501話 再生した国
夏の日差しが煌々と輝いている。昼間の一番高くなる時間なのか、いつも以上に暑く感じる。
戦いが終わって一時間ちょっとが経った。街に被害は出たが、亡くなった人はいなかったらしい。
それに何より、あんな暴れ方をしておいてここまで被害が少なかったことをイデリアは驚いていた。
普通であれば、国のインフラが崩壊してもおかしくない。それだけのことが起こったのにもかかわらず、建物が一部全損しただけで済んだのは、これも全てこの街の人々が頑張ったお陰だと私は思う。
でもそんな景色とももうすぐお別れである。別れる前に、この街並みを見ておきたいと、私は一人街を歩く。
住民たちはまだ、国の外で大勢が待機している。ここにいるのは、動ける冒険者や国の中枢に携わっている人々だけだ。
その理由は至ってシンプル。倒壊の危険性も多い建物もある中、安全確認もままならない状況で、住民たちを入れて事故が発生する危険性を考えたからである。
それにしてもこの国、随分と本屋が多い。それに図書館も二か所あり、それぞれ置いているものが違うらしい。
この国は、それだけ貴重な本がある可能性も高い。それを考えたら、ここで騒動を起こしたのにも何か意味があるのではないかと考えてしまう。
そんな中、大規模な魔力の流れを感じる。後ろを振り返り、その魔力がどこから流れているのかすぐにわかった。
それは、イデリア。イデリアの魔法は一長一短で真似できる代物ではない。それにフェクトの魔力すら感じる。
私はとりあえず邪魔にならないようにほうきに乗って飛び上がる。
そうして次の瞬間、ピカピカと光り輝き国全体が修復された。
「やっぱり二人ともすごいね」
思わずそんな言葉が口から溢れていた。国の修復が終わったのを知ってか、一斉に住民たちが雪崩れ込んでくる。
皆、早くいつもの日常に戻りたいのだと伝わってくる。それだけ、この国は愛されているのだと思った。
私は近くにあった時計を見る、時刻は夕暮れへと刻一刻と迫る時間になっていた。
「流石にそろそろ戻らないとね」
私はほうきを走らせ、みんなの気配がある所に向かう。一つの気配は、元気満タンといった感じでビシビシと感じ取れる。
それとは一方、もう二つの気配はまるで萎れた花のような気配を醸し出している。
それが何を意味するのか、すぐに私はわかった。そりゃ、ここまで大規模な魔法を発動させたのだ、そうなっているのは仕方ない。
「二人ともお疲れ! 一瞬で元の街並みに戻っててやっぱり二人はすごいね」
二人は、座り込んで息を切らしている。すぐに返事ができないのか、軽く頷いた。
それだけ魔力の消費が凄かったのだとわかる。実際に、二人の魔力量はだいぶ減っており、すぐに立てないのも無理はない。
「二人とも、私の魔力を少し分けてあげる」
二人に触れ、私は魔力を流し込む。それはまるで物がレールに乗って運ばれていくかのような感覚。
目を開けると、二人はだいぶ顔色が良くなっているのがわかる。
それにだいぶホッとした顔をしていた。
「アリア、戦闘で疲れているはずなのにありがとう。流石に一気に魔力を消費すると貧血みたいに倒れちゃうわ」
「ありがとうな、アリアが魔力を分けてくれなかったら、ここで野宿する羽目になってたぜ」
二人とも、それは言い過ぎでしょ。そんなことを思ってしまう。この二人はそれほどまでに強い。攻撃系、回復系、結界系を使えない私では、絶対に辿り着けない所にいる。
もう一度言うが、それほどまでに二人は強い。
「それはそうと、寒風少女はどんな感じなの?」
やはり気になってしまう。寒風少女はもうすでに目覚めているのか、まだ眠っているのか私は知らない。
それに今後、寒風少女がどうなってしまうのか、それが本能的に知りたいのかもしれない。
それだけ私は、寒風少女という存在に心を奪われている。
「あの子ならまだ眠っているわよ、相当アリアの一撃が強かったんでしょうね、数日は目覚めないわ」
そんなに強くしただろうか。そんなことを考えていると、国の方から軍隊の鎧を身にまとった一人がこちらへ向かってくるのに気が付いた。
「お疲れの所申し訳ないのですが、領主様がお会いになりたいと言っておられるのですが、よろしいでしょうか?」
これは私一人で来いということだろう。ここで、ここで実際に戦ったのは私だけ。
ここで仲間たちを連れて行っても迷惑になるだろう。それに何より、フェクトの方はだいぶ疲れているのがわかる。ここで無理に行かせるのは、止めといた方がいいだろう。
「ナズナ、先にフェクトを連れて宿屋を探しておいて。私はとりあえず行ってくるわ」
本当はこんなこと、興味ないのだがここで行かないと言った所で、後から騒がれる方が面倒。
「早く帰ってくるニャー、いってらっしゃいニャー!」
そうして私は、その兵士に誘導されて転移した。そこは、確かに領主邸の前。
立派な家であり、先ほど散策した時にはこれほど立派な家はなかったと断言できるほどには、大きな家だった。
「剣聖様、軍を代表してお礼を申し上げます」
兵士は、深々と頭を下げて涙が垂れていた。そうなってしまうほど、兵士にとってこの国は大切な場所だったのだろう。
ドアを開け、中に入ると使用人の一人が出迎えてくれた。白髪の老体であり、執事服が似合っている。それだけじゃない、相当な手だれなのか、隙はなくどこから斬りかかっても最初の一撃は決まらないだろう。
「お待ちしておりました、奥で旦那様がお待ちです」
そうして案内され、一際豪華な作りをした扉の前に止まる。そこに領主がいるのだろう。
それにしても、他の部屋は普通の作りだというのに、ここだけ別。まるで、どこかの村で見た、切り取られた感じであり息を呑んだ。
「旦那様、剣聖様をお連れしました」
扉を開け部屋の奥、そこに領主は座っていた。とても温厚そうな見た目をしていた。
領主は立ち上がり、こちらへ駆け寄り口を開く。
「この度は、この国を救ってくださり誠にありがとうございました」
その言葉の端々から、どこか嫌な感じを察するのであった。




