401話 許されないこと
冒険者は、今までの鬱憤を晴らすかのように剣を振るう。未だにベロベロに酔った兵士たちでは太刀打ちすることなどできなかった。
「冒険者風情が調子に乗るな!」
回復術師の魔法陣が兵士たちを包む。次の瞬間には、先ほどまで酔っていたとは思えないほどに、元気な姿で帰ってくる。
「一気に押し返せ! 我々の力を冒険者にわからせてやれ!」
兵士たちは剣を上げ、歓声を上げた。一気に状況が一変するのがわかる。それだけ、兵士たちの士気の高まりを感じていた。
先ほどまで押していたとは思えないほどに、一気に盛り下がる冒険者たち。完全にレベルの差を感じてしまう。
「反乱を起こした連中は全員早く捕えろ! 拷問に掛けて我々の恐ろしさをより深く刻ませろ」
それを一般市民がいる所で、そんなことを言う彼らにドン引きだ。
おそらく、それは顔に出ていただろう。そのせいか、より睨まれているのを感じる。
「剣聖様、それに管理者様。あなたたちはこの件にこれ以上手出ししないでいただきたい。これは、この国の問題ですから」
先ほどまで、いい笑顔をで話しかけてきていたとは思えないほどに、怪訝な顔をする指揮官。なんとも複雑な気分になってしまう。
横目でイデリアを見ると、納得していないのが伝わってくる。それは、指揮官にも伝わっているのかより怪訝な顔でこちらを見る。
「誰に向かってそんなことを言っているの? 私たちが誰だか承知の上で発言しているのよね」
「それはもちろんです。ただ、この問題には首を突っ込ませないと言っているまでですから」
次の瞬間、指揮官は吹き飛んでいた。少しばかり離れた民家の家の壁にめり込んだのだ。
放ったのはもちろん、イデリアだ。イデリアはキレている、完全に制御の効かない化け物へと変貌するのも時間の問題だろう。
「私たちに向かってその口の聞き方はなに? せっかくいい気分で酒を飲んでいたのに台無しよ」
「それはそうかもしれないけど、少しばかり落ち着いてくれた方がいいかな」
矛先が私に変わるのがわかる。ギロッと睨む目つき、完全に獲物を刈り取る目をしていた。
それにより、ようやく事態がおかしいと気が付いたのか、市民は逃げ出していた。
「ようやく邪魔者はいなくなった、私が相手をしてあげるから掛かってきなさい、こんな機会は滅多にないわよ」
目の色を変えて襲いかかってくる兵士たち。その援護にとその後ろから魔法攻撃が放たれていた。
だがそれはイデリアの前では無意味同然だ。指を鳴らせば、深刻な被害を生み出せるほどの魔法攻撃を放てる。それでいて、防御の方も付け入る隙もない。
「インフェルノ」
街中で放ったらダメだと直感でわかるほどの力が、兵士たちを襲う。
一瞬で宴の会場は、地獄へと生まれ変わる。
「私を楽しませなさいよ、それだけの強さがあるから冒険者をいじめているのよね」
高らかに笑うイデリア。その片手にはエールの入ったジョッキーが握られていた。
そんな時、私はあることに気が付いた。冒険者の多数と、領主の姿がどこにもない。
逃げたにしても、領主邸以外逃げられる道はない。冒険者がそれを付け狙うことぐらい把握しているはずだ。
それでも、冒険者と領主の位置は全く違う所に気配が感じられた。
「なんで、冒険者は私の仲間が泊まっている場所を目指しているのかしら?」
嫌な予感がする。どんな対応をした所で、冒険者はただでは済まないのは確定だ。
今の二人は、すこぶる機嫌が悪い。それなのに、無理に起こされたら、どうなるかわかったものではない。
「とりあえず私は領主邸かな。何をやらかしてここまで冒険者の反感を買っているのかがわからない」
イデリアの方は、私が止めに入れば逆にややこしくなりそうだ。
ここは自然的に収まるのを待とう。私は、地獄へと変わった道を一気に走り出す。
そうして領主邸の結界を無理やり突破し、領主邸に到着した。
「領主さんいらっしゃいますよね、剣聖アリアです。少しでいいので、お話でもしませんか?」
私はなるべく優しそうな声で喋る。少しでも警戒心を解いてもらわなければ、この話は次に進まない。
ドアが勢いよく開くと同時に、剣が飛んでくる。それを軽く避け、私は歩みを進めた。
「こっちに来るな、悪魔! お前のせいで、せっかくの式典が台無しになった、その責任、どう落とし前を付けるつもりだ!」
「私はただ、ギルドの依頼の件を確認しようとしたまでですかが? 実際に冒険者は蔑ろにされていましたよね」
「それの何が悪い! 冒険者は金のためなら大体なことをやってのける連中だ、だからそんな奴らを落としめただけだ」
なんとも正直者だ。思わず吹き出しそうになってしまう。
「随分と正直に言うんだね、君は冒険者に昔何かをされたの?」
「両親は、冒険者にとあるクエストを依頼した。それが失敗に終わり、うちは大損した。そのせいで、今はだいぶ小さな家に住んでいるだぞ」
目の前に聳え立つ家は、なんとも豪邸そのものである。私が所有している家よりも、その何倍にも広い家だ。
「どんな家に住んでいたのよ。今の家でもお掃除が大変そうで嫌だけどね、それよりそんなしょうもないことで、冒険者を蔑ろにしたの?」
「うちはそれで、財産の半分を失う失態をしたんだぞ! 王族に献上する魔石を彼らは取ってこられなかった」
よりにもよって魔石か。そんなことを思ってしまう。おそらく相当な難易度を要するものを要求したのだろう。
おそらくそれは、今のこの国でもそれを何遂げられる存在はいないだろう。
「ちなみにどんな魔石を?」
「王族に見せるのだぞ、そりゃドラゴンに決まっておるだろ。それも、ただのドラゴンではない、雨の中に隠れ、雷の力を発揮するドラゴンだ!」
うん、どこかで聞いたことがあるやつだ。それを依頼したのかと思うと、当時の冒険者が不憫でならない。
なんとも、ダメな領主だと私は思ってしまう。
「もしかしてこれのこと?」
私は消滅した瞬間、落ちていく魔石を取っていた。その魔石には凄まじい力が込められていた。
「なぜそれを持っておる? それをこっちによこせ!」
「バカなことを言わないでくれる? 命懸けで戦ってそれで負けて、危険と隣り合わせな冒険者に対してお前らはクズの行いをした」
私は決してそれを許さない。




