415話 観光地
「あの時は酷い目に遭った」
数週間前のことを思い出し、そう口に出した。あの後も体はボロボロで数日は、冷静な行動ができていなかった。
「アレはちゃんと聞いてなかったアリアが悪い。そんなことよりも、国が見えてきたぞ」
深い深い森を抜け、見えてきたのは大きな城壁。ここは大陸の端の方に位置する大きな国。
圧倒的に広く、自然も豊な国として普段の疲れを癒してくれると、話題な観光地になっているのが特徴だ。
「本当に大きな国だね」
上空から全貌を見ようと、一気に上空に飛び上がる。いつもの高度よりも遥上昇しなければ、収まらないほどには大きかった。
私たちはいつものように、手続きを済ませ中に入る。門を潜ればそこは、大勢の観光客が各々楽しんでいた。
「なんかすごい人だね」
想像していたよりも多い人数に、少しばかり面を食らう。それだけ、この国は人気があるのだと証明するには充分過ぎたのだ。
「これ宿屋空いてるかしら?」
その言葉に、二人は一気に血の気が引いたのがわかる。私たちは、空に飛び上がりマップを展開させつつ宿屋を探す。
だが、そう簡単に部屋が見つかることはなかった。近場の場所、離れている場所、様々な場所を手当たり次第アタックするが、簡単には見つからなかった。
どこのフロントで聞いてもこの様な言葉が返ってくる。
「本日は満室になっております、大変申し訳ありませんが別の場所をお探しになってください」
丁寧な言葉で返ってくるが、その端々からは疲労の二文字が感じ取れるほど、疲れた感じなのが漂っていた。
この状況だ、確かに疲れているのには納得する。ただ、ここまで繁盛に対して、さほど上手いこと対応ができていないことが引っかかった。
まるで、このなことは想定外。そう、心の中で思っていそうな所だ。
「とりあえず手分けして探そうか。私が遠い所を担当して探すから、二人はこの周辺から攻めていって」
ほうきの高度を上げる。上空からでもわかるほど、人通りが王都と遜色ないほどだ。
これは、この国とってはありがた迷惑という言葉が似合っている様にも思えた。
「ここにはあまり滞在できないわね」
旅人として、冒険者としてあてもない旅をする私が、そんな言葉を口に出してしまうほどだ。
そんな時だった。誰かが私のことを呼んだ。その瞬間、一瞬にして注目の的に向けられる。
痛いと感じてしまうほど視線。私の体に突き刺さってくる。
「ヤバ」
ほうきを飛ばして、すぐさまその場から離れる。ただここにはもう来れないだろう。
それほどまでに私は注目を集めてしまったのだ。ここは最近流行りの観光地。そんな場所で剣聖という称号を持つ私が居たとなるとより人を集めてしまう。
それだけはこの国のためにも、避けなければならなかった。
(二人ともさっきの門に集合で良い?)
(やっぱりそうなるよな。地上ではアリアが居たって盛り上がり過ぎてる)
起こってはいけないことを私は起こしてしまった。そんな後悔が募る中私は、ほうきを門の方に向ける。
そんな時だった。けたたましい鐘の音が国中に響いたのだ。
カン! カン! カン! 激しくなる音に思わず私は興味を持ってしまった。
本当は今すぐにでも立ち去らないとダメなのに、私は気配感知を作動させる。
「? どういうこと……こんなことで鳴らしているの?」
思わず困惑した表情をしてしまう。それはたった一つの、魔族と思われる反応が門の近くで示している。
「離れるついでに退治でもしておこうか」
ほうきを走らせ、私は門の前に降り立った。たった一体の魔族の反応に対して、厳戒態勢と言わんばかりに厳重に警備されていた。
「私、通りたいんだけど」
そんな言葉に反応したのは、指示を出していた指揮官だと思われる大柄な男。
重たい装備に身を包み、背中には大剣を背負っている。
「只今、魔族が国の外で出たため、出国は控えていただきたい」
「いや、私剣聖なんだけど? さっさと倒してくるから退いてくれるとありがたい」
指揮官と思われる男は、目を見開き驚いているのか、口をパクパクさせていた。
「おーい、おーい、大丈夫?」
手を振るが、どうやらまだ帰ってこれないようだ。私の話を聞いていたのか、兵士たちはより姿勢を正している。
「私は、ここを通りたいだけなんだけど」
兵士たちは困惑した表情で周りを見るが。誰も答えられるものはいないようだ。
「私、剣聖権限で通らしてもらうから。あと私の仲間が二人こちらに向かっているから同様に通ると思うから」
そうして私は半ば無理矢理に門の外にでた。まだ少しばかり離れているが、ゆっくりと魔族が一体こちらに向かってくる。
私と目が合うなり、すぐさま臨戦態勢に入ったのがわかった。
足を何度も後ろに蹴り上げ、まるで猛牛のようなことをする。
「そんなことをしている暇があるんだったら、すぐにでも攻めた方がいいわよ!」
一瞬で相手の間合いに飛び込み、一撃を叩き込んだ。だが、それは間一髪のところで躱したようだ。
「案外ちゃんと見てるんだね、それはいい心がけだね。でも、私からは逃げずに向かってくることをオススメするよ」
私は自分のペースに落とし込めるため、剣を振り翳した。なんとか避けているだけで、反撃の類は一切見せない。
まるで、攻撃を知らないような感じがしてしまうほどだ。
「避けるのはこなせるくせに、攻撃はできないとかありえる?」
そんな時だった。フェクトとナズナが魔族に対して攻撃を決めた。
「嘘!? 不意打ちで当たるんだったら、私の攻撃で当たりなさいよ」
「でもコイツ、一切敵意すら感じられないけど?」
ナズナは困惑した様子で話す。フェクトも不思議そうな顔をしていた。
「二人とも油断はしたらダメよ。何が起こるかわからないんだから、気を抜かないように」
だがそれは、すぐにそのフラグは回収された。そう話した瞬間、フェクトは城壁を突き抜け、吹き飛ばされたのだった。




