420話 根深い問題
その姿は、いつぞやの魔物に変貌していく彼のようだった。
「何が起こってるんだ? アイツは何を刺したんだ」
フェクトは困惑の言葉を口に出した。それ以上に、兵士たちは一気に士気が下がっていく。
今にも逃げ出しそうなほど、顔が青ざめているのがほとんどだった。
「ここは私がやる! フェクトはとりあえず避難誘導をお願い!」
「了解!」
私を取り囲む魔物。純粋の魔物とは違う、いわばキメラ個体だ。
先ほどまで苦しんでいたとは思えないほどに、今は穏やかな表情をしているキメラたち。
新たな人生にこんなものを選ぶなんて、一生分かち合えないだろう。
「そんな姿になってまで、故郷を取り戻そうとするなんてよっぽど好きだったようね」
こんな姿で街に出たら被害はより拡大する。ここで私が食い止める。
真剣を取り出し構えた。キメラたちは笑い出し、どこか楽しそうだ。
そんな顔を崩さず、突っ込んでくるその戦い方は、正直に言って嫌いではない。
「私との最期、踊り狂いましょう」
戦った感触は、普通のゴブリンとかよりは強い。ただ、上位の魔物に比べると弱い。
弱くも強くもない感じである。なんとも中途半端で、簡単に斬っていく。
攻撃を止めるでもなく、戦い方も人間味を捨てられないような戦い方。
むしろ、人間の頃にしていた動きを模倣したような動きで、魔物になった所で根本的なものは変わらないようだ。
「たかが魔物の力で早くなった所で、元が弱ければ意味がないのよ」
キメラを斬り捨てつつ、私は奥に待ち構えているキメラを見た。
キメラとなった今、奴からしてみればあの鉄球もそこまで重たくもないものだろう。
よりぐるぐると回転させ、今にも投げてきそうだ。
「仲間諸共、踏み潰されるのは、正直に言ってだるいわよ。狙うなら私を狙いなさい!」
胸を勢いよく叩き「私を見て!」と言わんばかりに音を鳴らした。
ニヤリと少しだが、笑ったのがわかる。覚悟を決めたのか、鉄球は思いっきり私に向けて飛んでくる。
「ボロボロなその武器でどこまで戦えるのか見ものだわ!」
地面が抉れるような衝撃が伝わってくる。周りのキメラも何人か巻き込まれたのか、その場に倒れていた。
「お前に今、時間を割いている暇なんてないんだ、一撃で倒れてもおかしいと思わないでね」
剣を強く握り、歩みを進める。その際、勢いよく鉄球は私目掛けて飛んでくるが、どれも決まらない。
どんなに早めようが、私に当たるだけの技量はない。
「剣聖たる所以の一撃。汝の力を砕くのも我が使命、剣聖の一撃はそれほどまでに重いもの。覚悟して受けよ、剣聖剣技・突」
鉄球は粉々に砕け散り、風に吹かれて消えていく。そんなことをやったとしても攻撃の勢いは止まらない。
そのまま心臓に突き刺さるのだった。あまりの勢いに、突き刺しても止まる気配はない。
そのまま壁に激突し、ようやく止まるのであった。その頃には、剣に感触は残っておらず消滅した後だった。
アレは一体なんだったのだろう?
「まさかこんなことが起きるなんて。とりあえず、今日はこれで終いだけど、まだこの国にはナニカ、根深い問題が絡まり合っていそうだ」
兵士たちもどうやら帰ってくる気はないみたいだ。すっかり気配は消え去り、元から消えていなかったようにも感じてしまうほどだ。
「とりあえずお疲れ! 今日は色々なことがあり過ぎて俺は疲れた」
そんなことを言うフェクトの顔は、本当に疲労が溜まっていそうなほど、疲れた顔をしている。
それとは裏腹に、私はまだまだ夜の国に駆け出していけるほどには、余力も残っていた。
「とりあえずアリア帰るぞ、ここにこれ以上長いした所で何もいいことなんてない」
「それもそうね、とりあえず宿に戻って休憩しますかね」
そうして、私たちは宿の方に戻っていった。戻ると、出迎えてくれたのは、アゲハだ。
「お帰りなさいませ、随分と派手に動かれたようで」
アゲハの手には、号外新聞が握られていた。
「その内容、教えてもらってもいいですか?」
アゲハは嬉しそうに了承の返事する。そして、新聞の内容はこのようなものである。
『剣聖、またまた活躍! この国に蔓延る悪を退治』
なんともインパクトのある見出しだ。それに戦ったアイツらは、散々な言われようである。
鬱憤が溜まっていたと言わんばかりに。私念が詰まった新聞で、少しばかり驚いてしまう。
「なんともすごい新聞だね」
私はどう返してたら良いかわからず、苦笑するほかなかった。
それでもなんとも、情報が早い。まるで自ら調べていたと言わんばかりだ。
それに今まで見てきた、どの号外新聞よりも情報が詰まっている。
「これって自ら目で確認したって感じには、多いわよね」
「それはそうかもだが、でもこれの情報を提供した人間がいる。おそらく、これは軍関係者の可能性が高い」
逃げ帰るようにその場から去ったアイツらの誰かが垂れ込んだ情報。
そんなことを許す場所ではないはずだが、こんな情報がでた以上、言った本人の恨みも加算されていそう。
「新聞ありがとう! 夕食の時間になったら降りてくるから」
そう言って、私たちは足早に階段を駆け上がる私たち。駆け上がるや否や、扉が開くと同時にナズナが出てきたのだ。
ナズナは少しばかり、調子が戻ったのか、とても嬉しそうな顔で私たちを出迎えてくれた。
「ナズナもう大丈夫なの?」
私はすぐさま駆け寄り、状態をパッと確認するが特に以上は内容だ。
その証拠に、お腹の音が廊下に鳴り響く。
「良いお腹の鳴りっぷりだな、とりあえずご飯の前に、この近くに銭湯があるみたいだから入りに行こうぜ」
確かにフェクトも私自身も、この国に来てからずっと戦っていた。
そのせいか、私たちはいつもよりも汚れが目立つ印象。こんな見た目では、流石にあの二人にも迷惑がかかる。
「サッと汚れを落としてからお風呂行こうか。ナズナもそれで良い?」
「それで良いニャー。私もお風呂、入りたいと思ってたニャー!」
そして私たちは、銭湯に向けて宿屋を後にするのであった。




