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432話 人語を喋るアンデット


 フェクトによるルーリア特訓が幕を開けた。ルーリアは魔法使いとして登録しているが、どうやら結界術はあまりできないようだ。


「基本的なことからやって行こう。あまり時間は取れないんだから、気を引き締めて行けよ!」


 通常の結界を展開させる。その強度をフェクトは厳しく見ていった。


「あれでわかるのかな?」


 ナズナは不思議そうな顔をして、二人の様子を見ているがあまり良い顔をしていない。


「魔法使いには魔法使いのやり方があるんだろうね。私たちは、デートでも行こっか?」


 ナズナは「うん」と軽く返したものの、すぐに何かに気づいたように目を見開いた。耳まで真っ赤になって、口をパクパクさせている。


「で、どうする? 私とデート、行っちゃう?」


 私が意地悪く笑うと、ナズナは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「い、行くニャー!」


 嬉しさを隠せない様子で飛び跳ねながら返事をするナズナ。それを見て、私は苦笑しつつフェクトに軽く手を振って塔を後にした。


「さて、どこ行こっか? 今日はナズナの行きたいところでいいよ」


「じゃあ、組み手がしたいニャー。アリアに追いつくためには、もっと体で覚える必要があると思うの」


 私は思わず目を見開いた。まさかデートの行き先に「修行」を選ぶとは……。


「……ナズナがそれでいいなら、私は構わないけどね」


 そうして開けた場所に出ると、ナズナは勝負を仕掛けてきた。

 それも不意打ちである。まるで、ルーリアと戦った時みたいだ。


「まさかの不意打ち攻撃なんて珍しいことをするもんだね」


 ナズナの一撃を捌きつつ、私は軽く後ろに下がっていく。勢いのある攻撃だが、少しばかり焦りを感じられる一撃だ。


「どうしたの? もっと楽しそうな顔で攻撃してくれば良いのに」


 その影響のせいだろうか。攻撃も少しばかり入りが甘い気がする。

 それもあって、パリィするだけで、隙をいくらでもカウンターを決められそうだ。


「獣拳・インファイト」


 先ほどに比べて一撃の入りがよくなった。ただ、全て剣で捌けてしまうほどには、まだ弱い。

 いつものナズナなら、とっくに攻撃を決めていてもおかしくない。


「流石に私もイラッとしてくるからさ、そんな顔をして挑んでくるならもっと強くなってよ」


 今まで防御に徹していたのをやめて、私は攻撃に転じ始める。

 一気にナズナは追い込まれていく。先ほどの猛攻撃が嘘だったのかと思わせるほどには、ナズナの体には剣がぶつかっていた。


「こんなにも防御ができてなかったけ? そんなわけないわよね」


 私は今、ナズナに何が起こっているかわかった気がする。


「ナズナに入り込んだアンデッド野郎、私がぶった斬ってあげるわ」


 先ほどより、より鋭く剣を振るう。すでにナズナの体は限界に近いほどには、ボロ雑巾のようになっていた。

 それでもまだ抜け出さないのか、頑なにナズナの体を動かそうとする。


「私はね、怒っているのよ。だから早く出て来てくれると助かるけどな」


 ナズナの顔を平手打ちするの如く、剣を頬に勢いよく当てた。

 ナズナは、その勢いの強さに地面に叩きつけている。


 その瞬間だった。

 ナズナの口から魂のような、なんと説明したら良いかわからない物体が抜け落ちる。

 そして、だんだんと体は原型を取り戻し、私の前にようやく姿を現したのだ。それも、実態があるといえばある。半透明に近いものだ。


「何するんだよ! お前それでもコイツの仲間かよ!」


 思いがけない言葉に私は驚いて何も言えなくなってしまう。

 すぐに冷静になり、深呼吸をした。


「いや、お前に怒られる筋合いがないんだけど。てか、お前が誰なのよ?」


 あくまでも冷静な口調で私は問いかけた。


「あ、俺か? 俺はアンデッドの魔物だよ。たまたま人語を話せるやつなんだけどな」


 アンデッドの魔物ね……正直に言って今すぐ浄化したいと思ってしまう。

 それがなんとなく理解ができたのか、少しばかり慌てた様子で「浄化したいと考えるなよ」と、言ってくる。


「いや、浄化をしない選択肢があると思ってるの?」

「そりゃ思ってるだろ、せっかく久々に人間に会えたんだから話でもしたくなるだろ」


 いやお前、魔物だろ!! とツッコミを入れたくなったが一度それは置いておこう。

 ナズナの方に視線をやりつつ、私は口を開いた。


「なんでナズナに取り憑いたのか説明して。説明次第では、私がぶった斬ってあげるから」

「いや、どんな理由でも絶対ぶった斬るでしょ剣聖様!」


 私は剣を持つ右手に力を込め、アンデッドの奥にある木々に向けて一瞬の躊躇もなく、斬撃が閃いた。


「話しますからそれだけは勘弁してくれ! 俺が取り憑いた理由は、戦いたかったからだ。強そうな力を持っていたそこの獣人族を使って、戦ってみたかったんだ!」


 私は次の瞬間、そのアンデッドの首を刎ねた。反射的に浄化の魔法も使っていたのだろう。あまりに突然だったのか、本気で驚いた表情を見せながら消滅していった。


「使ってだと? 魔物風情が私の仲間に軽々しく触れるな」


 その瞬間ナズナは目を覚まし、自分の状況を把握する。自分がどうしてこんなにもボロボロなのか少しばかり驚いているがなんとなくは察したようだった。


「それにしてもやりすぎニャー」

「それはごめん、ついカッとなってやり過ぎた」


 ナズナは体の至る所が痛いのか、こちらを睨んでいる。


「本当にごめんって。こっからは何か楽しいことでもしよう!」


 ナズナの顔が明るくなった時、結界術の反応が一気に跳ね上がる。

 その勢いのせいで気配感知を通じて、脳が緊急的にショートする。一瞬気絶をしたかと思えば、血を吐いていた。


「アリア大丈夫? 何があったの」


 どうやらナズナには何も影響がないのか、ピンピンしているのがわかる。

 おそらく原因は、フェクトとルーリアなのは間違いない。でも結界なのにどうして? そんな状況でも私はやれることをやる。


「ナズナ先行って! あの二人に何かあったかもしれないから」


 気配感知が作動しない今、やれることは一つだ。ナズナも勢いよく飛び出し、すぐさま見えなくなる。

 そうして私は力尽きてそのまま、倒れるのであった。

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