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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
第1部-10章 剣聖少女と新たな人類

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473話 冒険者やめたほうがいいよ


 二人が帰ってきたのは、空が夕暮れに染まり始めた頃だった。

 二人は、どことなく満足した感じなのが伝わってくるほどに顔が笑顔で満ち溢れていた。


「それにしても今日の組み手、結構良かったよな」

「うん、わたしのカウンターも結構上手いこと決まってたニャー」


 そんな会話しながら二人は戻ってくる。私が「まだ遊んでて良いよ」と、言った日には、おそらく二人は目を輝かせて喜んで遊びに行くだろう。

 そんなことを思いながら私は、椅子から立ち上がり料理の準備を始めていく。


「せっかくならアリアは休んでいたら良いのに、今日は俺たちが作るぜ……って、なんでそんなにも機嫌が悪いんだ?」


 流石は使い魔だ……そんな言葉が頭の中にすぐに浮かんできた。

 私の異変にすぐに気がつくあたり、相当感覚が研ぎ澄まされているのがわかる。


「そんなに小説がつまらなかったの? あんなに楽しいそうに読んでいたのに」

「それもあるけど、私が魔物と戦っているの気が付いてた?」

「もちろん」


 二人同時に声が聞こえた。それで全てを察知したのか、二人はこれ以上話を聞いて来なかった。

 翌日。私たちはいつもようにほうきに座り、旅を再開させる。

 風を切り、空を駆け抜けていくほうき。それはなんだか、モヤモヤした気分を晴らすかのように進んでいく。


「とりあえず今日はどうする? この先に魔物の気配を感じるけど」

「でも近くには村とかはないわよね、それだったら放置しても良いと思うけど、実際どんな魔物か見てから決めようか?」

「賛成! でもせっかくなら戦いたいニャー」


 そうして私たちは魔物の気配を感じる場所まで飛んだ、そこにはどうやら別の気配も混じっていた。

 三人とも瞬時に顔をチラッと確認する。この状況がどういうことなのか、すぐさま理解したのか私たちは戦闘態勢に移行する。


「なんでこんなところに……アイアントゴーレムがいるんだよ!」


 そんな声が聞こえてくる。間違いなく冒険者なのがわかる、ただ声を聞く限り若い感じがした。


「そんな弱音を吐いてないで前衛に集中してよ! 私は今日、山菜採集クエストだから付いてきたのよ!」


 完全にパーティー崩壊が始まっている。どのみち、このままだとこのパーティーは喧嘩別れする羽目になるだろう。

 だがそれは、生きて戻ったらという話が大前提なのだが。


「早く攻撃魔法をくれ! それに合わせて倒すからよ」

「うっさいわね、そんなこと言われなくてもわかってるわよ! 聖なる刃(ライトニング)


 杖から放たれる一撃はイデリアたちには遠く及ばず、なんとも可愛いらしい魔法が発射した。

 それを後ろにジャンプで回避され、行動がワンテンポ遅れているのがわかる。

 本来の作戦なら、ライトニングが命中後、剣技で一気に仕留める作戦なのだっただろう。それが回避されたぐらいで、崩れるなんて、冒険者自体が向いていないのが分かってしまうレベル。


「もう一度くれ! 次こそは当ててくれよ」

「そんな他力本願なことやめてよ、まずもってね、あんたがあの時剣技放つべきだったんでしょうが! それが私のせいみたいにしてさ、ほんと頭おかしいんじゃないの!!」


 私たちは呆れた様子で見ていた。なんとも低く、逆に魔物が気を使って逃げようとするレベルである。

 フェクトの方をチラッと見ると、呆れているだけではなくキレそうになっているのがわかる。


「フェクトが飛び出したらそれこそ、二人とも失神して倒れるわよ」

「そんなことはわかってる、ただあんな奴が冒険者なんてどうかしてるぜ」


 確かにそう言いたくなるのもわかる。それに何より、彼女が言っていたことも気になる。

 ここは結構広めの森で、上空にいる私たちでも終わりが見えないほどに広がっている。それに何より、この近くには村も国もない。相当、長旅をしなければここには辿り着けないはずだ。

 それなのに、たった二人でこんな所にいるなんてあまりにも無謀すぎる。


「ねぇ見て、魔物が逃げていくよ! これで戦わなくて済むよね」

「何っていんだ、ここでコイツを倒せれば俺たちの評価も少しは上がる、それを簡単に手放せるわけねぇだろ」


 なんの剣技を放っているかは判別できないが、本当に反吐が出るほどに怒りが湧いてくる。


「せっかく、気を利かせて逃げてくれてる相手を背後から襲うなんて、どんな神経してんだい?」


 軽く吹き飛ばし、木々に新米冒険者を叩きつけた。魔術師の彼女は、状況が飲み込めないのか、あたふたしている。


「私の名はアリア、剣聖の称号を持つ冒険者さ」

「俺はフェクト、アリアの使い魔だ」

「わたしはナズナ、獣人族ニャーよろしく!」


 魔術師の彼女は未だに状況が飲み込めないのか、今にも倒れそうになっている。



「――いてて……テメェ何んすんだ! せっかくの魔物が逃げちまったじゃねぇかよ」

「せっかくの魔物? バカなこと言うんだね、それに先輩冒険者として一つアドバイス、さっさと冒険者なんかしてないで普通に働け!」


 先ほどまで威勢の良かった新米冒険者の男は、子鹿のように足をプルプルとさせ、恐怖に満ちた顔をする。


「アラタ、ここは剣聖様の言うことを聞くべきだよ! 私たちがこんな所にいたら危ないって」

「し、しるもんか! 勝手に帰れ! アイツは俺の獲物なんだよ」


 少々大人気ないがことはわかっているが、それでもあんな口の聞き方をされたのだ、そう思ってしまうのも無理はないだろう。


「ご、ごめんさい! 本当なら私が止めないとダメなのに、剣聖様ほんとごめんなさい、すぐに転移しますから」

「ちょ、何言ってんだ! 俺は帰らないぞ」


 その時だった、私が吹っ飛ばした時よりも遥かに強い一撃がアラタという男を吹き飛ばした。

 魔術師の彼女が思いっきりビンタしたのだ、その結果当たりどころが悪くクリティカルで決まる。


「本当にご迷惑をお掛けして申し訳ござませんでした! それではまたどこかで、剣聖様とはまたどこかで会える気がします!」


 装備を付けたアラタを担ぎ上げ、そのまま転移して消えていった。

 その時私たち全員が思っただろう、どう考えても彼女だけなら魔法なしで、余裕でアイアンゴーレムを消滅させられたと。


「……気づいてないのが、もったいないくらいね」


 二人はその言葉に苦笑するのだった。

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