485話 寒風少女は新たな人類を求めて
緊張が走る。アラタが誰のことを言っているのかなんて知らないが、だがピンと来るやつは一人だけいた。
アラタはセイレの体を摩り、名前を何度も読んだ。そうして、目を覚ました彼女はたった一言、口を開く。
「ユーベ」
その名前は私たちには聞き馴染みのある名前だった。私たちは顔を見合わせ、セイレに駆け寄る。
そんな時、国の方で大きな衝撃音が響いてきたのだ。
「これってまさか!?」
視線を国の方に移す。何かと何かがぶつかり合って暴れているのがわかる。
「ナズナと寒風少女だ! 今あいつら交戦してやがる」
……
時は少しばかり遡る。わたしは今日も宿の方でお留守番。二人が出掛けてしまっている以上、わたしがするべきことはここの番人をすることである。
そう思い、少々小腹が空いたので食堂に降りた。そんな時だった、外で一瞬、見知った気配を感じ取る。
いてもいてもたってもいられず、わたしは外に飛び出した。そこには、以前見掛けた後ろ姿がいた。
「寒風少女! こんな所で何をしているニャー? 返答次第によっては、簡単に済ませるつもりはないニャー」
「あれ? なんだ残ってたんだ、居ないと思ってせっかく表舞台に姿を現したのに」
寒風少女は魔法を発動させ、わたし目掛けて狙ってくる。
「ライトニングなんか、簡単に避けられちゃうよ〜 もっと強い魔法をだしてよ」
それでも寒風少女は他の魔法をだすことなくそのまま魔法を続けていく。
ここは幸い、人通りも少ない場所。それに人々はこの騒ぎでここに近づいてくることはないだろう。
「あなただって考え事かしら? そんなことをしていたら後で取り返しのつかないことになると思うけど」
「それぐらい大丈夫! わたしはこう見えてもあなたよりは強いから」
「その自信がどこまで続くか見ものだよ! サイクロン・ビット」
それは勢いよく飛んできて、わたしの体を自由に動かせなくする。
ものすごい風が、わたしの移動能力を封じ込めてきているのだ。それに伴って、冷たい風に混じって斬撃が飛び始めた。
あの時よりも強くなつているのがわかる。それでも、何とか避けて行き、わたしはサイクロンから高く飛び上がり抜け出した。
「それを待ってたのよ! 斬撃波」
わたしよりも高く飛び上がり、そんな攻撃を放つなんて、思ってもいなかった。
ただ、そんなことをしてもダメージは入らない。
「なんで!? さっきのは上手く決まったはずなのに」
「わたしはアリアの仲間だよ、どんな状況になろうとも、ピンチになったとしてもわたしは負けないんだよ」
ドヤ顔を決めると、それにキレたのか斬撃の雨を降らしていく。
それも全てわたしが破壊してしまった。
「まだ無理して良いぐらいには元に戻ってないくせに、無理にこんなとをするからだ」
その証拠に、寒風少女の顔はだいぶしんどそうにしていた。息も荒く、今にも倒れてしまいそう。
それでも寒風少女は、魔法を放ち攻撃に転じてしまう。
「ここでわたしはまだ、何もできてない。それだけは絶対に嫌だ、わたしはどうしても強くならなきゃなの!」
それでも本調子ではない寒風少女にはキツかったのだ。
「獣拳」
腹部にクリティカルに当たる。地面に倒れ込み、そのままうずくまってしまう。何とも悲痛な声をあげたそうだがずる気配はなかった。
「もうすぐアリアたちもくるニャー、こんな所でお前を捕まえてても何も面白くないニャー」
「ど、同情のつもり!? わたしがこんなにも惨めだからって、逃がそうとしてるの」
わたしは首を縦に振った。殺意という鋭利な刃物がわたしの体を突き刺していく。
だがそれは想像に過ぎないのだ、いくらそんなことを続けても、無理なのは明らかだ。
「寒風少女、あなたには聞きたいことがあるの? この私がそう言ってんだから、逃げるんじゃないわよ」
その言葉は紛れもなくアリアの声だった。鬼の形相で、私の後ろから颯爽と走ってくる。
「まだ、あなたには会うわけにはいかないの! 風よ、斬撃の力を見せてやりなさい」
魔法によって作られた斬撃は、最も容易くその効力を失った。
その後ろからフェクトが現れる。それでどういった状況なのか全てわかったのだ。
だがそれよりも、自分の斬撃がもはや空気なのだと改めて認める他なかった。
「でも、私の斬撃は強い、あなたたちに負けないぐらい」
だがそんな言葉虚しく、アリアによって取り押さえられる。
……
「どういうことか、教えてもらおうか? どうしてあの子に近づいたの」
「やっぱり……失敗したんだ、あんなに力を与えたのに」
「へぇー、そんなことまでしてんだ。その割には、弱かったことも教えてもらおうかな」
そんな笑顔を見た寒風少女の顔は、少しばかり引いたような感じだった。
「なんで、どいつもコイツも私の邪魔をするの? せっかく、新たな人類を生む絶好の日だというのに」
「それは寒風少女の運が悪いからだよ、決して私たちのせいではない」
ボロボロな体で立ち上がり、魔法を放ってくる。斬撃も放ち、一種のパニック状態に陥っている感じ。
それらを全て捌き、私は改めて彼女の前に立つ。
「さぁ、どうしてあんなことをしたのか教えてくれるよね」
圧倒的な強さを前には、小動物にはどうしようもないことだった。
そうして寒風少女は、ボソボソと喋りだす。
「私は、新たな人類を探した。でも、一人を除いては全然見つからなかった」
それがセイレだったのだろう。だからこそ狙われた。だが、それにしてもどうやってここに入ってきたのか、わからない。
この国の検査もある程度は一緒だが、それでも掻い潜れる凄さを聞きたくなってしまったのだ。
「私を誰だと思ってる、新人類のファーストよ! 私に不可能なんていうことはない」
その瞬間、寒風少女の魔力が高まりだし、国の結界さえも不安定な感じになっているのを気配で感じる。
フェクトはいち早く気が付いたが、時すでに遅く逃げられた後のことだった。
「国の結界を弄り上がって」
そんな言葉が響いたのだった。




