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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
第1部-10章 剣聖少女と新たな人類

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482話 精神的なダメージ


……

 翌日。セイレは朝早くから平原に出ていた。魔力を身に纏わせ、精神統一に励んでいる様子だ。


「すごい集中力だな、俺が来たこと気が付いてなかっただろ」


 セイレは、ビクッと肩を上げ後ろに振り返る。俺の顔を見るなり、目が完全に見開き驚いていた。

 セイレは息を飲み、状況の整理を済ませすぐに立ち上がった。


「おはようございます! 本日からよろしくお願いします」


 セイレは、ビシッとした姿勢で挨拶をして、綺麗な礼を披露する。

 セイレ自身の誠実さが窺える。


「早速だが、まずは実践形式で戦ってみよう! どれだけの実力があるか、確かめるには一番手っ取り早いからな」

「いきなりですか!? 私は魔術師として学校で習いましたけど、フェクトさんほどの実力者と手合わせは流石に……ちょっと」

「何をバカなことを言ってんだ、アイツを守りたいんだろ、その程度の覚悟で強くなりたいと言ったのか?」


 セイレの表情は暗くなり、何か言い出そうとしているようだが、完全に萎縮している。

 それでも覚悟を決めたのか、俺の方を向き直すや否や、ハッキリと言葉を口にした。


「手合わせお願いします! フェクトさんが驚くような強さを見せます」

「随分と大口を叩くね、俺は結構好きだぜ」


 そうして、互いに距離を取り、手合わせが始まった。


「インフェルノ!」


 杖を取り出すと同時に魔法を発動。勢いは良く、魔力が強く込められているのがわかる。

 まるで自分の情熱を魔法に込めているかのようだ。


「ファイアーウィップ」


 インフェルノを軽くいなすと同時に、炎の鞭が飛んでくる。


「――あぶね! その魔法、使ってる人初めて見たかも」


 ファイアーウィップ――その名の通り、炎の鞭である。杖を魔法で形状変化させ、中距離からの攻撃を得意とする魔法。

 他にも移動手段で使うこともできるが、それを使うならまずほうきで飛んだ方が断然早い。


「どうしてその魔法を使ったの?」

「単純に好きだからですよ、こんな鞭で魔物を叩けたら楽しいだろうなって思って」


 一瞬、背筋がゾワッとした。魔神でもこんな思いをするのだと、初めてわかった。

 単純に好きだからという理由だけならまだしも、あんな一言を加えられたら誰だってそう思うかもしれない。

 それにセイレのファイアーウィップは使い慣れているように感じた。


「私の魔法、これだけではありませんからね」


 セイレはほぼ最初からトップスピードでこちらへ向かってくる。持ち前の武術センスを活かし、動きに迷いがない。


「インフェルノ・ビット」


 ウィップはインフェルノを全て叩き落としていく。先ほども思ったが、扱いが妙にリアルで上手い。


聖なる刃(ライトニング)

 

 ライトニング!? あの時見た時よりも格段に精度が上がっていた。

 今の魔法は、一切の迷いなく放ってきている。


「人間は少し見ない間に成長するんだな、でもバレているぞ」


 セイレの顔は一瞬歪む。でもそんなこと気にしていないかのように話しかけてくるが、動揺は隠しきれていない。

 その証拠にライトニングは、本人の意思とは別に分解していた。


「ホーミングスタイルだったのだろう、それで俺を倒せると思ったか? そうでは無いよな、自分の実力以上に魔法を発揮しようとしているだけだな」


 図星だったのか、先ほどまで精度の良かったウィップ攻撃は途端に崩れていく。

 まるで、最初の時を思い出すかのように。


「一旦白紙としよう」


 俺は手を叩いた(オフセット)


 次の瞬間には、セイレ自身、魔力の強制終了から生じる痛みに地面に倒れ込み苦しんでいた。

 地面をのたうち回ってどうにかして逃れようとするが、それはできない。

 悲痛な声が漏れ出し、俺と目が合ったと思えば鋭い目つきで睨んでいた。


「実力に合った攻撃をしなければ、体は悲鳴を上げる。それぐらいわかって居たはずだ、それをしなかったセイレが悪い」

「な、なんでそんなことを、言われなくちゃなのよ」


 確かにセイレの言う通りかもしれない。だがそんなことどうでもいいことだ。


「魔法って言うのはな、こういうことを言うんだよ」


 俺はファイアーウィップを生成し、セイレに叩きつけた。セイレは、より悲惨な声を上げ、痛みに苦しんでいる。

 だがそこまでは痛くないはずだ、なぜなら俺は薄い結界をセイレに張り巡らせている。


「精神的なダメージも魔法の一環だな、今まさにセイレが味わっているのは、精神的なダメージの方だ」


 肉体的のダメージはほとんどない。それでもあそこまで顔を歪ませているのは、目から見える情報が凄まじいからだ。

 この魔法は、肉体的にも精神的にもダメージを負わせるには充分な魔法と言える。

 それを今までは使う側だったのが、使われる側になると考えたら、頭はパニックを起こし精神を麻痺させしまう。


「セイレ、魔法ってのはお前が思っているより奥が深い。それでも魔法を使って成長したいなら、また明日来い」


 そう言って俺はその場を後にした。


……


「随分と荒いことをするんだね」


 フェクトはまるで最初から知っていたかのような顔をしながら、私を見る。


「それがセイレにとって必要なことだからな、それに何より魔術師として強くなりたいなら、こういうことも知っておくべきだ」

「フェクトってそういうところ手厳しいよね」

「アリアには言われたくないけどな」

「それもそうだね、私の方が結構ひどいことしてるね」


 そうして私は、アラタの元に向かう。春の平原はほんとに心地よい風が吹く。

 見えてくる人影、遠目から見ても怒りという感情を爆発させている。

 近づいて確かめる。アラタの顔は予想通り怒りに満ち溢れており、今にも私を殺しそうな勢いだ。


「君がそうしたいならそれで結構、どっからでも掛かって来なさい」

「セイレにあんなことをしたんだ、お前らを俺は許さない!」


 この少年はまだ気が付いていない、それが必要なことだってことを……。

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