魔法。
「その程度の魔法、私に通じるわけがないでしょう」
飛散する魔弾は空中で斬り裂かれ、全て消滅する。ついでに魔神の右腕も斬り落としておいた。
「――がぁぁっ! 腕がー俺の腕が!!」
「私があの程度で力を見せていると思ってたの? 目論見が甘いんじゃないかしら」
「うっさいわ、ババア!! お前に何がわかるって言うんだよ、俺はな、こんな場所で今日まで外を知らずに生きてきたんだぞ!」
本性はまるで昔近所に住んでいたクソガキのようだ。
悲痛な痛みで我を忘れ、思ったことを吐き捨てるように言葉を並べていく。
「その程度の痛みしか知らなかったの? まだ貴様より、あのゴブリンキングの方がよっぽどダンジョンマスターに相応しいわ」
剣を握る手にも力が入る。魔神は危険を察知したようで、逃げようとするが、二人から強烈な一撃を喰らう。
「――ぐあっ!」
「ようやくぶち込めたぜ、俺たちの力、とくと味わって貰おうか!」
「そうニャー、あの一撃を止められて、どれだけ悔しいと思ったか思い知ったか!」
魔神は怒りと痛みで言い表しにくい顔をしていた。それでもなお、魔神はまだ戦うことを選んでいた。
膨大な魔力量をふんだんに使い、先ほど同様な魔弾を発射させる。
だが一つ違う点があった。
「属性魔法か……その上、魔法名はシャドウか」
闇の刃、聖なる刃ことライトニングとは正反対の属性である。
それでいて、ライトニングに斬り裂かれ、破れることも多いが、それでも強い魔法には違いない。
「これこそが魔法で行う斬撃の強さだ!」
先ほど斬り裂いた時よりも遥かに固く、少々時間に手間取ってしまう。
「そんな時は私に任せな! 双剣乱撃・速叩き切り」
洞窟内を大きく飛び上がり、二本の包丁で叩いて斬るかのような剣技。
圧倒的な量を質で叩き刻んだのだ。それはどうやら魔神にも届いたようだ。
血飛沫を吹き上げ、至る所から血を流している。そうして、最後はナズナに一撃をもらいそのまま消滅する。
「私たちの勝利だニャー!」
全員最後の魔法でダメージを負ったものの、それよりも勝利の高揚感の方が勝っていた。
そうして、私たちはそのままダンジョンから追い出され、ダンジョンはまた深い眠りにつくのであった。




