430話 剣聖として
「エクスカリバーって魔剣士が使ってた魔法じゃねぇか、それを杖で再現しやがった」
フェクトの驚いた声が耳に届いた。フェクトの方を向くと、目を見開いて信じられないと言わんばかりに目をパチパチさせている。
当の本人は地面に叩きつけられ、その場で気を失っていた。
「ハァ……ハァ……これでとりあえず、私の勝ちってことでいいよね」
煌々と降り注ぐ太陽を背に、私はその場に座り込んだ。息を切らしとても胸が苦しい。
ここまで激しい戦闘になるなんて、想像が足りなかったのだろう。
今すぐには立てそうになかった。
「ナズナ! ハァ……手当てをしてあげて、だいぶ重症だろうし」
ナズナはすぐに首を大きく縦に振りルーリアの元に駆け寄っていく。
一方、フェクトの方は未だに呆然と立ち尽くしたままルーリアの見ていた。
おそらく、今私が呼んだ所で気付いたとしても、ほとんど上の空状態だろう。そう思った私は、自分でボックスからポーションを取り出した。
「まさか、私自身もここまで体力を削られるとは思ってもなかった」
ポーションを飲みつつ、体力の回復を待った。ナズナの方に目線をやると、ナズナは未だに懸命にポーションを掛けたりしている。
「意識が戻ったニャー! ボロボロだけど命に問題はないよ!」
心の奥底で心配していた気持ちがソッと消えていく。ふらつきながらも立ち上がり、私はルーリアの元に向かう。
その際、フェクトの肩を叩き、フェクトをハッと正気に戻した。
「あんな魔法を使っておいて無様に負けるなんてね、これをエルザが知ったらなんて言うか」
苦笑混じりに私に言うルーリア。まだ仰向けのまま倒れた状態だが、意識はハッキリしているようで安心した。
「私だって驚いたわよ、あんな魔法があったなんて知らなかった」
私が驚きに満ちた声でそう言うと、ルーリアは「そうだろうね」と、一言そう言う。
「あの魔法は、今ではほとんど使われることのない魔法だからね、私みたいなババアがたまに披露したりするだけだからね」
自分のことをババアと表現したルーリアだが、それにしてはだいぶ若々しく見える。
エルフ族では、こんなにも綺麗なのに、年齢的に見ればもう年なのだろうか?
「そんなことよりさ、あの剣聖剣技って何よ! より剣技に深みがでたと言うか、なんというか普通の剣技なのに全然違ったように見えたけど」
体を起き上がらせ、少しばかり興奮が押さえられていないのが、声的に伝わってきた。
「いくら杖で放つエスクリカバーがナーフされているとはいえ、普通の剣技になすすべく破壊されたって私もまだまだだよね」
「そんなことはないですって、ルーリアさんの魔法に触発されて放った剣技ですし」
あのエスクカリバーというのには、私の心を突き動かすには充分過ぎるほどに強い魔法だ。
それを放てるルーリアのことを弱いだなんて決して思わない。
そんなことを考えていると、閃いたと言わんばかり、目を輝かせながらルーリアが口を開いた。
「せっかくだから研究、手伝ってくれませんか? 剣聖少女様にとっても悪い話ではないと思いますよ」
「それは研究内容を聞いてからですかね。それで研究内容はなんですか?」
ルーリアは、一度大きく深呼吸をして、覚悟を決めたのか口を開いた。
「私は、物理攻撃に対する魔法の防護性を研究しているわ」
「それって、頼む相手を間違えてないか? アリアは、ほとんどの結界を剣で突き破ることができるぞ」
ルーリアは真剣な眼差しを崩さないまま、話を再開させる。
「私も実際に戦ってそれは感じております。だからこそ、私の研究で叶えたい目標があるんです」
「目標って何?」
ナズナはわくわくしているのか、目がキラキラしてルーリアのことを見ている。
「どんな厄災からでも、この世界を守る結界術を作ることです」
それを聞いて思い出したことがある。それは、イデリアを以前守っていた結界の存在だ。
それを流用しようとしているのだろう。ただ、イデリアを守っていた結界は、四人のエルフ族が一生を掛けて作動させるものだった。
それをダイナール大陸全土だと考えた場合、それは確実に不可能だと言ってしまっても仕方ないことだろう。
「剣聖少女様が難しい顔をされる理由もわかっています。それでも、それは必要だと思うんです」
「確かに必要だろうな。だが、それは不可能だ。魔神の俺が言ってるんだ、そこらの夢見がちの魔法使いたちよりは信用があると思うぞ」
これには流石に私も同意見だ。でもそんな中、ナズナだけは目を輝かせたまま、ルーリアの意見に賛同した。
「良いと思う! わたしたちは数多くの戦いを経験した、だからこそ結界がどれだけ重要な物かも理解してる。その夢を叶えるのを応援したいニャー!」
ナズナはルーリアの手をガシッと力強く握りしめ、明るい声で言った。
ルーリアは、少しばかり驚いている様子なのが表情から伝わってくる。
「アリア、フェクト! わたしたちも協力しようよ!」
まばゆい光を放っているかのごとく、ナズナが眩しく思えてくる。
まるで、私たちの否定的な考えを浄化させてしまうかのようだ。
「ナズナ! 少しは落ち着け、一つ言っておくが、それはエルフ族の寿命を掛けてでもそれは完成しない」
「そんなことわからないニャー! フェクトだってイデリア、エルザ、フレリア、ウッドも居る! あんなにも強い魔法使いたちがたくさん居るのに、どうして否定的になるの?」
「ナズナ落ち着いて。結界ってね、すごく脆い物なの、その日の体調だったり、気分的な問題で簡単に割れてしまう、だから相当難しいことなのよ」
ナズナの言う通り、イデリアやエルザたちが居れば良いものにはできるだろう。
ただ、一つだけ問題がある。
「私は剣聖なの、剣聖が居る限りそれは決して完成しないわ」
悲しいけどそれが現実だ。私の強さは、以前成長を続けている。
いくら強い結界ができようと、私の前では無意味だ。
「それに俺のことを忘れてもらったら困るぜ、ナズナ。結界を破壊できる力を持ち合わせているんだからな」
「そうだったニャー、それでも少しでも良いから手伝いたいニャー」
その言葉を私たちは、ナズナの思いも汲み取り快諾するのであった。




