35話 幻術の魔物とフェクト
二階層は、変わらず遺跡の中を表しているようだ。
少し歩いた先にある小さな空洞、冒険者の置き忘れたであろう使いかけのコップや机なんかが置かれていた。
慌てて逃げたのがわかる。おそらくパニックて転移を発動したのだろう。
「魔物の気配は相変わらずだね」
「それもそうだが、なんかきな臭い奴もいる感じもする」
きな臭いやつ……正直言って私はそこまではわからなかった。
だが、フェクトは先ほどよりも警戒心が強まっていおり、恐怖心も感じられるような気がした。
動物に例えると、毛が逆立っているようなものだ。
「大丈夫? 一回休憩する」
私は、心配になって声を掛けた。フェクトは、微笑み掛けえてくれるだけで、さほど余裕がないようにも見えた。
私の憶測にはなるが、恐怖を覚えているのは魔族ではない。魔物だと、いい加減ではあるものそう思ったのだ。
「今から魔物がいる所に出るけど、私が対処するわ」
そう言って、私は魔物の目の前に立ったのだ。
「じゃあ、殺りますか」
オーク、オーガ、それにデーモンか。なんとも先ほどとは違って、どれも強さは格段に上がっている。
興奮してか、息が荒くなる。今すぐに、全部を斬りたい。
そう思った頃には、体は勝手に飛び出していた。オークは悲鳴を上げる間もなく、気づいた時には魔石に変わっていた。
オーガの顔もデーモンの顔も強張っている。
「攻撃してこないのなら、私から行くよ」
ボソッと呟く。
次の瞬間には、オーガの頭上だ。そのまま体を真っ二つにしていく。
仲間の屍をもろともせず、棍棒を振りかざすオーガを見て、それでいいと思う。
ただ、そんなことをしても意味はないのだけれども。
デーモンは、いやらしいものだ。オーガを囮にして、攻撃を仕掛けてくる。
黒く短い三叉戟を投げて攻撃してくる奴がほとんどだ。
「逃げられないわよ」
武器を捨てて、何か魔法を使おうとしたのはわかる。ただ、そんなものでは、私の体に傷はつけられないのだ。
「こっちは、終わったから魔石拾うの手伝って!」
「あぁ、今行く」
戦っている間も、何回か顔色を窺っていたがなんとも暗いのだ。朝のテンションは、どこに行ったのか教えてほしいぐらいだ。
「これを拾ったら休憩しよう! お腹すいたしね」
「――わかった」
そして、料理を簡単に作りご飯を食べる。
それで少しは、改善してくれたらいいがそれではうまく行かないみたいだ。
やはり、その原因を取り除くしか方法はないであろう。
そうして、休憩を終えた私たちはまた探索を始める。魔物たちも、恐怖の方が優っているのか、ほとんどの魔物の気配が消えている。
そして、私はようやく気がついたのだ。
「フェクト、幻術使いが怖いのか」
「あぁ、そうだ。あのなんて言ったらいいんだろうな、記憶を無理やり見られてる感じが、苦手でな」
「まぁ、倒せなかったら代わりに倒すから心配しなさんな」
少し元気を取り戻した様子が、すぐにわかる。なんとも顔に出やすいと、思った。
その後、ダンジョン内で霧が発生する。
すなわち、幻術のあいつがくるということだ。またフェクトは、落ち着きがない感じだ。
そして、現れたのだ。
「やぁ、師匠!」
首を即斬り落とす。そんな子供騙し、私には通用しないのだ。
対するフェクトの方は、女性だった。髪が長く青い髪色だ。
フェクトの顔は、どこか知ってたと言いたげな表情を浮かべている。
フェクトは、彼女が出てくるのをわかっていた上で嫌だったのか。
そう思ってると、フェクトが話を始めたのだ。
「やはりあなたか、ステイ」
「あなたは、とうとう解き放たれて今は使い魔ですか」
「あぁそうだ。あの日、ステイたちに封じ込まれてから五十年という月日が経った」
フェクトは、ステイと呼ばれる女性と喋っていた。結界術師だ、それも相当強い力を感じる。
幻術とは、思えないほどだ。
「フェクト、あなたは私を救ってくれました。あの村で、奴隷のような扱いを受けていた私を……」
「そんな話、もう覚えてねぇよ。でもなステイ、俺を封じ込めて、村の奴らを道連れにするとは思わなかったよ」
ステイが、奴隷のような扱い? 正直信じられなかった。どう考えても、結界術師としてのレベルは相当な者だ。
あの日記には、そんなことは書かれていなかった。
でも、これはフェクトから作り出された幻術なのだ。
「あれでよかったのよ。フェクト、その彼女を大切にしなさいね」
「――うっせぇ」
そしてステイと言う女は、持っていた杖で自分を刺したのである。
そして、幻術はやがて消え辺りはすっかり霧が晴れていた。
「さっきの話は、また落ち着いて話したくなったら聞くわ。それより今は魔族の方、行くよ」
「わかった」
そうして、第二ボス部屋を開けた。中には、やはり魔族がいる。
先ほど同様、ボスとして立ちふるまっているようだ。
「こっちは、気になることができてお前に構ってる時間はねぇ」
「それは、あの世で聞いて……え? マジかよ」
心臓を貫き、すかさず首を斬ったのだ。
ほんの一瞬だけ、まだ会話ができるなんて、まだ強い方だととわかる。
そして三階層。さっきとは比べ物にならないほどの強さを感じる。私が戦いたい所だが、流石に経験ささないことはまずいことだ。
「フェクト、戦いなよ」
目の前にいる魔族、相当強い。最近あった魔族中では一番だろう。
「魔神様が、よりにもよってそうなのですね。……覚悟は決めました、あなたを超えます」
「そうか、頑張れよ」
次の瞬間、拳と拳がぶつかる。凄まじい衝撃が、こちらにまで伝わってくる。
だが、それはどうやらダメみたいだ。
魔族の腕は、ぐちょぐちょだ。完全に片腕がイカれていた。
「まだ始まったばかりだぜ、たった一撃で終わりなのか」
「それでも、構いません」
必死な顔で向かってくる、魔族を私から見たフェクトはこう見えていた。
挑んできた彼に対して、敬意を払ったと思ったのだ。
「魔武式・高天回し蹴り」
体にあった衝撃は、はかりしれなかったであろう。上半身の首から下が肉片すら残らなかったのだ。
「お疲れ! ダンジョン出たら一休みしよう」
「そうだな、外の空気が吸いたいぜ」




