464話 特集! 剣技と魔法ってどっちが強い?
全員一瞬、何を言っているんだと言わんばかりの顔をする。
それほどまでに、師匠の言っていることが理解できなかったのだ。
「今、発注可能なクエストの中で、元剣聖であるあなたがやるようなクエストはないと思いますが?」
イデリアがそう言いたくなるのもわかる。辻斬り騒動はすでに解決しており、もうすでにギルドのクエスト一覧にも載っていないはずだ。
それに何より、昨今の王都で師匠に頼りたくなる案件は全て、守獣、攻獣によってクエストは完了しているはず。
「なんでそんな不思議そうな顔してるんだ? お前らもしかしてエルザから何も聞いていないのか」
師匠の口から、エルザの名が出てくる方が衝撃的で、話が入ってこない。
みんなの顔をチラッと見るが、全員似たような反応をしている。
「俺は今から、エルザと組み手をするんだよ」
「え? 何言ってんの……エルザと組み手ってどんな冗談?」
「アリアがそうなるのも無理はねぇよな、俺とエルザは言っちまうが、秘密裏に会合してんだよ」
イデリアの顔が見たことないぐらいに目を見開いて、驚きを通り越して、言葉では言い表せないような顔をしていた。
「リングベルト、どんな話をしていてそんな組み手が成立するのよ!」
「これからの魔法についての話だ」
どうやったらその文言から、組み手に行き着くのかわからないが、それも師匠らしいといえば師匠らしい。
そんな時だった。
フェクトが何かを閃いたのか、声を上げた。
「そういうことか! もしかして今現在、魔法は剣技に劣っていると密かに言われ出していることが、関係してるんじゃないんですか?」
師匠はとびっきりの笑顔と共に指を鳴らす。
「正解だ! 新聞なんかでは魔法と剣技どっちが優秀? っていう話題で盛り上がってるんだよ」
うわー、なんともグレーゾーンな話題。そんな特集が出れば、そりゃ揉めるに決まってる。
それにおそらく、私とイデリアのことがびっしりと書いてあると考えていいだろう。
それがきっかけで、どちらが先に言い出したかはわからないが、秘密裏な会合が決まったということだろう。
「それで新聞の方はどちらが優秀だと書いてました?」
言葉の端々から伝わってくる怒りのオーラ。なんとも今すぐに離れたくなるような気配を身に纏っていた。
「そりゃ剣技に決まってるだろ。現剣聖アリアを倒せる魔法使いはこの世に存在しないとまで書かれてたよ」
その文章を書いた奴もアホだけど、それをそのまま自信たっぷりに言う師匠も大アホだよ。
私は危険を察して、逃げようとするが肩に重い手がのし掛かる。
「な、何かな? 私これから、お昼寝にでも行こうと思うんだけど……あはは」
より強く握られる肩。今にも悲鳴をあげたくなるような痛みを堪えながら、イデリアの方を振り返る。
その顔は、まるでオーガがよりキレたような顔をしていた。
「今から、私たちもその組み手を見学するわよ」
そうして、半ば強引に私たちは転移させられエルザがいる王宮の間にたどり着いた。
「あら皆んなお揃いなのね、あのことも言っちゃった感じなの? リンちゃん」
「どの道、気配でバレてたんだから問題ねぇだろ、それより早速だけど殺ろうぜ」
先ほどまで、私と戦っていたはずなのに完全に全快しているのがわかる。
それに先ほどよりも闘士が燃えたぎっている。
「そうね、せっかくのお弟子のアリアちゃんが見に来てるものね、そっちの方がありがたい」
エルザ自身もなんともすごい気配だ。お城全体が二人の気配で揺れていた。
「流石にここでおっ始めないでよ、リングは私とフェクトで用意するから平原に出るわよ」
そうして私たちは再び平原に戻ってきた。二人は巨大な結界を何重にも張り、準備が整ったようだ。
……
「さぁ、元剣聖ではなく一冒険者の端くれとして舞らしてもらおうか」
先ほどとは違い、木剣を取り出す。それは互いに決めたルールの中でそれだけは守ろうとなったのだ。
「随分と使い込まれた木剣だね、すごく丁寧に使っているのがわかる」
「そう言ってもらえて光栄だ! これはなんせ、子供時代から使っている木剣なんでね」
そんな世間会話を交わしつつ、俺たちの戦いは始まる。エルザの魔法が開戦の合図となったのだ。
「最初からビットスタイルでの魔法か、随分と気合いが入ってるようだな」
「それはそうでしょ、なんたってイデリアちゃんも見にきてるんだから」
エルザは嬉々として魔法を放つ。それも全ていやらしい場所だ、全てにおいて避けるのも向かうつにも向かない場所。
「まぁ、それを回避するのが冒険者なんだけどな」
「いや、あれを避けるとかマジで人間辞めてるでしょ」
「何言ってんだ小娘? そんな攻撃、アリアなら目を瞑ってても余裕でカウンターもして避けるぞ」
それを聞いて何か切れたのか、より魔法の精度が上がった。先ほどに比べて、確実に容赦のない一撃が飛んでくるようになった。
ただの魔弾のはずが、完全に俺を殺しに来ているのがわかる。
それほどまでに、彼女の魔法は凄まじい。
「これがエルフの中で、最も管理者に相応しい魔法なのか」
もうとうに少年時代は終わりを迎え、すでにおじさんの世代に入ってるはずなのに、どうしてワクワクが抑えられないのだろうか?
それほどまでに、俺はこの状況を楽しんでいる。
「エルザ! こっからは俺の攻撃を凌いでみやがれ!」
全てを薙ぎ払うかのような一撃が、エルザの腹部に思いっきりねじ込まれる。
「――ぐぅ! 捕まえた……アイスボム」
腹部に木剣を捻じ込ませたまま、彼女はその魔法を発動させていた。
「まさかの剣を人質にしやがったな! 大胆に攻める時もあるんだな」
「これで剣技は使えないわね、あなたはどうやって戦うのか楽しみだな」
凍りついた部分だけ半ば強引に外し、これ見よがし剣を持つエルザ。
「お前が剣を持ったらそれはそれでダメだろ」
「何言ってんの? これも立派なアイスソードだよ」
なんとも氷のように冷たい顔で笑うエルザなのであった。




