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剣聖少女 〜あてもない旅がしたいと願った少女の冒険譚、剣聖にもなれたので箒に乗って路銀稼ぎや旅を楽しみたいと思います〜  作者: 両天海道
1部-9章 剣聖は詠唱を唱えて戦いたい

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412話 おかえり


 突風、吹き荒れる風の中、その魔物は私の前に現れた。その圧倒的な存在感を放つ魔物は、風の鎧を身にまとい、まるで「精霊です」と言わんばかりの顔をしていた。

 見た目は、新緑色であり外見は女性の様なもの。一丁前に、胸などの大事な部分は、風の鎧でガードしている様だった。


「あなたが何者か知らないけど、ここで私の前に現れたってことは、殺される覚悟があるってことよね」


 問いかけるがその魔物から返答はない。ジッとこちらを見つめるだけで、何もしようとしない。まるで、先ほどのオーガを見ている様だ。


「あなたがその気なら私は好き勝手やらせてもらうわね。それで死んでも恨むなんてことをしないでよ!」


 地面を蹴り上げ一気に飛び上がる。剣を突き出し、一気に決めようとするが、そう簡単には上手く行かないらしい。

 風を巧みに操り、ことごとく剣の威力を相殺してしまう。あと一歩で攻撃が届きそうな所なのに、何とも歯痒い状態が続く。

 どんな攻撃を繰り出そうとも、彼女の鎧をどうにかしない限りは、私の攻撃は無意味ということだろう。


「上等じゃない! この私にそんな感じで挑むなんて随分と肝が据わってるわね。そんな戦い方で私をどう攻撃してくるのか楽しみだわ」


 口角は完全に緩みきり、自然に笑顔で話していた。

 今の所、彼女は反撃に転じる様子はない。風を操ることに集中しているのか、その場から動く気配もない。

 そんな時だった。あんなにも暑かった日差しは一変し、豪雨が降り注ぐ。

 あまりの変化に私は思わず、驚いた様子で周りを見ていた。そんな雨にプラスして、ゴロゴロと鳴る。


「こんな所で雷なんて絶対に嫌だけど……でも逃がしてくれるとは考えにくいんだよな」


 その言葉を裏付けるかのように、彼女は私から一切目を離していない。

 それに何だか、少しばかり強さが増した様な気がする。


「アリア油断するな! 攻撃が飛んでくるぞ」


 フェクトの叫び声で私は彼女を見る。フェクトの言った通り、彼女はいつの間にか攻撃モーションに移っていた。


「サイクロン」


 微かに、片言な言葉が聞こえてくる。その瞬間、私の真下から飛び上がる瞬間の龍の如く、サイクロンが私を襲った。


「――がぁぁっ!」


 地上から遥か高くに打ち上げられた瞬間、悲劇が私に襲う。

 腹部から一気に全身に痛みが生じる。そう気が付いた時には、すでに地面に叩きつけられたあとだった。


「アリア!!」


 フェクトが私の名前を叫んだ。だが私は、それに応えることはできそうになかった。

 全身が痺れ、痛みで意識は朦朧としている。まるで、最初からこうして私を殺すように仕組まれていた様にも思えた。


「たかが魔物風情がアリアにそこまでして良いと思うなよ!」


 地面にナニカが叩きつけられ、その直度もう一度地面に叩きつける音が聞こえてくる。

 その音のおかげなのだろうか。私は何とか意識を保っていた。


「アリアしっかりするニャー! たかが魔物に殴られた程度ニャー、死ぬような怪我ではないよ」


 優しい声が私を包み込むかのように、聞こえてくる。ポーションが全身を駆け巡っているのを感じる。

 痺れていた体、痛みで動けそうになかった体。それが嘘のように引いていく。


「助かったよ、まさか追加で現れると思ってなかった」


 何とか体を起こし、ナズナの介助ありきで立ち上がる。そして、フェクトは魔物をひたすら殴り続けていた。

 風の鎧など意に介さず──馬乗りになって殴っている。

 そんなフェクトを引き剥がそうとしていたのは、全身黄色の少年のような見た目の魔物。

 引き剥がそうと必死に引っ張っているが、全くビクともしておらず、何だか可哀想になってくる。

 ドシドシと殴る蹴るをするが、そんなことに興味も示そうとせず、ひたすらフェクトは風の魔物を殴り続けていた。


「ヤメロヨ、ヤメテクレ」


 そんな言葉がフェクトに届くはずもなく、ひたすら殴り続けるフェクト。

 仲間である私たちでさえ、近づくのですら勇気がいるほどだ。

 それでも私は歩き出し、雷の魔物を払いのけ、フェクトの肩を触った。


「もう充分だよ、もう離して」


 優しく言うが、それでも止まろうとしない。これも全て私が原因のことも分かっていた。フェクトの倫理的なナニカが吹っ飛んだのもわかる。それでも私は、フェクトの拳を止めた。

 こちらを睨みつけるフェクト。私が誰だか理解できていないのか、今にも反撃を繰り出して来そうな雰囲気を醸し出している。


「フェクトもう終わりだよ、私はこの通りピンピンしているからそこから早く退いて」

「……」


 無言のままこちらを見てくる。両腕とも、今は私が抑えているが、凄まじい力でそのまま押し切られそうになってしまう。


「フェクト私を見なさい! 私が誰だかわからないの?」


 より険しい顔でこちらを見てくるフェクト。それに伴い、相当な力で振り解こうとしているのもわかる。


「正気に戻した方が良さそうだね」


 腕をパッと離す。その瞬間、少しばかりバランスが危うくなった所を、頭を後ろに引っ張り下ろした。

 悲痛な声を上げるが、どうやらまだ正気には戻っていないらしい。

 顔面に一発、拳を打ち込んだ。それでも正気には戻っていないらしい、そうなったらやるべきことはただ一つだ。


「剣聖たる所以の一撃、仲間を正気に戻すため、そのためならば覚悟はとうにできている。剣聖剣技・正突(せいけん)


 今日一番と言って良いほどの声を出すフェクト。それでもまだ正気には戻っていないようだ。


「いや、戻ってるから! ナズナ、アリアを止めるんだ! このままだったら俺は殺されかねないぞ!」

「そっちの方がイチャイチャできるからな〜どうしよっかな?」

「そんなバカなことを言ってないで早く助けてくれよ! アリアの目がガチなんだよ」


 フェクトはナニカを叫びながらその場から逃走を図るが、全くもって無意味に近い。


「何逃げようとしているの? まだ正気に戻っていないんだから早く正気に戻らしてあげないと」

「変な扉をあけんじゃねぇ! 俺が悪かったから許してくれ、アリア!」


 そんな言葉がアリアの足を止めさせた。そうしてにこやかな笑顔でアリアは言うのだ。


「おかえり」


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