36話 フェクトの過去
ダンジョンを出たあと、しばらく無言の時間が続いた。何をどう聞けばいいかわからなかったからだ。
今、この状況で世間話するにしてもぎこちなさすぎる。
だが、その状況を打開したのは、フェクトの一言だった。
「俺はな、あの村を壊滅させる前ある国をこの世界から消したんだ」
あまりにも、さらっと言ったため、聞き流しそうになる。
「え、どういうこと?」
「言葉のまんまさ、戦争国家インベイドを崩壊させた」
戦争国家インベイドとは、昔から侵略戦争を仕掛けていた国の名前だ。
その国は、犯罪大国とも言われており、そこには魔法界やギルドですら設置できなかったほどの国だと言われていた。
その国は、ある魔族によって滅ぼされたと師匠からは聞かされていた。その魔族は、討伐されていると言っていたはずだ。
「国を潰したら魔法界とか黙ってないはずでしょ」
「いや、何もなかった。アイツらからしてみても、あの国は厄介な存在だったってことだろうよ」
確かに、あの国をよく思わなかった奴らは多いはずだ。というか、犯罪を犯している奴ら以外、あそこが好きな国はいないと考えるのが妥当である。
「それでな、俺は国を滅ぼしたあとあの村に来たってわけだ」
「それでさっきの、ステイっていう子と出会ったのね」
フェクトは、昔の記憶を呼び覚ますかのように、ゆっくりと話し始めた。
「ステイは、あの村にいた結界術師より弱かったのだ。だから、奴隷と変わらない扱いを受けていた」
私の訪れた村もそうだった。悪に堕ちた魔法使いがいたから、思い当たる節がある。
それが今でも、続いていたということだ。それが、五十年前にもなると、より酷かったと容易に想像できる。
「そんなとき、俺が現れたんだ。そいつらとは、何度も遊んださ」
「そして、当時の剣聖がきたのよね」
「剣聖と戦った時、俺はかろうじて勝ったが致命傷に近いダメージを負ったんだ」
フェクトは、その時その傷があったであろう腹部を摩っている。
「そんな時、俺を封印する提案してきたやつがいたんだよ」
「それがステイだったのね、あなたに近づいた目的は復讐のためってことね」
「そうだったみたいだな」
フェクトは、どこか悲しげに言う。私の根拠のない憶測にはなるが、フェクトを封印すれば村人からの評価が上がると思ったから、それに承諾したのであろう。
「俺は、それに承諾した。そして、封印されたってわけだ」
そして、呪いのように村人たちが次々と死んでいったというわけか。
私は、この段階で分かったことがあった。
魔力っていうのは、人それぞれ量が異なるのだ。それを彼女は利用した。
ステイは、村人を道連れにするなら、人の身では負荷が耐えられないようなものが必要だ。
それが、弱ったフェクトだったわけだ。
だが、弱っているとはいえ魔神である。ステイは、それは喜んだことだろう。
村人たちを、富、名声などで動かしたのだろう。村人たちにとっては、このうえない提案であったはずだ。
そして、ステイの思惑通りフェクトが封印されその代償を、関わった全員が死亡するという方法で、復讐を果たしたのであろう。
「そうだったんだね、まぁ彼女の願いが叶ったのならね」
「そうだな」
そうして、ダンジョンを離れ近くの国を目指していく。ここからだいぶ先に、国があるのだ。
そこが、このダンジョンを管理しているため報告しなければならない。
あの村の騒動や、国が消失した一件からここの辺りは、あのダンジョンがあっただけで特に何もないのだ。
それだけ、不幸な土地として認識されているということなのだろう。
こういった話は、旅をしなければわからないことだ。それも調べるのもいいと思う出来事だったとしておこうと思ったのだ。
そうして、箒は緩やかに飛んでいく。
それから数週間経ったある日のことだ。まだ、ほんの少し夏の暑さが残る頃、いつものように箒で飛んでいた時だ。
「アレなんだ?」
フェクトが、下を見ながらそんなことを言ってきたのだ。
黄金に輝くものが見える、風になびかれとても綺麗だ。思わず、見入ってしまうほどである。
「あれは小麦だよ」
「小麦ってあれか、パンの材料のやつか。あれ、美味しいんだよな」
収穫の時期は、そろそろ終わる。それのラストスパートに向けて刈っていた頃だ。
「こんにちは! 今年の小麦はどんな感じですか?」
急に声をかけられたのが原因か、びっくりして驚きお爺さんが尻餅をついてしまったのだ。
私は、すぐさまお詫びする。
だが、お爺さんは笑っていた。
「こんなの平気さ、そんなことより旅人がくることが本当に珍しくての、それに今年の麦もいいものができた」
「それはよかったです、お体には気をつけてくださいね」
「ちょっと待ってて」
お爺さんは、老人とは思えない軽やかな動きを見せた。
「これを持って行くといい、近くにある国の門番に見せたら、楽に通してくれる」
「わかりました、ありがとうございます」
そうして、お爺さんに見送られながら国を目指すことに。
それにしても、小麦を持っていくといいことって何なのか、そればかり考えてしまっていた。
フェクトも、不思議そうにしていたのも印象的だ。
「こんにちは」
「旅人ですね、こちらの用紙に必要事項をご記入のほど、よろしくお願いします」
門番が、テンプレ通りにそそくさと渡してくる。
「あ、あの、ちょっと先にある小麦畑から小麦をもらったのですが」
門番が突然、用紙を取り上げすぐさま国に通してくれたのだ。
意味がわからず困惑していると、その門番兵が教えてくれたのだ。
「その小麦、認められた人にしか渡してもらえないのですよ」
認められた人? 何をいっているのかわからなかった。それを察したのか、すぐさま付け足してきた。
「あ、説明不足でしたね。あのお爺さんは、ギルドマスターなのですよ」
あのお爺さんが、ギルマス? 確かに言われてみたらそうだとも思えた。
アレだけの軽やかな動き、昔何かしらをしていてもおかしくない動きだった。
「そうだったのですね、教えていただきありがとうございました」
「良いご旅行を楽しんでください!」
そう言われて国の中に、入るのであった。




