475話 泉の私
ユニコーンの気配はまるで違う。先ほどまで戦っていたユニコーンとはまるで次元が違うという表現ができるほどに、強い。
「どういったカラクリでそんなことができるのか知らないけど、私に攻撃したからには、殺される覚悟はできているってことで良いよね!」
一気に間合いに飛び込み、一撃叩き込む。それを軽くツノであしらわれたが、そんなことどうでもいい。
先ほど同様に魔法での攻撃を始め、私をこれ以上近付かせないように展開する。
だが、それがどれだけ強くなろうとそんなことは関係なかった。
「私に、同じ攻撃が通じると思ってんの? 強い力を持っているのだから、その力をちゃんと使いなさい」
斬撃の竜巻が魔法を一切合切飲み込み、無に返していく。これで気が付いただろう、これ以上同じ攻撃をした所で無理だと。
「さっきの神速を使うの? 準備動作がわかりやすくてすぐにわかっちゃうわよ。まぁそうしないと、自分の体が持たないか」
私はいつしか笑みを溢していた。そんな姿を見て、ユニコーンは何を思ったのか知らないが、ただ一つ、わかることがある。
「怒った所で視野が狭くなるだけだよ」
そんな忠告さえも聞かず、ユニコーンは先ほど同様の動きを私に見せる。そんな動きが、私には止まって見えた。魔弾を斬り裂き、一瞬にしてユニコーンの死角に飛び込んだ。
そこからは先ほど同様、私の神速に至った斬撃がユニコーンを襲う。ユニコーンは、何が起こったのかわからないといった感じを見せながら消滅を果たした。
「これで終わりかな、そろそろ戻るかー」
そんな時、泉から大きな音と共に一人の少女が姿を現した。その光景に私は笑みがこぼれ落ちる。それほどまでに胸が高鳴り、私自身どうにかなってしまいそうだ。
「まさか私の血までも取り込んで、生成させるのか」
目の前には私と瓜二つの少女が佇んでいた。真剣は、鞘に仕舞われているが、それでも相当な殺気を感じる。
「私を殺すために無理しすぎじゃない? 流石にしんどいと思うけど」
この泉にどういった力があるか知らないが、無理をしているのは間違いない。
それほどまでに泉の気配が、今にも消えそうな蝋燭の火だ。
「でも、せっかく私の前に飛び出してくれたんだ、この戦いをしないわけないよね」
強く握られた真剣を攻撃の構えに直し、相手を見る。相手もまた、私の動きを真似するかのように、攻撃の構えをとる。
まるで、死神と戦うかのような緊張した時間が流れる。
そんな中、飛び出したのは同時だった。両者の顔が悲痛に染まるような一撃がぶつかり合う。
「これが私? こんな勢いよかったんだ、私の知らないナニカを知れそうでなんだかより楽しくなってきた」
それに釣られるかのように、泉の私もまたニヤリと笑う。両者共々、この時間を楽しんでいた。
私の知らない私を見せてくれるこの泉に、私は感謝の気持ちでいっぱいになる。それほどまでに、この戦いは楽しかったのだ。
そんな時間が長くは続かないことを、私たちは理解している。
だからこそ、この時間を大切にした。一手、また一手、放っていくその瞬間を忘れないために。
森に響き渡る剣のぶつかる音、何度ぶつかり合っても、両者共々、傷はつけられなかった。
だが、終わりは刻々と近づいているのがわかる。泉の気配が本当に消え掛かっている。
もうあまり時間がない。それは周囲の自然にまで影響を及ぼそうとしてた。
周りの木々の生命力を奪い、それで生きながらえようとしている。
そんなことをすれば、二度と森も泉も元には戻れないだろう。
「そんなのは嫌だよ、そんなことをするのはやめて、私と剣技で決着を付けようよ」
そんな言葉が効いたのか、泉が正常に戻っていく。そんな中、泉の私がこちらを見つめてくる。
「わたし……あなたの血を、取り込めて、よかった。こんなにも強い、血は、初めて。だから、わたしの全力、あなたにぶつける」
背後の泉が、中心部から勢いよく水が溢れ出してくる。泉の命を燃やしているのだとすぐに理解できた。
私自身、剣を見つめ、覚悟を決める。それが剣聖として、冒険者として、泉に引導を渡す者として、やらなければならないのだ。
「剣聖たる所以の一撃、汝の力を認め、我の力を汝に見せつけよう。汝、その覚悟があるのならば我が剣技に打ち勝って見せよ! 剣聖剣技・剣聖抜刀」
一瞬、何かに当たったような気がする。私が目を開くと、そこには泉の私は消え去った後のようだ。
泉の方に目を向けると、最初見た時は溢れそうなほどにあった水は、全て消え去りそこには大きな空洞があるだけだった。
「君は最期、私の剣技を受け止めとうとしたんだね」
迎え撃つのではなく、守ることを選んだ。その意味はおそらく迎え撃つだけの力を失っていたからだろう。
私は、その場に座り込んだ。先ほどまで、アドレナリン出まくりで疲れなんて吹っ飛んでいたが、今になって体が重い。
「流石に三連戦は疲れたな、その上相手が私なんだから尚更よね」
そんな時だった、茂みの奥から二人が飛び出してきた。私を見るなり、少しばかり驚いた顔をする。
「何やってんだ? 随分と激しい戦闘をしていたみたいだけど」
「どんな魔物と戦っていたの? アリアが魔物相手にあんなに強い気配放つなんて」
私は振り絞った声で言う。
「話したいことは山ほどある。でも今は、ちょっとだけ……休ませて」
フェクトが私の体を持ち上げた所で、私は力尽きたのかそのまま眠ってしまうのであった。
気が付いた時には、辺りはすっかり日が暮れて料理ができるころだった。
「お! ようやく起きたかアリア! 早くご飯を食べようぜ」
「アリア元気になったニャー? ポーション掛けてだいぶ楽になってると思うけど」
確かに、ポーションの力を感じる。疲労感が溜まった体に随分と効いたのだろう。体が軽く感じる。
「ありがとう! 早速なんだけどさ、昼間にあった話を聞いてよ」
「それを待ってたニャー、わたしそれを聞きたくて、ずっとアリアが起きるの待ってたんだよ」
そうして、私は今日のできごとを全て話した。二人は時折り悔しそうな顔をしつつも、とても楽しく聞いてくれた。
私は今日のことも忘れないだろう、あんな泉との戦い、また味わってみたいものだと、私は心の底から思うのである。




