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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
第1部-10章 剣聖少女と新たな人類

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472話 スケルトンナイトと本一冊


 暖かな日差しが顔に当たる。

 それは昼下がりのことだ、いつもように読書をしていると、ふとした瞬間感じるこの暖かさ。

 本に目線を落としていたのを止め、顔を上げる。フェクトもナズナも森の奥深に遊びに出かけたのか、遠い場所で気配を感じる。

 暖かな日差しは、まるで私を散歩に誘い出すかのように、そっと背中を押し出すように温めた。

 それに釣られて、私は椅子から立ち上がり、机に本を置いて歩き始めた。最初は、歩きながら軽く凝り固まった体をストレッチするかのように動かし、体をほぐしていく。

 そよ風が吹き、木々が揺れる。まるで音楽を奏でるかのように、カサカサと音を立てた。


「それにしても今日は随分といい天気だね」


 今朝、ほうきで旅をしている時から思っていたことが口からこぼれ落ちた。

 そうして、私はゆっくりと森の中を歩き始める。

 自然の大地を踏み締め、景色を楽しんだ。寒い冬を超え、新緑が生い茂る木々は生命力に溢れ、疲労感を漂う体にはいい薬である。

 そんな時でさえ、あのことを思い出し、考えてしまう自分がいた。

 完全に取り憑かれているのだとすら思ってしまうほどに、私の頭は寒風少女との対峙がいつまでも浮かんだままだった。

 腰の鞘に仕舞ってある真剣に目を向ける。真剣を見つめていると自然に真剣を取り出していた。

 立ち止まり軽く一振りする。その一振りは凄まじく、危うく斬撃までもが飛び出し掛けていた。それほどまでに、私の体は力んでしまっているというわけだろう。


「覚醒者と戦うってことはこう言うことなんかな」


 そんな言葉が無意識の内に発してしまう。ハッと我に返り辺りを見回すが二人の気配は遠いままだ。

 どこか、ホッとした様子な私に自分自身、笑ってしまった。

 聞かれたって別に構わないことなのに、どこかホッとしてしまっていることを思い返し、もう一度笑ってしまう。


「こういう時は、やっぱり組み手に限るかしらね」


 だが、今の二人を邪魔するわけにはいかない。せっかく、森の中で大はしゃぎしているのに、それを中断させるのはどことなく勿体なく感じてしまうから。

 ここ最近、ずっとナニカに追われているような生活をしていた。それに、寒風少女との一件以来少なからず私たちにも変化はあった。それなのに、これ以上二人に負担を掛けてしまうようなことは、私自身したくない。


「とりあえずこんな所で剣を振ってても仕方ないよね、そろそろ戻って読書の続きでもしますかね」


 あの時は、ふと気が付いた陽の光に背中を押さられるような形で歩き出してしまった。

 本当なら今ごろ、物語は佳境を迎え、最後の一幕へと向かっていたはずだ。

 それに何より、あんな所でお預けを食らっておいて、早く読みたいと思い立ち、私の足は駆け出していく。

 そうして拠点に戻ってみるとそこには、魔物が結界の周りを観察してまわっているところに遭遇する。

 私はすぐさま気配を消して、木の後ろに身を隠す。腰に下げてあった真剣を抜き、タイミングを見計らって私は飛び出して行った。


「スケルトンナイト風情が結界を見て理解できるわけねぇだろ!」


 大きく飛び上がり、真剣を構え振り下ろした。


「まずは、一体! お次はどの子が相手になってくれるわけ?」


 手前側にいたスケルトンナイトは骨状の棒を生成させ、私同様構えを取る。

 見よう見まねでやっているのは、誰が見たってわかるほどの素人同然だ。


「もしかしてスケルトンナイトの産まれたて? そんなぎこちなさ、バレバレだと思うけど!」


 そんな相手にすら容赦せず、私は一気に詰め寄る。スケルトンナイトは、棒を振り回すがそんな攻撃当たるわけなかった。

 それに何より、隙だらけでそっちの方で笑ってしまう。

 そんな時だった、そんなスケルトンナイトを無理矢理どついて吹っ飛ばしたナイトが私の剣を受け止める。


「もしかしてあの子を庇ってるの? その強引に守る感じ、私は好きよ!」


 一方的に剣を打ち付け、追い詰めていく。だが、それでも目なんてないはずなのに、熱い闘志のようなものが目の空洞から感じる。


「何それ!? いいじゃん、私をこんなにも楽しませてくれるの? なら私も張り切るしかないわね!」


 先ほどよりも早い剣技がナイトに襲いかかる。それを必死にいなすだけで、攻撃には繋がらない。

 それどころか、消耗が激しいのか先ほどよりも鈍いような気がしてならない。


「どうしたの? 私を殺すはずなのにもうバテたとかないよね! まだまだ終わったら嫌だからね!」


 だがそんな言葉虚しく、ナイトは砕け散って消えていく。その無念を晴らそうと他の連中も、向かってくるが先ほどまでの魅力は感じなかった。

 ただ処理していくかのような感覚で、私は刃を振るう。そうしていつしか、目の前に残っているのは、あの新人兵だけだった。


「あとは君だけよ、君を守ろうとして消滅を果たした恨みはとらなくていいの? 向かって来なければ、私が一撃であなたを終わらせる」


 真剣を構え直し強く握る。


「さぁ、どうするの? そのまま木にもたれたまま死んでいくつもり?」


 精一杯首を横に振るが、足がガクガクで動こうとはしない。


「君が動くまでは待ってられないんだ、だから死んで」


 私は、木にもたれ掛かったスケルトンナイトを突き刺した。

 そのまま魔物は消滅を果たし、消滅していく。全てをやり終えたあと、私は結界の内に入る。

 真剣を鞘に仕舞い、机に置かれたままの本を手に取り椅子に座る。

 残り数十ページもない本を開き、また物語の世界に入る。パラパラと見開き読み終わるごとにページを進め改めて読んでいく。

 物語はなんとも想像通りの結末を迎え、ハッピーエンドを向けて読み終わる。ノートを開き、タイトル、作者、読了日、あらすじ、感想を簡単に書いて私は本をボックスの中にしまう。

 おそらくその本は、今後私自身の手では開かれることはないだろう。そんなことを思いながらノートも一緒に放り込む。


「面白かった、また誰かに巡り会うことを心から願っているよ」


 そうして二人の帰りを私は待ち続けるのだった。

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