510話 剣聖少女VS寒風少女
10章最終回です。
寒風少女は剣を見つめ、攻めの姿勢に入る。一切の隙がなく、魔法なんてなくても強いことを充分に示していた。
私自身も攻めの姿勢に入り、一点を見つめる。その間も寒風は吹き荒み、存在感を放ち続けている。
「剣聖、御覚悟!」
先に踏み出したのは、寒風少女の方だった。地面を蹴り上げ、一気に前に進む。風に乗って、その速さは凄まじいものだ。
木剣と木剣がぶつかり合う。木剣ならではの音を鳴らし、その激しさを物語っている。
打ち込みの速さ、正確さ、鋭さ、そのどれをとっても一級品と呼べる太刀筋をしていた。
これがここ数ヶ月の間、あまり剣を握っていない少女がこの強さを出している。
そんな強さを見せつけられて、私の心に火が付かないわけにはなかった。
「それでもまだ、私には届かないわよ」
一瞬、イラッとした表情を見せたがすぐに真剣な顔に戻り、邪念を振り払うかのように連撃を繰り出してきた。
全て捌き斬り、私は一度大きく後ろに飛ぶ。
それを見て、寒風少女も後ろに飛び息を整える。寒風が吹いていても暑さはそこまで変わらない。
汗を拭い、それを地面に勢いよくはたき落とす。息を呑み、次の一手を考えているのがこちらにまで伝わってくる。
どうすれば私に攻撃を喰らわせることができるのか、勝つことができるのか、その真剣な表情から読み取れた。
「次の一手を考えているようだけど、私の前では無意味ってことを教えてあげるわ」
ハッとする表情。だがそんな表情をしていたら、私の一撃には間に合わない。
一瞬の隙を突き、風を斬り裂き腹部に強烈な一撃を叩き込む。悲痛な表情、驚きの表情が混じったような顔でこちらを見つめながら地面に落ちていった。
「――何今の? 全く剣筋が見えなかった、それどころか寒風の向かい風に風穴を開ける勢いってどんなスピードしてんだよ」
「それぐらいできて当然よ。私は生粋の剣士、それに私は剣聖なんだから」
「答えになってねぇ、でもそんな高み、越えてくなるのも人間の性ってもんだよね」
不用意に近づいた私がバカだった。砂を思いっきり投げつけられ、重い一撃を喰らう。
痛みのあまり声を出したくなるが、ぐっと堪えてそのまま一撃を打ち込む。
虚空を斬り裂き、地面にぶつかる木剣。気配感知をすればよかったと後悔しつつ気配を探る。
真後ろからの反応、目が見えていないがそれさえわかれば充分だ。
振り返りつつ、その一撃をガードした。木剣から全身へと伝わってくる痛みを堪えながら、それを跳ね返す。
「私、だいぶ重たい一撃を叩き込んだはずなのに、なんで普通に立ってるのよ……剣聖ってやっぱ怪物だわ」
「さっきの目潰し、あれはいい手だと思う。魔物との戦いでも、目潰しをして助かった事例はいくつも存在するからね」
「戦ってる最中に講義かよ、でも教えてくれることによって、戦いの幅を広げさせるのは流石戦闘狂」
ようやく目が見えた。飛び込んでくる寒風少女は、どこかとても嬉しそうにも見えた。この戦いが楽しいと思ってくれるのなら、この戦いをしたことは断然意味のあること。
そう思ったら、まるで踊りたくなるぐらいに気分が高揚していた。
「でもそろそろ終わりの時間だよ、もうわかってるでしょ」
「そんなのどうでもいい、私は限界を超えてアリア勝つ!」
鋭い突きは衝撃を頬に傷をつけた。避けたつもりだったが、成長をしているということだろう。
それに何より、おそらく彼女は今回の組み手でより覚醒すると確信していた。
「絶対に負けたくない、そんなことを思ったら私、もっと強くなれることに気づいた。今更だけど、でもそれに気付かせてくれたこと、本当に感謝してるんだ」
凄まじい速さの連撃、木剣を持っている手が悲鳴を上げそうになるほどには痛みを感じている。
痛みで顔をしかめそうになるが、それでもこの一瞬を逃さないように、私は木剣を振るう。ぶつかり合い、互いに反発し合う木剣。
より強く、より早く、より正確に撃ち抜くために、私はもっと強くなりたいと願う。
「その心意気、忘れたらダメだからね」
木剣を粉砕し、ユーベ自体にもダメージが通る。悲痛な叫び声を上げることすらなく、無音のまま膝をついて倒れそうになる。
汗同様に、血が地面に落ちていく。それでもまだ立ちあがろうとするユーベの姿はかっこよかった。
「まだ負けてない、だって私はアリアに勝つ人物なんだから」
そんなことを言っているが、もうほとんど意識なんて残っていないはずだ。
それでも、ボロボロになりながらも木剣が無くなろうとも関係なく立ち上がる。
そうして、ユーベはこちらを見つめ口を開いた。
「木剣がなくたって関係ない、これが最後の一撃」
木剣を落とし、血が流れていく拳に力を入れた、攻めの姿勢となり、ただ一点を見つめる。
「我が声を聞け、我が受けてきた痛みを汝に刻む。衝撃波・ガントレット」
「剣聖たる所以の一撃、汝に刻むは我が剣技、我が身を滅ぼした一撃、剣聖剣技・ソードインパクト!」
勝負は一瞬だった。一瞬にしてユーベは空中を舞い、その衝撃ははかりしれないものだっただろう。
それほどまでの一撃を受けて尚、ユーベの気配は死んでいなかった。
ボロボロになったユーベは、どこか満足そうな顔をしており、これから起きるであろう苦しみも、耐えられるような気がした。
「終わったのね、あ〜疲れた……マジで疲れた」
「その割にはいい顔をしてるわよ」
「そうだぞ、あんな一撃喰らっておいて、利き腕の骨が折れた程度で済むなんて大した化け物だぜ」
「それは元からニャー、今からやらなきゃいけないことはわたしたちに任せて、明日に備えるニャー」
三人は、それぞれがしなければならない用事に向かった。
翌日。私たちは国の人々に見送られながら旅立つ。
暑い日差しもまた、新たな旅路を歓迎するかのように眩しく、私たちの背中を押してくれている気がした。
そうして私たちは、また新たな旅を始めたのだった。
寒風少女編いかがだったでしょうか?
作者的には、いいライバルキャラが書けたなって印象を持つ章でした。
これからもよろしくお願いします!




