437話 普通のダンジョン?
返り血を浴びた体を綺麗にして、先へ進む。今日は魔物たちは大忙しだ。
その理由は簡単。先ほどのパーティ、そして私たちの相手をさせられているからだ。
魔物たちは自分の本能に従って攻撃を繰り出し、返り討ちにされていく。
それでも、そうすることでしか、この状況は打破することはないからだ。
「剣聖様に斬られるんだから、光栄だと思うわよ」
荒々しい一撃が魔物を襲う。一瞬の躊躇なく繰り出される一撃は、それほどまでに魔物たちの心を破壊して行く。
そうして魔物と戦っている内に、大きく、装飾の施された扉が見えてくる。
扉の色は真っ赤であり、それがどういう部屋なのかすぐにわかった。
「ボス部屋が見てきたよ! 一気に乗り込んで仕留めるわ」
私はニコッと笑い、地面を蹴り上げて一気にドアを突き破る。
待ち構えていたのは、鎧を身に纏った剣士。それはまるで軍隊の兵士であるような見た目をしていた。
その鎧は、とてつもなく使い込まれているようで、どうやら魔物自身の物ではないようだ。
「その鎧はおそらく死人から剥ぎ取ったものかな」
私は観察をして、そんな言葉が口からこぼれ落ちていた。ただ、一つ違う点があるとすれば、先ほどのアイツらが戦ったであろう魔物と違う。
どう見ても、アイツらが勝てるレベルではないことは確かだ。
「まさか、ダンジョンがそんなことをするなんて、意外と優しいのね」
そんな独り言を喋っている間も、彼は抜刀する構えのまま動こうとはしない。
一瞬の隙を狙って、ひたすら集中していた。
「そんなことをしたって無駄だよ」
なぜって? 私の方が速い。それ以外の言葉は不要である。
次の瞬間、兵士の首がぽとっと地面に落ちた。一瞬何が起こったのかわからないと言わんばかりに、魔物が斬られたことに気が付いていなかった。
気が付いたら最後、鎧ごと消えて消滅を果たす。
「一階層はこれでお終い! 二人とも次に行くよ」
私は後ろを振り返りながらそんなことを言うが、二人はまだボス部屋にすら辿り着いていなかった。
未だに戦闘を続けているのが、遠目に見えた。戦っている相手は二人一組のペアで攻撃を仕掛けている。
連携の取れた攻守は、二人の自由を制限させていた。
「あんな戦い方をするゴブリンが居るなんて、やっぱダンジョンって面白いな」
でも、ゴブリン如きに苦戦するってどんな状況? そんなことを考えていると、どうやら動きがあったようだ。
……
「ナズナ! 一気に決めるぞ、俺について来いよ」
「フェクトが私についてくるべきニャー」
そんな言い合いをしていても、長年の仲だ。完璧なタイミングで攻撃を決められたのは大きい。
その攻撃が大きく歯車を狂わした。連携の取れていたはずの動きは、少しずつずれて行く。
そこからは、一方的に俺たちが蹂躙していく作業と化した。
「これで終わりだ! 魔拳」
「終わりニャー! 獣拳」
地面をぶち抜くかの勢いで殴り殺し、俺たちは自然にハイタッチをしていた。
「やっぱ最初は戸惑った所もあってごたついたけど、慣れると一気に倒せたな」
「そうだねー。それにしても見てよアレ、アリアが待ちぼうけくらってる」
……
どんな会話をしていたかわからない。ナズナが何かを言った後、フェクトが慌てて走り出しているのを見るに私のことで間違いはないみたいだ。
「二人とも手こずってたけど大丈夫だった?」
「最初はな、それよりも待たせてしまったな」
「でも、あんなゴブリンもいるんだね、普通に厄介って言えば厄介な相手だった」
そんな会話をしていると、私たちが揃うのを待っていたかのか、ボス部屋が光だした。
そして、目を開けるとそこは地下二階層である。
「っていきなり魔物の中心かよ! 結界を展開してなかったら普通に一撃は喰らってたぞ」
ガンガンガン! と拳を突き立て、何度も叩く魔物。武器を取り出して叩くものも現れるが、そう簡単には壊れない。
「これもしかしてだけど、このダンジョン、絶対アイツらの時と違うだろ!」
フェクトもどうやらそう思ったのか、そんな言葉がこぼれ落ちていた。
「そうかもしれないけど、それは後ニャー! 一気に攻めるよ」
ナズナは一人先行して、一気に魔物を吹き飛ばした。なんとも強い力技ですごい勢いで魔物を刈り取っていく。
「獣人の力、舐めたら痛い目を見るニャー!」
勢いよく拳を突き出し、一気に形成逆転に持ち込んでいく。魔物たちは、それに負けじと数の暴力で突っ込むが、全くと言っていいほど、攻撃は当たろうとはしなかった。
それどころか、一方的な殺戮ショーへと変貌するのも時間の問題だ。
「どうしたニャー! もっと強い魔物は居ないニャー、わたしを満足させてくれるような、魔物出て来い!!」
ナズナはテンションが最高潮に達したのか、今までに見たことがない行動をする。
勢いよく咆哮上げ、魔物たちは完全に足を止めた。よく見えないが、ナズナは狂気じみた笑いを上げ、魔物たちはただ、なすすべなく倒される以外の道を模索できなかった。
「終わったーー!!」
達成感のある声でようやく結界を解除するフェクト。結界には返り血がべっとりと付いており、フェクトはホッとした表情をしていた。
「それにしてもナズナがここまで暴れるなんてな」
ナズナは随分と満足げな表情を浮かべ、やり切った達成感に満たされている。
このまま満足して眠ってしまいそうなほどだ。
「ナズナ、ここはまだ二階層なんだから満足したらダメだよ」
「わかってる……でも、久々にこんなにも自由に戦えてよかったって思ってるの」
まだ少し、息が整っていないのか呼吸が乱れている。そうして、残った魔石を回収をしつつ、私たちは二階層を進み始める。
「この気配のなさ、ほとんどの二階層にいた魔物が集結してたってことはないか?」
「私もそれ思ってた。それに、随分と中途半端な場所に転移させたみたいだし」
私たちがいるのは、二階層で一番大きな開けた場所。その中心に転移させられて、あの惨状。
どうやら、このダンジョンは少し他とは違うようだ。




