398話 無駄じゃない出来事
灼熱に燃え上がる体。その力の源は、これみよがしに見える中心の核。そこを砕けば、コイツは終わる。
「魔神族にも似た性質を持つお前と戦えるのを俺は誇りに思う」
結界を貫通させる力を持つ拳。そんな拳と今から戦えると思っただけで、俺は笑ってしまう。
飛んでくる拳。その一撃は重く俺にのしかかってきた。それだけじゃない、燃え盛る拳は二次被害も発生させていった。
「拳で殴ってきて、追加効果で焼き殺そうってか? もう少し、相手を見極めることだな」
いくら結界を破ったとはいえ、俺には届かない。それだけの厚い壁が俺たちの間にはある。
雄叫びを上げ、向かってきてもそれは決して変わることがない事実なのだ。
「打ち込みは素晴らしいが、簡単にあしらわれるようでは全く持って意味なんてないぞ」
短気という言葉がコイツにはとても似合う、そんなことを思ってしまうほど、一直線でバカ正直に殴り込んでくる。
完全にあしらわれているということを、理解していないということが伝わってくるのだ。
これでは、先ほどの強者感は風前の灯だ。だが、それを言ったところでコイツには通じない。
ただ、ここで終わらすにはもったいないのもまた事実。ちゃんと磨けば、良きライバルにでもなれる存在。
でもコイツは、所詮は魔物に分類される。魔法生物の一種とも呼ばれるが、低脳なのは事実だ。
どこかの世界には、強いイフリートがいるのではと考察されているのを聞いたことがある。その存在は、魔法使いの右腕として戦いをサポートしてくれるではなんて言われていたのを思い出す。
そんな存在だったらと、彼らは希望的な声を上げていた。
「いつまでも、バカすか殴りを続けているようだけど、全てあしらわれているのわかってる? もしかしてムキになって決まるまでやろうとしてる」
図星だったのか、少しばかり動揺が動作にでる。その瞬間、拳が炸裂した。
勢いよく地面に叩きつけられるイフリート。すぐには立ち上がることもできず、その場でうめき声を上げた。
「俺は、今からあの火山を止めなきゃだからやっぱり倒すわ」
右手に魔弾を生成させる。だんだんと大きくなり、それ以上の速度で強さもより上がっていく。
「今は土の上に倒れてるからまだ燃え移ってないけど、厄介のことになる前にさようなら」
激しく爆発するイフリート。その衝撃は凄まじく跡形もなく消えていった。
そうして戦いは終わる。辺りを見渡すと、奥の方では激しい戦闘が繰り広げられていた。
……
フェクトがイフリートと戦っている頃、アリアとナズナもまた戦闘を繰り広げていた。
「イデリア? 何やっての、私に攻撃するなんてどうしちゃったの?」
ライトニング・ビットが次々と私を襲う。私を正確に陥れようとするのがわかるほどには殺意があった。
それに火山地帯だというのに、なぜこんなにも重装備の軍隊がいるのだろうか。
ナズナが相手をしているが、どこかおかしさがあった。
「マグマがすぐそこまで来ているのに何をされたのよ」
困惑した様子で私はイデリアに問いかける。そんな言葉なんか聞かなかったかのように、フルシカトを決め込んでいた。
「ナズナ、一気に片付けて構わないから彼らを吹き飛ばして上げて!」
「わかったニャー、ここまでの重装備を着てたら死ぬことはないニャー」
次の瞬間、私の言葉通りナズナは行動をした。次々に山の麓に突き落としていくナズナ。
下手したら死んでていてもおかしくない速さだが、それも今は仕方ないことだ。
それよりも私は集中すべきことがある。それは、イデリアだ。
「イデリアが操られているなんてどうなってのよ」
でも気配を見るに操りというよりかは、別のナニカを感じる。それは、軍隊の方も同じである。
それになんだか意識は朦朧としているのが伝わってくる。
「ソード・インパクト!」
真剣だがイデリアなら耐えられるだろう。そう信じて放つ剣技は、勢いよくイデリアを突き落としていく。
その際、悲痛な叫び声すら聞こえず何処となく、不気味な感覚だ。
「イデリアは俺に任せて上に行け! 何か反応がある」
落ちていくイデリアをキャッチしたのは、フェクトだった。
優しく包み込み威力を殺す。それもあってか、イデリアは大した怪我はないようだ。
「ナズナは下で待機してて。だいぶしんどいでしょ、無理はしなくて良いから」
獣人族は比較的穏やかな気候の中で暮らす種族だ。急激な暑さや寒さで体調を崩す場合も多い。それに何より、最悪の場合死に至ってしまう。
「この先、もっと暑いから気を付けるニャー」
そう言っているナズナの顔は今にでも倒れそうだった。そんな時だ、私はあることに気が付いた。
「もしかしてこれって」
私は自分の考えが正しいのではと心の中で小躍りしてしまう。それだけ私は、浮き足立っていたのだ。
自身の魔力を全身に勢いよく行き渡らせる。そして私は深く深呼吸をして、手を思いっきり叩いた。
勢いよく吹き出す血。その場に倒れそうになるが、私は踏ん張りその最期は見届ける。
その瞬間、一面地獄模様だった景色は一瞬にして綺麗さっぱり消えていく。
そして、その奥で何やら苦しそうにする存在に私はニヤリと笑う。
剣聖として、お前をぶった斬ってやる。火山が噴火するかの如く、私の中で噴火した。
「剣聖たる所以の一撃、汝の罪を我が裁こう。汝がやったことは人々の平穏な暮らしを破壊するもの、剣聖の名において裁きを下す。剣聖剣技・ソードインパクト!」
高速移動で魔物前に姿を現し、その罪を体に刻み込んだのであった。
一瞬の躊躇もなく粉砕した。跡形もなく消え去った時、山は収まり、静かな自然へと戻っていくのであった。
「まさか幻想を現実に変えるなんて無茶なことを考えるわね」
そんな魔物がいることに私は目を見開いて驚いてしまう。だが、それは全てあのドラゴンとの戦いがあったからだと私は無駄じゃない出来事に感謝するのであった。
 




