452話 ダンジョン入り口
魔物はナズナによって瞬殺された。圧倒的な力を振りかざすのだから、そうなることぐらいわかっていた。
ナズナは満足そうな顔をしつつ、周りに他の魔物が居ないか確認する。
「それじゃあ、そろそろダンジョンの中に入ろうよ〜」
ナズナはとても興味津々な表情でツノを凝視する。今にでも奪い取って自らはめそうな勢いだ。
「そんな焦らなくても今からはめるか少し、後ろに下がってて」
私はユニコーンのツノを扉にはめた。そうして、扉は突如として光を放つ。
勢いよく放つものだから、私も少しばかり後ろに飛んだ。
「そんなジャンプすることでもないだろ」
「対策を行えるなら行った方がいいに決まってるでしょ!」
「それはそうかもしれないが、ただ扉が開くだけだと思うけどな」
そして扉は、ガタガタと音を立てて開かれる。その次の瞬間、結界は崩壊し、フェクトが太い腕に掴まれたのだ。
「――があぁぁっ!」
まさに一瞬の出来事。それだけ、素早い攻撃に私たちは気付くことさえもできなかった。
「フェクト! 今助ける」
真剣を鞘から抜き、扉から伸びる腕を斬り落とそうと、刃を振るう。
だがそれは刃が全くと言っていいほどに通らなかった。
「そう簡単にはやられはしない、そのための品定めだったからな」
ここまで流暢に人語を喋っている。上位の魔物か、魔族なのは間違いないだろう。
考えられる可能性としては、魔族の方が可能性は高い。それに何より、こんな巨大な腕、早々魔物が持っているものではない。
「まさか、魔神が釣れるなんて思いもよらなかった、まぁユニコーンを倒せる時点で強いやつだとは思ってたけどな」
扉の奥から現れたのは、右腕だけが異常に発達した魔族。登場する際、より握り潰そうと力を入れているのがわかる。
魔族は頭をポリポリと掻きつつ、私に目線を合わせる。
「まさか、こんな所で剣聖とは。俺の強さをお披露目するには、もってこいな相手だ」
右腕を高らかに上げ、私を見てニヤリと不敵な笑みを見せる。
この状況でナニカしようなら、フェクトに危害が加わると脅しているつもりだろう。
「そんな脅し、私に通用すると思ってる甘ちゃんが私に勝つなんて不可能よ」
「その割には腕を斬り落とせてないじゃん、それができるようになってからそんな言葉を言いなよ」
どうやら口だけは達者のようだ。それにしても、わざわざこんなまどろっこしいことをしたのだ。
これでコイツと戦うだけだったら、そっちの方がキレそうだ。
「どうして怒っているのかは知らないけど、もっと落ち着いて物事を見たらどうだい?」
「お前には言われたくないニャー! もう少し周りに目を傾けるべきだったね。獣拳・迅」
腹部に一気に衝撃が走ったことだろう。魔族の男は上空に打ち上げられた。
「――ボハッ! テメェ、獣人如きが俺様に触れるなんて、なんてことしてくれてんだよ!」
完全にキレているのがわかる。それと同時に、フェクトを掴んでいた腕が元の姿に戻る。
その際、フェクトは上空に投げ飛ばされたが特に気にしていないようだ。
「ナズナ、アイツは任せるから」
「了解ニャー」
……
一気に落下してくる魔族。目がすでにキマっており、わたし以外見えていないようだ。
なんとも短気な性格だとわたしは思ってしまう。でも、そんなことは殺し合いにおいてそんなことを考えた所で、思考の無駄遣いでしかない。
「わたしが一方的にリードしてあげるニャー」
一気に跳躍し、魔族よりも少しばかり低い位置で止まる。
「そんな所で止まってなんになる! ただの的じゃん」
だがそんなことを言っていた魔族も、次の瞬間に魔族は勢いよくわたしに殴られていた。
一気に拳を叩き込み、ほぼタコ殴り状態である。ガードすることすらできず、完全に的になっているのは魔族の方である。
「どうしたの? さっきまでの威勢はどこに行ったの」
「や、やめ、やめろ! お前なんかの下等な種族に、負けるわけにはいかないんだ!」
そんなことを言っているが、不意打ちの攻撃以外、彼の攻撃はなにも命中していない。
それどころか、自分のペースにすら持って行けていない。
「わたしたちを品定めしてさ、どうして全くその対策ができていないの? わたしに説明してみせてよ!」
顔面に一撃ぶち込んだ衝撃で、地面にバウンドしながら叩きつけられる魔族。
なんとも無様な倒れ方をしている。
「おーい、せっかく時間をあげているんだからそれを有効活用しないとだめニャー」
そんなことを言うが、すでに魔族はぴくりとも動こうとはしない。
でも消滅をしていない時点で、まだ勝負は終わっていないということだ。
地面に着地して、わたしは魔族の元に駆け寄る。触れようとした瞬間、瞬時に立ち上がり攻撃を繰り出そうとするが、それぐらい予想できていた。
「その程度の不意打ち、通じると思った? ちょっとは頭使いなよ」
そうしてわたしは、カウンターの一撃を魔族に叩き込んだのであった。
魔族は消滅を果たすと、まだ試練は終わっていない。なぜなら、ダンジョンの中からまだまだ気配がする。
「フェクトは大丈夫?」
「大丈夫だ、まさか結界を突き破って攻撃が飛んでくるとは思ってなかった」
「だから言ったじゃん、対策をできるところは対策しとけって」
「いや、これでも結界はだいぶ頑丈にしてた。だが、アイツにはそんな力は感じなかっただよな」
フェクトがボソッと言ったこと。それはわたしやアリアの頭にもしっかりと残っただろう。
それがどういうことを示すのか、すでにわかっている。なんとも、不思議なダンジョンに挑戦することになりそうだ。
……
「こっからは気をつけて進むわよ。私たちを試していたのも、そいつだろうからね」
「最初、奴は別人格に乗っ取られてた可能性か、まためんどくさいな」
フェクトはため息をつく。それでも私の冒険魂は、とてもメラメラと燃えさかり私の心に火を付けたのだった。




