1話 あてもない旅がしたいので剣聖になりたいと思います
これから剣聖少女を更新していきます。
よろしくお願いします!!
「あてもない旅がしたい」
いつものように遊んでいた時、それは、何の脈絡もなくぽつりと漏れた言葉だった。
幼い私は、空を見上げながら、誰に言うでもなく呟いた。
──それが、すべての始まり。
私、アリアは商人の家に生まれた。店主である父と母、賑やかな日々を過ごしている。
今日もいつもの日常と変わらない。仕入れと配達に、箒に跨り空を飛ぶ従業員。余にもたくさんの人たちが空を飛び回っていた。
黒茶の長い髪を風でなびかせながら、憧れの目を向け上空を見る。
まだ小さい体。まだ単身で箒で跨り、飛ぶこともできないお年頃。
それに国を出れば、魔物なんかもたくさん居る。旅をするには、お金と生き抜く強さが必須だ。
私は、魔法使いでもなければ魔術師、結界術師、回復術師、冒険者でもない。
何ができる? 何を手にすれば、旅立つ資格を得られる?
──答えは、一つしかなかった。
剣を、極めること。
実家のお店には、冒険者も多く出入りする。だからこそ、そう思ったのかもしれない。
それに剣の技術があれば、魔物にも賞金首にも対抗できる強さが手に入る。
そう思ったのなら、後は簡単なことだ。ただひたすら剣の道を一生賭けて極めることだ。
そうして、三年という月日は流れ八歳になったある日の事。
今日も、私は木剣を振るう。五歳の誕生日に買ってもらった子供用の剣である。
それに加えて、体力作り、素振りはこの三年間一度たりとも休んだことがない。
配達では、自分の体重と変わらない荷物を持って、国中を毎日駆け回っていた。
「なんで、私あれに加えておもりを加えて走ってたんだろう」
私は思い出し笑いをしつつ一度家に戻る。
そんな中、昼頃家に届いた郵便物の中にひときわ目を引く紙が入っているのを目にした。
私は、それを見た瞬間テンションが最高潮にまで一気に上がるのを感じ取る。それほどまでのことが起きたのだ。
そのチラシにはここから離れていない国で、剣聖主催の剣術大会があることを知った。
総合優勝の暁には、現剣聖との試合が出来るのだ。そこで勝てば、剣聖の称号を手に入れられるのだ。
その出場条件には、子供も大人も関係ない、老若男女誰でも参加が可能なのだ。
こんなチャンス早々巡り合うことは出来ないと心からそう思ったのだ。
そうと決まれば、やることはただ一つだ。
親を説得すべく、家の中を走る。
「お母さん! 今度の休みって仕入れに隣の国に行くって言ってたよね。私も連れてってよ!」
「何バカなことを言っているの、アリア。あなたのことだから、剣聖様主催の剣術大会のことを嗅ぎつけたのでしょう?」
機嫌の悪そうな声ではっきりわかる。今、話を持ちかけるのはさすがに悪手だったと思い知らされる。
それも当たり前かもしれない。
リットは、渋々了承してくれた剣の修行を一刻も早く辞めてほしいと思っている。
しょうがない。お父さんに話し持ちかけてみるか。
お父さんは、なんだかんだ言って最終的には、いつもお願いを聞いてくれるし頼んでみようっと考えたのだ。
そんなことを考えていると、母親の口が動いてるのが見えた。
「アリア、あなたが強いのはお母さんだって、充分わかっているわ。けれどもお母さんは、危ないことをしてほしくないの」
「私は剣術大会に出たい! だって私は、あてもない旅がしたい。そのためには、どうしても生き抜く強さが必要だった、だから私は剣を振るっているの!」
母親は呆れた顔をこっちに向けてくる。この話は、何度もしてきたことだ。最初は、冗談に受け取ってきた母親も何年も言い続ける私に怒鳴って来たものだ。
私のことを心配してくれてるのは、わかっているつもりだ。
しかし、私はどうしても旅がしたかった。図鑑や買い物に来る冒険者から聞く冒険譚を自分自身でやりたいと思ってしまったのだ。
それを今さら変える気もさらさらない。
だってそれが私の夢だから!
母親の深く重いため息が聞こえる。
「いいわよ行きましょう、その代わり顔なんかに傷を作らないでよ」
「お母さん、ありがとう! 絶対に作らないし勝つよ」
正直に言って勝つ自信はない。それでも私は、自信を持って言うのだ。
そうして、私はお母さんが用意した食事に手をつけた。
その日の夜は、お父さんは私以上に喜んでいた。お父さんは、かつて冒険者を心目指していた人だ。
最初は、無理やりでも冒険者になるぞって意気込んでいたけど、だんだん怖くなったのであろう。商人として冒険者を支えることに従事する方向に舵を切り替えたのだ。
「アリア楽しみだな。絶対勝てる! 何たってあんな大男を倒したアリアだもんな」
「ライデンさん飲み過ぎですよ。全くもう〜」
その日の夜は興奮してあまり眠れなかった。
まだ数日があるというのに、体が疼くのだ。
そして数日間の間、みっちりと基礎をやり込み体力をつけた。
「後のことはよろしくね」
「いってらっしゃいませ、奥さま」
母は、店を一番の古株に任せ家を出た。
父親の所に体を寄せ合い、魔法を唱える。
「転移」
次の瞬間、目を開けると隣国である国ハルタンに到着したのだ。
父とは、いったん別れ会場に急ぎ足で向かう。
大勢の人がいる中、母が私を抱き抱え人と人の隙間を分けて会場にたどりたいた。
ヒシヒシと伝わってくるピリついた会場の雰囲気、思わず腰にさげている剣に腕を掛けた。
「早い早い、ちょっと落ち着きなさい」
母に止められなければ、木剣を取り出していた所だ。
そんな中、もともと視線を浴びていたが、ここらにいる人とは違う視線を感じ取る。
その視線の先には、今年で十年目の現剣聖の視線を感じ取る。剣聖は、特別観覧席にて座っていた。
剣聖はお美しい方だ。短髪で金髪の毛を特徴としており、逞しい体で人々を魅了して来たものだ。そして、剣聖ということもあってとてつもなく強い。
男女を問わず多大なる支持を集めており、人気のお方だ。
視線を向けられるのも無理はない。子供で女の私が受付したのだ。そりゃ気になるであろう。
そんな中、受付を済ませ私は母と別れ試合の会場に来ていた。
みんな、私を見るなり離れていく。
選手の入場も済んだ頃、一人の選手らしき人が入場してくる。
明らかにつわもののオーラの雰囲気がき近づいてくる。
今にも飛び出して、斬りかかりたいと思ってしまうほどだ。
そこに立っていたのは、剣聖リングベルトである。私に指を指して言うのだ。
「分かっていると思うが、そこの女性以外資格はない」
唐突のことで、会場が静まり返る。
辺りを見渡すが、どうやら間違いはないようだ。
それを聞いたものたちは、私以外潔く辞退表明をしていく。
「理由を聞いてもいいかしら」
次の瞬間、剣聖は一気に間合いに入り込んでくる。
あ、遅い?
木剣を取り出し、顔の前で止めた。
「これが理由だ。僕は君には勝てない」
驚きはしたが、何とか止まった。
「何をおっしゃるかと思えば、なぜそんなことを」
正直に言って、私には到底意味がわからない。この人の考えていることがさっぱりわからない。
この人の剣は、そんな剣だ。
「俺の剣を見て遅いと思わなかったか?」
私は、正直に答えた。
「確かに遅いと思ったよ。それと勝負とは関係ないはずだ」
怒りが沸々と湧いてくる。そんな剣聖の一言で、みんな辞退するなんておかしい、実に狂った世界だ。
でもこの人たちに、怪我をしてほしくなかったから結果オーライかもしれないと思っている自分もいる。
「剣聖を受け継ぐのはいいけど、決闘せずにそれを決めるのはおかしくない?」
「君に勝てないのにする必要はないと思うけど」
「え、なんで? 私はあなたに挑みにきたの。それなのに、そんなあなたを見たくなかった。剣聖ってそんなものなんだね」
会場は、どよめきをみせる。冷たい空気が、一気に流れ込んでくる。
冷たい目で彼を見つめる。彼は、無意識に一歩下がる。
「チッ、さっきの話は撤回だ、ここで再起不能にしてやるよ」
よし、これで戦える。私をこれで満たしてくれる。一時はどうなるかと思ったけど、これで本気の剣聖と戦える。
私は正直に言って勝てると微塵も思っていない。
そうして辞退した参加者達は、観客席に移動しここには剣聖と二人しかいない。
今やれること、それを充分に発揮させるんだ。
そして運命の試合の鐘が鳴るのであった。