433話 不思議な結界
森の中を駆ける。わたしには感じなかった二人の結界。それになんだか、森の中が騒がしいように思えた。
視界の隅から飛び出してくる魔物に驚きつつも、わたしは冷静に拳を振るう。
魔物たちを見ると、少しばかり興奮していように感じる。それも、結界とナニカ関係があるのだろうか。
「そんなことより邪魔ニャーッ!!」
加減なんて忘れて勢いよく攻撃を繰り出した。勢いそのまま吹っ飛ばされた魔物は、木々に激突しながら消えていった。
それでも次々に現れるウルフラビットたちは、怯えたような目をしている。わたしを見て怯えてる? いや、違う。もっと別の“何か”を恐れている。
「わたしはあなたたちに構ってあげられる時間なんて無い!」
地面に拳を叩きつけると、震動が伝わり、魔物たちが飛び跳ねる。その隙に跳躍し、空中から一気に打ち落とす。
消滅する魔物を横目に、ふと視線を塔の方へ向けた。
……イヤな気配。
ゾクリと背筋を冷たいものが走る。あそこに何かがいる。呼ばれているような……。
まるで、わたしを呼んでいるかのような気がしてならなかった。
背筋にイヤな冷たさを感じる。二人の状況はわからないが、よくないことだけはわかる。
「すぐに行くニャー!」
木々に身軽に飛び移り、塔の前に進んでいく。気配感知なんて使えないはずなのに、気配を感じることができた。
「まだ離れているはずなのに、気配がこっちにまで伝わってくる」
……
「おや、こちらにどうやら一人戻って来ているようですね、なんとも仲間思いで良い人ですね」
黒いハットを被った男が、まるで舞台俳優のようなタキシード姿で俺の前に立っていた。
俺がなす術なく、地面に寝転んでいる相手にナズナが勝てるわけがないと思ってしまった。
「魔族風情がニヤニヤしてんじゃねぇよ!」
何とか体を起こし、双剣を装備する。女性の姿になり変わり、双剣を構える。
「不意打ちとは言え、魔神様は負けたのですから大人しくしててほしいですけどね」
「黙ってろ、今度はそう上手くは行かないからな」
双剣を勢いよく振るうが分厚い結界がそれを通そうとはしなかった。
連撃を放つが、一向にヒビすら入ろうとはしなかった。それどころか、まるで効いていないと言わんばかりに結界はそこに存在していた。
「連撃・雷帝の舞」
剣技を放っているというのに、まるで効いている様子がない。
「クソ! どういうことだ? お前は魔族のはずなのにどうしてその結界はそんなにも硬いんだ」
結界を破るあの力を使うのもアリだろう。ただ、それをしてみまえば、双剣は持つことは不可能だ。
それに気になることもある。どうして、コイツの結界がこんなにも硬いのか知りたくなってきた。
そんな時だ、背後の木々がガサガサと音を立てて、ざわめきを感じる。
……
「退いて!!」
わたしは思わず思いっきり叫んでしまう。フェクトは、少しばかり困惑の表情を浮かべつつも、すぐさまその場から退いてくれた。
「おい! ここは私がやろうと思ってんだ、邪魔なんてするなよ」
「何言ってるニャー。アリアだって吐血して倒れちゃってるだよ、早く決着を付ける方が先!」
「は? アリアが倒れてるだと……!?」
フェクトの顔は面白いほどに驚いた表情をしている。まるで信じられないと言わんばかりの声を添えてだ。
アリアがそう簡単に倒れると思っていない証拠だ。それにフェクトの後ろで気絶しているルーリア自身も相当しんどそうな表情をしている。
「何があったか知らないけど、ここはわたしがやらしてもらう」
そう言って、私は前に一歩踏み出し覚生させる。それを黙ってみていた魔族はとても楽しそうな表情でこちらを見ていた。
「武術ですか……そこの魔神でもこの結界に傷を付けられないと言うのに、獣人のあなたがどうやって付けるのか楽しみです」
次の瞬間、パリーンと音を立てて結界に穴が空いた。
「軽く叩いただけなんだけど? もしかしてそういうことニャー?」
魔族の顔が急に焦りだしていた。それも尋常じゃないほどに、滝汗を流している。
「でも良い結界だよね、気付かなければだいぶ強いと思うし」
軽く拳を結界に当てて割っていく。それは、彼にとっては恐怖映像でしかないだろう。
先ほどの自信はどこにやら、そう思われても仕方ないほどには別人のように怯えていた。
「良し割れた! これで鬱憤を晴らすついでに攻撃ができる、獣拳・インファイト」
一瞬のうちにボコボコになり、原型なんてどこに消えたと言わんばかりに消滅していった。
「ナズナ! どういうことなのか教えてくれ」
「あの結界はね、強い攻撃を加えるだけ硬くなり、弱い攻撃を与えると脆くなるっていう結界だよ」
フェクトは不思議そうな表情で私を見てくる。
「フェクトの攻撃で割れてない時点で、普通の結界ではないと思ってやったまでだよ、それよりアリアを頼むね」
そう言ってルーリアの所に駆け寄り、ポーションを掛けた。
そして、アリアも目を覚ましてフェクトに支えられて戻ってくる。
……
「フェクト、あの結界の高まりは何だったの?」
「あれは魔族が展開した結界だよ、異様に不気味で不意を突かれてノックアウト仕掛かってた」
フェクトが無事で何よりと思いつつ、私が気を失っている間に、ナズナが体験したその結界、私も試したかったなと心の中で思うのであった。
「フェクトさん! ってあれ、先ほどの魔族は?」
突然大きな声でそんなことを呟くルーリア。流石に肩がビクッとなるぐらいには驚いてしまう。
「それに関しては対処してくれた。それより話したいことがあるんだが良いか?」
「何でしょう? もしかしてあの結界のことですか」
フェクトは軽く頷いた。そして、ルーリアは少しばかり黙り、何かを考えている。
そうして思いついたのか、口を開いた。
「アレを実現させてみましょう!」