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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
1部-9章 剣聖は詠唱を唱えて戦いたい

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455話 弔い合戦


 おっさんは軍隊から逃げるかのように去っていた。それほどまでに、おっさんから見ても厄介な相手なのだろう。


「私たちはこのまま残るよ、ここで逃げても私たちも不利になるだけ」

「それは良いけどよあのおっさん、こんな街中で襲ってくるなんて何を考えているんだろな」

「それはわたしも思った、わざわざこんな目立つような場所でするメリットがないニャー」


 いや、それは違う。あの時私を殺せれば彼は一躍時の人となったことだろう。それに、こんな街中だからこそ意味があると考えた方がいい。


「すみません! 襲われたのはあなた方で間違いないでしょうか?」


 軍の装備に身を包んだ若き兵士が話掛けてきた。私はハッと我に返り、すぐさま首を縦に振った。


「って剣聖少女様ではありませんか!? あ、失礼。取り乱しました。ここでどういった被害があったか教えてもらえますでしょうか?」


 私は起こった出来事を全て話す。若き兵士もメモを取りつつ、私の話を親身に聞いてくれた。

 一通り私が言い終えた頃には、何ページにもわたってびっしりとメモを取り、書き終えたのか兵士は口を開く。


「まさか剣聖少女様を襲うなんて……それに昼間の酒場とか、犯人は何を考えているんだ?」


 困惑した顔をしながら、犯人の考えを探っているがわかる。

 そうして、何かを思い出したかのように顔をハッとさせた。


「あ、申し遅れました! グルメルです、以後よろしくお願いします」


 兵士として厳しく育てられたのだろう。お辞儀する姿も様になっており、空気が変わったのを感じる。


「私はアリア、使い魔のフェクトと獣人族のナズナよ」

「剣聖様、今後についてなんですけど、軍としても今回の一件、見過ごすわけには行きません」

「その辺はわかってるわ、解決するまではここに居るつもりだし」


 本当は、ここから立ち去るのが良いのだろうが、私が逃げた所でアイツは他の場所で現れる。

 その際、この国は大バッシングを受けることになるだろう。それを避けるには、私たちを止めてここで終わらせるというのが一番手っ取り早い。


「ご協力感謝致します! それで、軍としてはあなた方の警護に就きたいと考えています」

「テレパシーで全て情報を共有してるのね、それはかえって目立つことになるし、より一層犯人を刺激するかもしれないわよ」


 その時だった。頭の中に響き渡る年老いた声。それがどういった人物なのか、すぐに目星がついた。


(剣聖様、この軍で軍隊長を務めております、ガードンです。剣聖様の仰ることはごもっともなのですが、これ以上被害を増やさないためにも、ここは我々の案に賛同してはいただけないか)

(でも、犯人は今後兵士たちも襲うかもよ。私と戦うなら、誰かを傷つけた方が、戦闘できる可能性が高いと思っているかもよ)

(我々の軍は剣聖様やそのお仲間には到底敵いませんが、それでも強いです!)


 ハッキリと言い切るあたり、彼らを信頼しているということだろう。ただ、そうだといってもそれを容認することは私にはできなかった。

 そんなことをすれば、私もこの国も大バッシングの餌食となるであろう。そんなことになれば、私はどうにでもなるとしても、この国は衰退してしまう。


(やはりそれでも容認はできません。この戦いは、私たちと犯人との戦いですから。どうしてもというのであれば、こっからは自己責任でお願いします)


 そう言って私はテレパシーを切る。まさか、こんなことに巻き込まれるとは思いもよらなかった。

 この状況で、アイツは今後どんな行動に出る? 情報がない中で、私たちができることは少ない。


「二人とも、とりあえず宿屋を探すわよ。それとグルメル、死にたくなければ一人で行動しないことだ。誰か複数の仲間を呼ぶといい」

「ちょ、ちょっと待って下さい! テレパシーで話は聞いていましたが危険です!」

「今はおそらく、あなたの方が――よっぽど私たちより危険だから」


 グルメルはここまで言っても、まるで理解を示そうとはしなかった。

 ここで狙うとするならば、絶対にグルメルだ。それを餌に私を釣ろうとしているのが嫌でも頭をよぎる。


「アリア、宿屋探しは俺たちが行っておくからグルメルを送ってやってくれ」

「その方がいいニャー!」


 私は二人に言われるがまま、グルメルを連れて彼が勤務する軍の施設へ向かうことになった。

 空に飛び立ち、これで両者共々逃げ場はない。ここで襲うほどアイツはバカではない。

 それに、あの戦い方は完全に私。剣士としての戦い方じゃなければ、アイツは戦いに打って出ることはないだろう。

 そうして何ごともなく、私はグルメルを送り届ける。そして、軍もまた動き出そうとしていることに私は気が付いていた。


「自己責任って言ってるけど、本当に理解しているのかしら? あれでは、もろに殺してくださいと懇願しているようなものなのに」


 そうして事件が起こったのは、それから二日経った朝のことだった。

 兵士の一人が何者かによって殺されたのだ。凶器は刃物。体をバッサリと斬られており、即死。


「ほらね、言わんこっちゃない」

「夜中も俺たちを監視してたしな、交代して帰っている所を狙われたんだろうな」


 事件が起きたのは、早朝。まだ暗かった頃の犯行であり、突然現れ、そのまま斬られたと新聞には載っていた。

 犯人の姿は暗く見えなかったが、大まかな体格で男性なのは間違いないだろうということだ。


「これってさ、今後どんな動きになると思う?」

「おそらく弔い合戦だろうね、躍起になって探すだろうし、私たちの警備もある程度厳しくなるかも」

「見られてるのは落ち着かないニャー!」


 それはナズナの言う通りだ。私もフェクトもぐっすり眠れているが、寝ていても頭のどこかで気配を探り続けている。


「とりあえずはね、今日はこのまま街の中を散策するわ、そのついでに事件現場に立ち寄る」


 ここで来てくれたら楽なんだろうけど果たしてどうなることやら。

 そうして私たちは朝食を終えて、街に繰り出すのであった。

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